ハリーの心臓
『エンゼル・ハート』(1987) 監督アラン・パーカー
廃刊運動まで巻き起こったらしい小説「堕ちる天使 Falling Angel」(1978)。この小説を元に映画化されたのが『エンゼル・ハート』。
あまりにも古く若い人にはピンと来ないかもしれませんが、あのクリストファー・ノーランが「メメント」DVDの中でのインタビューで、影響の受けた一本として『エンゼル・ハート』を挙げていました (「メメント」という映画自体がもう20年以上前で古々ですが)。
オープニング、どこからか "ジョニー…ジョニー"という囁き声が響く…死体の転がる街。
ここは 映画の舞台となるNYやルイジアナなのか?私は違うと思います…。
●1955年 ニューヨーク
私立探偵のハリー・エンゼルは、弁護士ワインサップから仕事依頼の電話を受けます。
依頼主と会うためハリー・エンゼルはハーレムへ。
依頼主のルイ・サイファー
戦前に人気歌手であった"ジョニー"という男を探して欲しいというのが依頼。ジョニーは戦争に従軍後、精神を病んで精神病院に収容されているはずであったという。ハリー・エンゼルは依頼を快諾。探偵もののド定番 ザ人探し!
依頼主ルイ・サイファー「前に私と会った事が?」
ハリー・エンゼル「さぁ別に...」
開始早々10分程度で伏線テンコ盛りです。伏線を中心に辿って行きます。
依頼主 ルイ・サイファーに会う前に、ハリー・エンゼルは牧師による"天国の門"についての説教を聴き、夫が頭を撃って自殺したという部屋を見ます。その血を黒衣(喪服)の奥さんがゴシゴシ掃除してる...。
この時からハリー・エンゼルはちょくちょくこの黒衣(喪服)の奥さんを見る事になります。――そして回る換気扇(監督曰く、死のイメージだとか)。
BGMとハリー・エンゼルの口笛がシンクロするという奇妙な演出…。
ハリー・エンゼルはジョニーが入院していたという病院へ向かいます。ジョニーは12年前の1943年の12月に転院している事が判明。担当医はDr.ファウラー。
ハリー・エンゼルはDr.ファウラーの家を突き止め家探し(もち違法)。大量のモルヒネと聖書に銃...。
12年前の1943年 整形によって顔を変えた歌手ジョニーはケリーという男と若い女に病院から連れ出された。Dr.ファウラーは彼らに買収され、その後もジョニーが入院しているようにカルテを偽装していたことを告白します。
ここで換気扇が回りだしなぜか心臓の鼓動が鳴り始めます...ドクンドクン。冒頭の囁き声が…但し、聞こえて来る名前は "ジョニー"ではなく"ハリー"。つまりこの場所って、実はオープニングで出てきた街じゃね?
そしてエレベーターのドアが開く。ハリーは今まさに開かれた門の前に立つ。これは現実なのか幻覚か...それとも記憶か (う〜ん...おそらく幻覚だと思います)。
車中ハリーが口笛で吹いてた曲が... 今度はピアノでの BGMとして流れます。
再びハリーがDr.ファウラーの家へ向かうと...。自殺。
依頼主ルイ・サイファーに途中報告するハリー。
ジョニーは1943年から12年間行方知らずだ という報告に ルイ・サイファーは「通り道に必ず後を残す」と更なる捜索を求めます。
ここでルイ・サイファーのしている指輪が五芒星《ペンタグラム》だと分かる。(正確には五芒星ではない)
なぜかハリーはルイ・サイファーと最初に会った部屋へ...
そこにあったものは...
そしてハリーの前に現れる黒衣(喪服)の奥さん...
再び鳴る心臓の音...これはう〜ん…現実(での幻覚)のはず!
しかし正体(顔)は分からず…。
ハリーはセフレ記者からジョニーについての情報をもらいます。エロいシーンと並行して説明セリフを言うので、気が散って気が散って言っている事が全く耳に入って来ない…... まとめると――
● ジョニーは売れっ子大物歌手だった。
● ジョニーにはギター弾きのトゥーツという友人がいた。
● ジョニーにはマーガレットという婚約者がいたが別れた。
● マーガレットは呪いに凝っており"魔女"と呼ばれていた。
● ジョニーにはイバンジェリン(黒人女性)という愛人がいた。
(ハリーはここに出てきた人、全員に会いに行きます)
ここで再び突如 ハリーの脳裏に黒衣(喪服)の奥さんが...回る換気扇。
部屋の一室、悲鳴と共に心臓の音も再び...ドクンドクン ―― これは記憶。
● ルイジアナ(大雑把で言うところの南部・田舎)
ハリーの護身用の銃 Smith & Wesson Model 38。
マーガレットを尾行中、ハリーの口笛曲...ピアノが再び流れる。("for colored patrons only"に堂々と座るハリー。南部出身ではないと 一発で分かるシーン
ジョニーの婚約者"魔女"と呼ばれていたマーガレットを訪ねるハリー。
ハリーはピアノを軽く弾く…曲は例の口笛のメロディと同じ(マーガレットの前でその曲を弾くとは…笑)。
マーガレット「ジョニーはもう死んだわ 12年前に」
マーガレットの着けているネックレス…逆さ五芒星《Devil's Star》。依頼主ルイ・サイファーのしている指輪も実は逆さ五芒星。
ジョニーの愛人イバンジェリン(黒人女性)のもとを訪ねるハリー。
イバンジェリン(黒人女性)は8年前に他界。ハリーは幼い息子を連れたイバンジェリンの娘 エピファニー(リサ・ボネット )に出会う。
ジョニーの友人だったギター弾きのトゥーツのもとを訪ねるハリー。
● ジョニーの愛人イバンジェリン(黒人女性)はブードゥー教の巫女。
● イバンジェリンの娘エピファニーも巫女。
● トゥーツの金歯にも逆五芒星の印。
● ブードゥー教の他に悪魔崇拝の存在。
ハリーはトゥーツともみ合う。落ちて砕ける天使像。剃刀で手を切られるハリー(映画お約束の聖痕描写)。
回り始める換気扇…またハリーの幻想《記憶》が始まる。回る換気扇はおそらく記憶が甦り始める合図。ハリーの意識が飛んでいる状態。そして――
降りて来るエレベーター。黒衣(喪服)の奥さん… これは幻覚・幻想
そして座っている黒衣(喪服)の奥さんの前にあるのは電気椅子!!エレベーターの降り行く先は処刑場なのだ。ここでもやはり黒衣(喪服)の奥さんの正体(顔)は分からず。
次の日、ギター弾きのトゥーツは殺された(切られた性器を口に入れられて)と知るハリー。
ハリーは鏡で自分の顔を見ます。再び幻想と蘇る記憶の断片。
降りるエレベーター(幻想) 部屋の一室 帰還兵の姿…鮮明になり始める記憶。
ここで記憶と幻想が初めて同時に出て交差します。つまりエレベーターが下に降りて行くと共に記憶も徐々に蘇るのだ。
そして再びマーガレットの家を訪ねると…。再び鳴る心臓の音。
BGM…例によってハリーの口笛曲のピアノが静かに流れる。
依頼主ルイ・サイファーに二度目の途中報告。
ジョニーが昔の知人を殺し回っているというのがハリーの答え。容疑が自分にかかってくる事を恐れるハリーは
「金を貰ってもこのままだと電気椅子の予約金になる」と泣きを入れる。
エピファニー(17)はジョニーの娘と判明。
そしてFuck ――
体を交わらせたまま、エピファニーの首に手を掛けるハリー!絶叫する彼女。我に返ったハリーはすんでのところで手を放します。
この時、雨漏りが血に変わり大量に降り注ぐ!明らかに幻想 。
そしてハリーが吹く口笛が、自分が知るはずもないジョニーの曲だと判明…
ハリーは、殺されたマーガレットの父親イーサンを訪問。
このイーサンこそが、12年前の1943年 Dr.ファウラーを使い、整形で顔を変えたジョニーを病院から連れ出した男と判明。
ここで今までのネタ明かしが一気に始まり、超情報過多 ――
● ジョニーとマーガレットは黒魔術にのめり込んでいた
● ジョニーは呪文で悪魔を召喚し自分の魂を悪魔に売りスター歌手になった
●次第に命を惜しみ出したジョニーは古文書で悪魔を出し抜く方法を発見
● その方法(儀式)にはジョニーと同い年の生贄が必要。その人物の魂がいる
● タイムズスクエアで見つけた帰還兵をジョニーは生贄として選んだ
● ホテルの一室で儀式は行われ ジョニーは呪文を唱え帰還兵の心臓を食った
儀式が行われた時(記憶)、生贄の血をぬぐう黒衣の女はマーガレット
● ジョニーは帰還兵になり替わろうとした。その直後、戦争に招集され記憶喪失となって帰還
● 負傷し記憶の無いジョニーは顔を整形後、マーガレットと父親イーサンによってタイムズスクエアへ置き去りにされた
● 生贄となった帰還兵の認識票はマーガレットが持っている
その生贄になった帰還兵の名はハリー・エンゼル……
ジョニーがスターになるため魂を売った相手ルイ・サイファー(悪魔)
ここでハリー(ジョニー)の記憶のフラッシュバックが起こります。
Dr.ファウラー、マーガレット…ギター弾きのトゥーツ、そしてマーガレットの父親を殺した記憶、そしてジョニーの娘 エピファニーの首を絞めた 記憶……
ただし、エピファニーだけはハリー(ジョニー)が絞め殺す寸前の所でフラッシュバックは終わります。つまりハリー(ジョニー)はエピファニーだけは、殺していなかった(殺せなかった)という事。
ルイ・サイファー(悪魔)はハリー(ジョニー)が落とした認識票と銃を拾うと姿を消します。
ハリーが部屋に戻ると…。既にルイ・サイファー(悪魔)がハリーの銃でエピファニーを始末した後でした。
こうして全ては悪魔の思惑通りハリー(ジョニー)は地獄に落ちるのでした。
小説では 娘 エピファニーだけでなく、Dr.ファウラー、マーガレット…ギター弾きのトゥーツ を殺したのも ルイ・サイファー(悪魔)です (マーガレットの父親だけは事故死?たぶん…)。ちなみにルイ・サイファー(悪魔) が付けていた逆五芒星の指輪は、Dr.ファウラーのもの。ルイ・サイファー(悪魔)が彼を殺した後に奪って付けていた――つまり死んだ者は、ジョニーを含め全員悪魔崇拝者という事。ハリーは違う。
そして――
ちょいちょいハリーの前に現れていた黒衣(喪服)の奥さんの正体(顔)はデニーロ、否 依頼主のルイ・サイファー(悪魔)でした。最初からサイファーはハリー(ジョニー)のそばにずっと付いて回っていたのですね… 死神のように。きっとハリーの記憶を呼び覚ますようスイッチの役目として黒衣(喪服)の奥さん(血をぬぐうマーガレット)として幻覚・幻想を見せていたのでしょう。ハリーは仕事依頼の電話を取った瞬間詰んでいたわけです――。
エンドロール、ハリー・エンゼルが乗ったエレベーターが到着…止まる
つまり映画冒頭の死体が転がる街はエレベーター(処刑場) のある所、いわば地獄の一丁目(と私は解釈しましたよ)。"ジョニー…ジョニー"という囁き声が響く街にやって来たハリーは"ハリー…ハリー"と呼ばれ 門が開くエレベーターに乗り降りて行き…
到着したエレベーターと共に最後は"ハリー…ジョニー"という囁き声と共に映画は終わるのでした。
ではまた。
※おまけ
本編ではカットされた弁護士ワインサップの死に方 (一瞬ハリーの記憶フラッシュバックの中で出て来ます)。つまりワインサップを殺したのもハリー。そしてハリーのセフレ記者もしっかり焼け死んでいるので…おそらく彼女も。ちなみに死体のそばでテンション上がっているのは監督のアラン・パーカー。
「ALECTO」のアナグラムが「TELOCA」だそうな。んなもん分かるか…。
ちなみに小説では、ジョニーによって心臓を抜き取られた帰還兵ハリーの身体(死体)はマーガレットの父親イーサンが飼っていた犬たちによって美味しく食べられたそうな..…哀れハリー。
映画では後半ニューヨークからルイジアナに舞台を移しますが、小説ではずっとニューヨークで物事が終始します。それを考えると小説版は「ローズマリーの赤ちゃん」(ニューヨークが舞台)や「エクソシスト」(ワシントンDCが舞台) にとても影響を受けているなと思いました(というかスゲー同じ)。近代化された街に脈々と潜む悪魔(崇拝者)…vs 無神論者。小説後半はジョニーが実は生贄になり殺されたんじゃないのか?と「ウィッカーマン」の要素も加味されて行きます(映画では一切描かれなかった部分) 当初、ハリー役にJ・ニコルソンが候補だったらしく (他にA・パチーノや、実はR・デ・ニーロも候補だったとか!) 映画そのものは「チャイナタウン」を意識したのかな?ちなみにルイ・サイファー役の当初の候補はマーロン・ブランド!奇しくもこの頃のミッキー・ロークはマーロン・ブランドの演技にそうとう影響を受けているのだな。
悪魔との契約で名声を得た人気歌手ジョニーの曲として流れる"Girl Of My Dreams" 実は Glen Gray & The Casa Loma Orchestra (1937)による既成曲。
パンフも引っ張り出してきたけどあまりにも美品で自分でもビックリよ。