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クラリス vs ハンニバル ②

 小説「ハンニバル」を読んだ人 誰もが驚いたはずです。なぜならクライマックスラスト80ページはクラリスとハンニバル 二人によるラップ・バトルならぬカウンセリング・バトルが始まったから!!そしてクラリスまさかの脳みそ食い!さらにレクター博士のおっぱいチュウチュウ場面になだれ込み、二人のセックス三昧の展開へと向かうからです。

 それは映画とは違う、全く常人の理解を超えている展開…だから、あ、ありのまま 読んだことをそのまま書くぜ!

 負傷したクラリスを隠れ家で治療するレクター。

" 香しいほの暗闇の中でクラリスは目覚めた。

「今晩はクラリス」「今晩はレクター博士」"

●目覚め

" クラリスは目覚めているようで目覚めてはいなかった。浴室は本当に快適で必要なものがすべて揃っていた。それに続く数日間クラリスはそこで長い入浴を楽しんだが鏡をのぞき込むことはしなかった。本来の自分から彼女は遠く、遠く離れていたのである。― 彼女とレクター博士との語らいの日々がつづいた。"

 クラリスとのたわいのない語らいが何日も続いたあと、やがてレクター博士は自分の少年時代のこと、ミーシャのことを自ら語り始めます。― そして

レクター博士はクラリスの腕に注射、催眠薬を射ち深い催眠状態にします。 すると催眠状態のクラリスの前に死んだ父親が現れます。父親とのしばしの再会ーそして別れ。さらに現実の父親との再会 レクターに導きられてドアを開けると―

" ツインベッドにはクラリスの父の骨が並べられていた。肋骨に長い骨が組み合わされそれがシーツに覆われていた。「いいかね、これがいまのお父さんなんだ。お父さんの全てなんだ。時間の作用で今はこういう姿に還元されている。」クラリスはあらためて遺骨を眺めた。父親の頭がい骨をとりあげると熱い涙があふれて頬を伝い落ちた。"

 その様子を見たレクターは思うのです。

"クレンドラーはクラリスにとって失敗と欲求不満の象徴だった。彼にその責めを負わせるのは可能だ。が、彼を完全に否定しさることは可能だろうか?クラリスの潜在的な柔軟性。大脳皮質のルール。それはクラリスの中にミーシャのための場所があることを意味していないだろうか?"

 本来クラリスを助けるために現れたレクターだったはずですが雲行きが怪しくなってきましたよ...若干、この時点で読者置いてきぼり状態ですがみなさん頑張りましょう。クラリス脳みそ食い、レクター博士のおっぱいチュウチュウまでもう少しです!


●晩餐会

"「素晴らしい晩餐になることは約束する」レクター博士は微笑むと、上着のポケットから髪の毛のように細い針先の注射器を取り出し、その針先をクラリスの腕に沈めた。"

テーブルには丈の高いクリスタルの器にロウソクの炎、テーブル・フラワー銀の食器にのるブロン産の牡蠣一個とソーセージ...そそがれたワイン。

クラリス:「それで今日は何をご馳走してもらえるの?」

レクター:「それは訊かないことだ。驚きを味わう楽しみが薄れてしまう。実はこの最初のコースにはミスター・クレンドラーも加わるのだ。」

 隠されていたテーブル・スペースの前に体を括りつけられたポール・クレンドラーが現れます。クラリスは眉ひとつ動かしません。

"クラリスは両方の掌を「正義の秤(はかり)」のように使って明らかに、ある問題の軽量を論じようとしていた「いいことミスター・クレンドラー、あなたが私の事をあざ笑うたびに私はそうされても仕方がないようなヘマを自分がしでかしたんじゃないか、という疑念にさいなまれたものよ。でも私は一度としてそんなヘマを犯したことはなかった。あなたが知っている事など何もない。あなたっていう人は永遠に愚物なのね 一瞥にも値しないような」するとクレンドラーは言った。

「お前はいったい何者なんだ?お前はスターリングじゃないな...スターリングじゃない」"

 細心の注意を両手に込めてレクター博士はクレンドラーの頭蓋の上半分を持ち上げ銀の盆にのせてサイドボードに移す、頭骨の上にはピンク色がかかった灰色の脳髄の半球が露出。

 彼の前部前頭葉を一切れすくい取る、次いでもう一切れと全部で四切れすくい取ると博士はレモン・ジュースで酸味を加え冷水に沈めます。人間業とは思えない器用さで固まった脳髄を皿に移しスパイスを混ぜ合わせた小麦粉を軽くつけてから新鮮なブリオッシュのパン粉をまぶし、素早く炒めて両面がキツネ色になるように仕上げる。と延々続くレクター博士の脳みそレシピ。

「うう~ん、いい香りだぞ!どんな味だい?」とクレンドラーは訊いた。

" 「申し分ないわ」クラリスは言った。彼女の唇がバターソースで輝いている様を観てレクター博士は激しく心を揺さぶられた。"

 わめくクレンドラーをよそにレクター博士とクラリスは再び"ミーシャ"について語らいます。自分も"ミーシャ"に会ってみたいという希望を口にするクラリス。

" 料理が二皿目に移ると前頭葉はほとんど取り除かれ前運動皮質の近くまでがすくい取られた。クレンドラーはもはや目前に見える事物の事を何の脈絡もなく話すことしかできなくなり、卑猥な歌を調子っぱずれにがなっていた。"

 レクター博士がクロスボウを取り出すと、クレンドラー目がけ矢が弦独特の周波数と共に音を出しながら彼の心臓を貫きます。

クラリス:「今の音、中央ハ音の下の二音、というところじゃなかった?」

レクター:「そのとおり」 ( たぶん爆笑するところ)


●デザート

レクター:「この世にはミーシャの場所があるはずだ。ミーシャに譲るべき至高の場所があるはずだ、と。そして私は考えるようになったのだクラリス、この世の最上の場所はきみの場所だとね」

クラリス:「一つ言わせてもらっていいかしら、もしこの世の至高の場所がミーシャのために必要なら、そして私はその必要性を否定しないけれど、あなたの場所をそれにあててはどうなの?私とミーシャは姉妹のようになれると思うわ。もし私の中に父を受け入れる余地があるなら どうしてあなたの中にミーシャを受け入れる余地があってはいけないの?」レクター博士は嬉しそうだった。

 クラリスの肘が当たりコーヒーカップが床に落ち砕け散る。それをじっと眺めるレクター。

クラリス:「あなたのお母様は母乳で育てたの?」レクター:「ああ」

クラリス:「そのお母様のお乳をミーシャのために諦めなければならないと考えたことはあった?」レクター:「いや、それは覚えてないなクラリス。もし譲ったのなら喜んでそうしたのだと思うが」

" クラリス・スターリングは片方の乳房を解き放った。何のいましめのない空気に触れてそれはたちまち頭をもたげた。「これなら諦める必要はないのよ」口中のシャトー・ディケムを人差し指に移した。暈(かさ)のある甘美な滴が琥珀色の宝石のように乳首から吊り下がって彼女の息遣いと共に震えた。

素早く椅子から立ち上がったレクターはクラリスの椅子の前に片膝をつき炎に照らされた乳白の肌を彩る珊瑚になめらかな黒髪に覆われた頭を傾けていた。"

(チュウチュウ)


●三年後 (新ミレニアム)ー 

 アルゼンチンのブエノスアイレスの瀟洒(しょうしゃ)な館の最上階でダンスに興じるカップルの姿。

" 二人の関係を大いに親密たらしめているのはクラリス・スターリングの肉体を貫く行為だ。それをクラリスは貪欲に歓迎し旺盛に求める。それはハンニバルの過去の経験の枠をはるかに踏み越えている。セックスは二人が日ごとに強めている素晴らしい絆と言えよう。"

 最初の頃にクラリスを支配していた薬品はもう使っていない。長い語らいも行われていない。時折、わざとティーカップを落とすレクター博士。それがひとりでに元の形に戻らないのを確認して安堵する。もう何カ月も彼はミーシャの夢を見ていない。

" おそらくいつの日かカップは元に戻るだろう。クラリスもまたどこかでクロスボウの弦の音を聞き忽然と覚醒することがあるかもしれない ― もしすでにして いま目覚めていないのであれば。"

end。


 レクター博士にとって一番いい形でクラリスを自分の中に補完できたけれど果たして彼女は...といった最後でしょうか。そういえば晩餐会の前にレクター博士はクラリスに対してある悟った事がありました ――

"自分がどんなに この女に関する知識を深め、その内面に食い込もうともこの女の気持ちを完全に読み取ったり、この女をわがものにしたりすることは到底不可能だろうと。蝶の幼虫たる毛虫を飼うことはできる。がその結果孵化した蝶はそれ自身の特性に従って彼の手の及ばぬ所に飛んでいくのだ。"


 ちなみにドラマ版「ハンニバル」ではレクターがカウンセリングを受けるのですが、その女性セラピストを演じるのはジリアン・アンダーソン。実は彼女 映画「ハンニバル」での当初の"クラリス"役候補、つまり映画で描かれなかったカウンセリング・バトルを、このドラマで"クラリスvsハンニバル"を再現しているのです(そんな楽屋ネタ誰も分からないよ!)。

 という事は…このジリアン・アンダーソン演じるデュ・モーリア博士も最終的にはおそろしいモンスターに…?(ところでデュ・モーリアといえば有名な女流作家…バイセクのね)。


 あと、クラリスのミドルネームは"M"なのですが、レクター博士と関わりの深い女性、マーゴ、ミーシャ、そして「ハンニバル・ライジング」で登場するレディ・ムラサキ、と頭文字が全員"M"が付くという何の役にも立たないどうでもいいことを追記しておきます。


ではまた。

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