よくできた作り話だよ
映画史上最も有名でインパクトのあったオチの一本と知られる「猿の惑星」。
著者はフランス人であるピエール・ブール。第二次世界大戦中、自身によるマレーシアでの日本軍の捕虜体験から、この『猿の惑星』が生まれたというのはあまりにも有名です。が、それじゃあ原作である小説「猿の惑星」のオチは?というと意外に知られていないんじゃないでしょうか。否、有名だけれど映画のように語り継がれていないって事なのか?
これが同じじゃないわけで…脱糞もの。
" ジンとフィリスは移住惑星からできるだけ離れた宇宙空間で素晴らしいヴァカンスを過ごしていた。すでに惑星間の旅は当たり前になっており、恒星間の移動も特に珍しくはない時代になっていた。裕福で暇を持て余しているジンとフィリスはその独創性とちょっとした詩心によって宇宙空間の中でひときわ目立つ旅をしていた。たんなる気晴らしのために帆船で宇宙をめぐっているのである。"
なんと舞台はすでに未来の話から始まるという導入部です。そしてジンとフィリスという金持ちバカップルが宇宙空間にひとつの瓶が漂っているのを見つけます。
" それは大きな瓶で口には丁寧に封がしてあった。中にはたしかに巻き紙が入っていた。それは一枚の紙ではなくとても薄い紙が何枚も束ねられていた。そこに書き記された細かい文字は地球の言葉だった。ジンは何年間か勉強したことがあったので、その言葉なら難なく読めた。そしてフィリスの横に寝そべってジンは手記を読み始めた ― "
こうして誰かが書いた手記として、映画の冒頭のような物語が始まっていくのが小説「猿の惑星」です。
主人公はユリス・メルー(おそらく"ユリシーズ"から取られた名前)。名前こそ映画版主人公"ジョージ・テイラー"と違いますが、ユリス 彼もまた当然この惑星が猿によって支配されていることに驚きます。
クライマックス、ユリスとノヴァの間に子供が出来ます。そのせいで猿たちによる最高評議会が開かれることになり、子供の身に危険が及ぶと考えたユリスはこの星からの脱出を図ります。
ユリスはコルネリウスとジラの協力により惑星を回っている宇宙船に乗る手はずを整えます。
ユリスはジラに別れのキスをしようとしますが、実は小説ではユリスとジラはキスをしません。ジラ曰く
" 「それはできない 申し訳ないけどそれは無理。どうしても無理。だってあなたあまりにも醜いんですもの!」"
なんと映画ではサルとヒトとの壁がなくなった瞬間のキスだった名シーンが小説では生理的無理という絶対拒否のジラ。どんだけ!
そして脱出に成功し宇宙船にいるユリスとノヴァ ―そして息子のシリウス。
息子も一歳半となりついに太陽が見え、木星、土星、火星 … 地球。計算では地球ではすでに七百年が経過していることになる。宇宙船に搭載してある着陸艇に移る三人。大気圏。逆噴射。眼下にはパリ。空港に着陸。
トラックがやってくる。出迎えにしては人数が少ない。着陸艇から出る三人。
" 運転手が降りてくる。見間違えでなければ将校だ。何歩かこちらに向かって歩いて草むらから抜け出ると、ようやくくっきりと姿が見えた。ノヴァが叫び声をあげた。私から息子をひったくるとあわてて着陸艇に逃げ込んだ。私はその場に釘づけになったまま身動きすることも声を上げることもできない。 ― そいつはゴリラだった。"
…終わり。映画に詳しい方ならお気づきでしょうが、このオチ…ティム・バートン版「猿の惑星」と同じなのです。あの皆がきょとんとしたオチ 実は原作に忠実だったのです。
そして小説は手記を読み終えた冒頭のジンとフィリス 二人の場面に戻ります。
"「よくできた作り話だよ」とジン。フィリスは まだぼんやりしていた。物語のいくつかの箇所には感動させられたし真実味もあると思えたのだ。彼女はそれを正直に打ち明けた。「ま、広い宇宙にはどこにも詩人がいるということさ。ほら吹きも含めてね。」「ジンの言う通りね。私もそう思う…理性のある人間なんて、知性のある人間なんて、精神の宿った人間なんて…そんなのいるわけないじゃない。そこのところは お話にしても度を越してるわよね。」「さてそろそろ帰るとするか。」とジンは言った。"
" ジンは帆を揚げ四本の手足を巧みに使って操縦桿を操作し始めた。フィリスはコンパクトを取り出し軽くバラ色のおしろいをはたいた。雌チンパンジーの可憐な鼻面が いっそう輝いた。"
はい おしまい。
ではまた。