その名は "ディックマン"
『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』
(ノルウェー・スウェーデン・デンマーク合作映画 ) を観ました。リーアム・ニーソン主演でリメイクされたものが今年公開という事もあり、それじゃあと このオリジナル (リメイクも同監督) を観たしだい。
どうみても人間vs除雪車にしか見えないジャケ。まるで除雪車で何百人もの人間を轢き殺すかのような見事な印象操作。でも『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』は
ハリウッド的アクションはゼロ!全く無し!
あらすじは、マフィアによって息子を殺された父親が復讐に立ち上がるという 今どきウソだろって言うぐらい 擦られ過ぎてるプロット。これだけを聞いたらそりゃあ即、リーアム・ニーソンでリメイクもするわなと納得。いつもの父親 激おこプンプン復讐アクションというジャンルものを見せられるのかい と誰だって思っちゃいますよね。ところがところがこのオリジナル『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』は父親役をステラン・スカルスガルドが演じている事、父親だけでなくマフィア側の家族模様も必要以上に加味された上に、雪景色ノルウェーが舞台である事によってちょっと不思議で奇妙な味わいのある映画になっておるのです。おまけにノルウェー・ユーモアとでも言うべきか 雪だけに寒い独特のギャグが散りばめられているのです。
主人公は除雪車の運転手をしているニルス。除雪車の運転を長く続け、地元の今年の市民賞に選ばれるぐらい、毎日毎日コツコツと人々のために除雪し真面目に生きてきたと思える初老のニルス・ディックマン。このディックマンという名前のおかげで "ちんこ(ディック)マン"とか陰口を言われちゃいます。
冒頭、ニルスは知人から「中央党に入れ、あんたは成功者だ。あんたみたいな優秀な移民が必要だ。あんたのような人がいなきゃ民主主義が成り立たない」と言われます。ノルウェーでも移民は(多い?)ちょっと疎外されてる感じ?...ろくな職に就けない?ちょっと大切な情報をサラッと言い過ぎ!
ちなみにニルス役のステラン・スカルスガルドはスウェーデン出身。ノルウェーでの移民人口は552,000人 全人口の11.4%。最も男女平等が浸透しているノルウェー 男女の就労率の差はわずか0.6%とか。
突然、息子イングヴァルの死を知らされるニルス。死因がコカインの過剰摂取という事にどうしても納得のいかないニルス、「皆さんそうおっしゃいます」と警察は再調査する気も見せません。
葬儀の後、ニルスは銃口を口に入れ死のうとしますが ひょんな事から息子の本当の死の原因がマフィアによるものであった事を知ります。
そして末端のチンピラから一人ずつ誰の命令で息子を殺したのかを聞き出しては殺していきます。こうしてニルスのたったひとりの復讐が始まります。
(当然、警察には頼りません。ニルスには移民キャラも入っているし、今までも国に頼らずにやってきたというきらいがあったのかも。)
結構年なのですぐ疲れちゃうニルス。でも一人ずつ確実にコツコツと殺していく.....そう まるで除雪車のように。
(人のボコり方、ライフルの銃身を短く切って挑んだり 手際のよい死体処理をみていると、このニルスという男も昔 何かあってノルウェーにやってきたんじゃないのか?という思わせぶり描写が多々あります 笑 )
ちなみにこの映画では人が死ぬたびに"十字架&ニックネーム&本名" が静かな曲と共に出てきて追悼されます。最初は意味が分からず「ふーん」てなもんだったんですが、だんだん面白くなっていく仕掛け お楽しみに。
ノルウェー地元マフィアのボス"伯爵"。部下が次々に殺されていくことに苛立ち始めます。おまけに離婚した奥さんと子供について事あるごとにケンカしまくるもんでストレスMAX状態。明らかにカルシウム不足のインテリヤクザ おまけに完全菜食主義者ビーガン (←意図的にビーガンのイメージを貶めているんじゃないかという悪意を感じます 笑)。
ちなみに"伯爵"の息子はイジめられっ子。「言いなりになっちゃダメだ 思いっきり殴れ」とアドバイスをする"伯爵"。
盛り過ぎじゃね?ってぐらい この手の映画のラスボスにしては珍しいほど癖強めのキャラを乗っけてきてて吹く。
徐々にニルスと奥さんの仲にも亀裂が...というか呆けの症状が出てくるというサプライズ。白紙の書置きを残しどこかに消える奥さん...。"十字架&ニックネーム&本名"が出てこないんでたぶん生きてるとは思うけど...怖ッ。
部下と共にヤクも消えたことによってついにキレた"伯爵"。一連の事件を敵対するセルビアマフィアの仕業と思い込んだ "伯爵"は 報復としてセルビア人の運び屋を殺します。
ただの運び屋と思っていた男...実はセルビアギャングのボスの息子でした。おまけに"1389"という標識に死体を吊るす...... コソボの戦い
吊るされた息子の姿に復讐を誓うセルビアギャングのボス。演じるのは先日他界した ブルーノ・ガンツ 。
ニルスによる復讐がどえらい所にまで波及しちゃいました...。
ニルスは疎遠だった兄に助けを求めます。なぜなら彼は元ヤクザ!しかもなんと"伯爵"の父親時代の部下だったという。ニックネームは"ウイングマン"。
とまぁ あっさり息子を殺した(命令した) のが "伯爵"と知るニルス。"チャイナマン"という殺し屋を雇えという兄のアドバイス。ニルス「"チャイナマン"の由来は?」(答え↓)
そしてニルスが雇った殺し屋 "チャイナマン" 。日系らしいけど なぜかニックネームが "チャイナマン"。(このあたりで この映画はニックネーム制なんだな と見えてきます。だからきっと ニルスのニックネームは "ちんこ(ディック)マン" だなと 寒いなと 笑)
"チャイナマン"が失敗してしまいニルスは"伯爵"の息子を誘拐する事にします。誘き出すための餌です。
ニルスが子供を寝かしつけるのに読んであげる本が除雪車のカタログって...ウソだろって描写に爆笑。これは死んだ息子との関係もちょっと普通じゃない気がしてきましたよ。子供「僕も除雪車に乗りたい......ストックホルム症候群って知ってる?」
次の日ちゃんと乗せてあげてるニルス!笑。
事前に"伯爵"を狙撃するポジショニングの確認、抜かりなく準備。"伯爵"を誘き出す電話。迎え撃つ。
こうして ニルス、"伯爵"、そしてセルビアギャングのボス ...それぞれ息子を失った男三人がクライマックスへ と―――。
この映画が「ファーゴ」やタランティーノ映画と比類されていると聞いて超納得。広がる暴力の連鎖、三つ巴へ向かっていく展開、そして何より いちいち出て来るキャラが濃い(変)。
ノルウェーのホテルで滞在し情報待ちしている間、雪遊びに興じるセルビアギャングたち...全く持って意味不明。
"伯爵"の奥さん。「息子にシリアルなんか食わすわけないだろ!デンマーク人め!」と罵られたりします (←しっかり子供がシリアル食ってるシーン出て来て爆笑)。 移民差別?一応ノルウェーとデンマークの関係を調べたら、昔 国同士結婚していた時期があり結局離婚した歴史があるみたいで...。
実はデキてる"伯爵"の部下 二人 (身の回り係)。二人のキスシーンが長いんで吹く。
中国というメタキャラ?なのか、兄"ウイングマン"の癖の強い彼女。
"伯爵"の部下 二人(暴力係)。「暖かい所ではバナナ。日差しか福祉だ」と雪ノルウェーの福祉国家である事を自慢(?)したと思ったら、いきなり歌い出したりと 爆笑です。
デンマーク、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、フィンランドは、普遍主義型(社会民主主義型・北欧型) 福祉。
そして警官はなぜか常に間抜け、情けない者として登場します。「ロス市警で映画並みの銃撃戦で弾かすっちゃいました〜」とか言っちゃう おとぼけ警官。この映画に出て来る漢・おとこ達は大事な人を失った者ばかり出てきますが、でも おとぼけ警官たちは暴力から一番遠い者たち なので彼らには失った者は出ません。
"伯爵"の部下 二人 (身の回り係)が見ているTVから「生物学者としては良い傾向と考えます。人間や動物に対する思いやりが高まっており、以前は当然だった行為が非人道的と見なされています。実際に暴力行為も大きく減少しています」
全てを失いどこへ行ってよいのか分からなくなった男たち。除雪車が向かう先は道の無い どこまでも続く雪の中......そして唐突の爆笑オチ。なのに 一面雪のノルウェーなので何事もなかったかのように寒く静かに終わるのです。
映画の冒頭、市民賞 受賞式での演説スピーチでニルスは言います
「私はただ大自然の中で文明を守ってるに過ぎません。幼いころは先住民についての本を読んでいましたが、今では私も"開拓"を... 拓く道が毎回同じであろうと続けます。」
『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』
原題「KRAFTIDIOTEN」英題「IN ORDER OF DISAPPEARANCE」
"失踪のために..." 誰もが愛する者を失った
ずっとヘビローの曲。聴けば聞くほど寒くなります。
酷い邦題ではありますが、改案としましてはノルウェー作家のジョー・ネスボ 風に "ディックマン 雪と血の贖い"とか "ディックマン 復讐の雪の主" とかどうでしょう。個人的にはこっちの方が映画本来のノリに合っている気がしますよ。とにかくタイトルから
"ちんこ(ディック)マン"は外せません!!
ちなみにリーアム・ニーソンがリメイクで演じる役名は "Cox(ちんこ)man"。
ではまた。
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