M&Aの【のれん代】徹底解説!Part2
M&A取引において「のれん代」は、会計上極めて重要な意味を持ちます。今回はのれん代の会計処理についてや注意すべきことについてお伝えします。
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のれん代の会計処理について
Part1で説明したように、M&Aにおける実際の買収価格からの売り手側企業の純資産額(時価)を差し引いた価額がのれん代のため、本来の売り手側企業の企業価値よりも高い金額で買い手側企業が買収したということになります(のれん代がプラスの場合)。実際にM&Aでは、売り手側企業は会社を高く売りたいためさまざまな付加価値を付けようとすることが一般的です。具体的には、自社のブランド力、強固な顧客基盤、競合他社よりも秀でている人的リソースといった無形資産に関する優秀さや力強さを買い手側企業に主張し売却する額をアップしようと試みます。
基本的には、売却額がアップすればするほど比例してのれん代もアップします。のれん代のアップは買い手側企業にはより支払額が増加することにはなるのですが、自社の貸借対照表には無形資産として計上されるため何ら実損が生じるということではないです。具体的には、無形資産のひとつであるブランド力は将来的にも収益が発生することに繋がる企業にとっての大きな武器となります。一時的に出費の増大になりますが、その出費額に相応しいリターンを期待することができるでしょう。つまり、そうした出費は将来にわたる収益力を得る目的でのれん代を前払いしているとも言えます。
M&Aで生じたのれんは、資産に計上されるので仕訳処理が必要になります。例として、純資産額1億円(内訳:資産3億円、負債2億円)の企業1億5千万円で買収したケースでは、5千万円ののれんが生じるので、下記のような仕訳となります。
のれんは、永続的に資産としての価値を保持するような勘定科目ではありません。したがって、時間の経過と平仄を合わせて費用計上(償却)をする会計処理が必要になります。この会計処理は、前述したように、日本基準と国際会計基準・米国基準という会計基準によって違いがあります。
日本基準では、のれんは20年以内に償却するというルールが定められています。実際の償却期間は、そののれんがどのくらいの期間影響を及ぼし続けるのかという観点から検討され設定されます。一般的には、投資回収期間を考慮し設定されるケースが多いようです。例えば、ビジネスサイクルが長期間で安定している製造業では10年以上の期間で償却し、反対に技術の進化と衰退による移り変わりが激しいIT業では数年間で償却することが多いです。
一方、国際会計基準や米国基準ではのれんの償却は認められていません。その代わりとして、年に1度の減損テストの実施が必要になり、その結果大きな価値の減少が判明した場合には減損処理します。
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のれん代で注意すべきこと
既に説明したように、会計基準の違いによってのれん代の償却に関する考え方も異なっていると説明しましたが、日本基準であっても減損処理が発生しないわけではありません。M&Aで会社や事業を買収した後に、不祥事や業績不振などの理由でのれん代を回収することが難しくなってしまうようなケースも実際に発生しています。
このような場合には、買い手側企業で計上されたのれん代の価値が大きく減少してしまうか、場合によっては価値がなくなってしまう可能性も考えられます。回収可能額をよく考えたうえでのれん代の計上金額(簿価)と比べて、大きな金額の乖離が生じた場合には計上されているのれん代を見直す必要が生じます。この乖離が生じた分に相当する損失金額の処理がのれん代の減損処理です。
言い換えると、のれん代の減損処理とは会計上のれん代の減損対象となる金額を一度にまとめて費用として取り扱う会計処理です。ただし、のれん代の減損処理は以前から日本で発生したものではないです。会社法が2006年に改正されて以降、活発にM&Aが行われるようになり、大規模なM&A取引や巨額なのれん代の発生などにより、のれん代を大きな規模で減損しなければならない事態が生じるようになりました。
例として、のれん代が1,000億円で買収した企業が不祥事の発生によって、大きく企業イメージを悪化させた場合に、買収時に予想していた収益を獲得することが難しいとわかったとしましょう。こうしたケースでは、のれん代の減損処理を実施することが必要になります。
企業イメージの悪化により収益性が大きく低下した会社の企業価値や投資回収を確認するとともに、それらをのれん代の1,000億円と比べたうえで、減損を実施するか否か、減損処理を実施する金額なども検討しなければなりません。どのくらいの金額の減損処理を実施するのかに関しては算定しにくいため、監査法人、公認会計士などのプロフェショナルな専門家の協力を得る必要があるでしょう。このような算定のことを、減損テストと呼んでいます。
のれん代に関して注意が必要な点は、上記の減損処理の他にも会計上と税務上の取り扱いが異なっているという点も挙げることができます。株式譲渡によるM&Aで連結貸借対照表を作成する場合には、税務上ではのれん代が発生することはありません。ただし、事業譲渡、あるいは現金を対価とする吸収分割の場合には、のれん代は税務上資産調整勘定あるいは差額負債調整勘定という勘定科目として発生します。
他方で、会計上は現実の買収額から純資産額を差し引いた差額はのれん代として計上されますが、のれん代を毎年一定の金額ずつ償却し、仕訳上では借方に記載することになります。一般的には、売り手側企業の純資産額よりも実際の買収額の方が多額になるケースが多く、プラスののれん代になるでしょう。しかし、いわゆる「負ののれん代」の場合には、買収金額よりも資産額の方が多額になるケースもあります。この場合には、買収額よりも差額が大きな金額になるケースが考えられます。つまり、のれん代がマイナスになり得るのです。こうしたケースでは、差額ののれん代を一括で利益として貸方に記載することになります。
--------------------------------------------------------------------------------------次回は、のれん代の計算方法についてやのれん代をアップさせるコツについてお伝えします。