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データ垂れ流しのすゝめ(Web3とオラクル)

こんにちは、リサーチャーのWeb三郎です。

今回はWeb3におけるオラクルを用いた「楽な稼ぎ方」についてご紹介しようと思います(冗談です)。

ビッグデータは死んだ?

少し前のことですが、今年2月に「Big data is dead」と題するブログポストが公開されました。このブログポストはGoogle BigQueryの創設チームに在籍していたエンジニアが書いたもので、10年以上ビッグデータビジネスのど真ん中にいたエンジニアが「ビッグデータの死」を宣告したということで、一部で話題になっていたようです。

その内容は、

  • BigQueryのクライアントのデータストレージサイズの中央値は100GBを下回る

  • ペタバイトやテラバイトのような単位のデータをもつクライアントはごく稀

  • 年間1000ドル以上を費やすクライアントのクエリの90%は100MB未満のデータしか処理していない

  • 処理されるデータの大半は24時間以内に生成されたもの

  • 1週間経過すればクエリされる確率は20分の1に減少する

など、衝撃的なビッグデータビジネスの実態を赤裸々に明らかにするものです。

このブログポストの出処は、小さなサイズのデータを高速に処理するOLAPと呼ばれるデータベースを開発するMotherDuckの公式ブログで公開されたものなので、ポジショントーク的な側面もいくらかありそうですが、実際、多くの企業が「データで稼がなければならない、そういう時代なんだ」という認識をもっている一方で、実務でペタバイト単位のデータを分析する現場は数えるほどもないでしょうし、ビッグデータといわれても実感の湧かない人が大半なのではないでしょうか。

データを活用しないでお金に変える

データは役に立ちます。しかし、データを役に立てるのは大変難しいことです。

「ビッグデータの死」の論点は様々にありますが、自社が保有するデータをどのように活用すればいいのか、どのように収益に繋げていくかの発想が難しいという問題もその一つでしょう。

解決策として、データを活用するのではなく単に売ってしまうという方法があります。確かに自分にとっては無価値でも他の誰かにとっては価値があるかもしれないから、うまいことマッチングしてお金を媒介にして交換しようというのはデータに限らず基本的な発想です。とはいえ、データの買い手を探すのは簡単ではありません。医療・製薬やAIのようなデータがまさに原材料の如き重要性を発揮する業界では、既に大きなデータマーケットが成立していますし、データの入手を目的としたM&Aも活発ですが、そういった一部の業界を除けばデータマーケットは存在しないか、ごく小さな規模で存在しているかのどちらかです。

そのため、多くの企業は自社のデータをわかりやすい図やコラムにしてまとめたものをプレスリリースや自社ブログで発信して間接的な収益につなげる、というようなところで踏みとどまってるのが現実ではないでしょうか。そのような施策はそれ自体十分に意義を発揮しうるものですが、自社の製品を売るのと同じ直接なやり方で自社のデータを他社に売れた方がスムーズで効率的です。

オラクルが提供しているデータの数は少ない

実は既に誰でも利用できる開かれたデータマーケットが存在しています。それはWeb3のデータゲートウェイであるオラクルです。

オラクルとはデータを外から安全に取り込むための仕組みです。ブロックチェーンはトークン市場価格や気候、地形等のオフチェーンデータを取得できないため、Dappsの開発においては様々な困難が発生します。この問題を解決するため、オラクルはスマートコントラクトと外部との間のデータのやり取りを媒介してデータの改ざんや遅延を防いでいます。

例えばChainlinkというオラクルは、ネットワーキングされたデータプロバイダーと、LINKトークンを利用したデータプロバイダーへの報酬体系を組み合わせており、その仕組みを通じて、トークン市場価格(Price Feeds/NFT Floor Price Feeds)、ステーブルコイン等の裏付け資産の担保残高(Proof of Reserve Feeds)、金利とボラティリティ(Rate and Volatility Feeds)、L2ノードの稼働状況(L2 Sequence Uptime Feeds)の主に4つのカテゴリのデータがブロックチェーンへ安定して提供されています。DeFi系のDappsはこれらのデータフィードを利用して局所的な価格・金利の不均衡などを狙った不正行為から身を守っています。

しかし逆に考えると、Web3最大のデータゲートウェイであるChainlinkですら、まだ4種類のデータしかWeb3の世界に提供できていなのです(※)。非金融の領域においてそれら4種のデータが直接的に役立つ場面はそう多くはありません。鶏と卵ではありますが見方によっては、Web3の世界に最低限あるべきデータが不足しているために非金融Dappsが増えないという捉え方もできるかもしれません。

非金融事業者のWeb3への参入事例に目を向けると、NFTを発行・販売する事例がその大半を占めています。これらは将来的にWeb3市場がもっと社会に深く実装されていったときのことも見据えた準備という意味合いもあるとは思いますが、Web3の社会実装をより力強く進めていくためには、Web3アプリケーションが拡充して使われるようになることもまた重要になってきます。

※本稿のスコープ外なので軽い紹介にとどめますが、Chainlinkは今年に入ってChainlink Functionという新しいプロダクトをローンチしています。これは、スマートコントラクトからWeb2を含む任意のAPIにリクエストし、その結果をオラクルネットワークを通じて取得するというもので、これによって今までよりも遥かに多様なデータをWeb3に取り込めるようになりそうです。

農村DAOとオラクル

一つ例を挙げて考えてみます。

ここに人手不足に悩む農村の自治会があるとしましょう。自治会は農家を基礎単位としたDAOを組成することを決定します。その狙いは資源分配の効率化です。この農村は地形の影響で北と南とで環境が大きく異なります。北は雨季が長引きやすく、南は気候は安定しているものの海が近く不定期に塩害に悩まされます。DAOは南北の農家がそれぞれに拠出して作った基金をDeFiで運用し、その運用益の使い道を投票によって決めることにしました。ただ投票するだけでは南北での票の重みに格差が生まれてしまうため、投票時には天気や潮汐のデータを元に票に重み付けを行うというルールも追加しました。このように農村DAOは基金の効率的な運用とその公平な分配を、スマートコントラクトとDeFi、DAOというWeb3の様々なコンポーネントを利用して実現を目指します。

ではこのDAOは本当に実現可能でしょうか。基金を運用するところまではDeFiを用いれば簡単です。ですが気候や潮汐のオフチェーンデータを必要とする投票システムはどうでしょう。現時点では大雑把なデータはすでにWeb3にもあるかもしれませんが、地域に密着したデータはほとんど存在していないのが現状です。もちろんオフチェーン上でそれらのデータを処理する方法もありますが、不正を防ぐことを優先するのであればフルオンチェーンで処理するほうがベターです。

ここで自治体や地元メディアがChainlinkなどのオラクルにノードを建て、日常的に市民に広報しているデータをオラクルを通じてブロックチェーンにフィードすれば、理想の投票システムを作ることができます。また、自治体や地元メディアも人口減少による収益の減少をフィード利用料によってカバーすることができます。

局所的過ぎる例かもしれませんが、オラクルを通じて細やかなデータがただ垂れ流されるだけでも、色々なことが可能になるということが想像できるようになれば問題ありません。

オラクルにデータを垂れ流そう

Web3だけで実現できないことはオフチェーン処理するしかないのが現状ですが、オラクルを通じて多様なデータがブロックチェーン上に流通するようになると、Web3のアプリケーションレイヤーの厚みは一気に増すはずです。現在は圧倒的にデータが不足しているためDappsのシェアの大半をDeFiが占めていますが、データフィードの多様化に伴ってDeFi以外のDappsが増えてくることで、金融/非金融の垣根を超えたコンポーザビリティも十分に発揮されるようになり、Web2に負けず劣らずの豊かなエコシステムが実現していくのではないでしょうか。

そしてデータの利活用に悩む企業こそ、そのデータを気軽にブロックチェーンへフィードすることをおすすめします。自分の持つデータに価値を見出している人を特定するのは骨が折れますが、データを欲している人の方は貪欲にデータソースを探索していますし、コンポーザビリティが発揮されトランザクションが増えてくれば、データの利用量も増え、より大きな収益が期待できます。現状、大半のデータにおいては競合のほとんどいない領域ですから先行者利益を獲得できる可能性もあるでしょう。

データは使う人がいてはじめて価値が発揮される類のモノです。自社のストレージに眠らせておくくらいならオラクルにフィードしてみてはいかがでしょうか。


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