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AAとはなにか?

こんにちは!
リサーチャーのmitsuiです!

この記事では「AA(Account Abstraction)」について解説します。間違いなくこれから先のweb3業界で最重要単語の1つとなると言われるAAについて、その意味とトレンドの背景、ユースケースを解説します。

AAとは?

AAは"Account Abstraction"の略であり、日本語では"アカウント抽象化"と呼ばれます。(以下、AAで表記します)
AAは、Ethereumのウォレットをより柔軟にすることを目的としています。具体的には、ユーザーがトランザクションのフォーマットや処理方法をカスタマイズできるようにするためのものです。
Ethereumのウォレットには、Externally Owned Accounts (EOA)Smart Contract Accountsの2種類があります。EOAは秘密鍵でコントロールされ、トランザクションを生成することができます。一方、Smart Contract Accountsはコードによって定義され、他のアカウントからのメッセージを受け取って動作します。
AAの考え方は、これらのアカウントの境界をぼかし、ユーザーが自分のニーズに合わせてトランザクションの検証ロジックや支払いメカニズムを定義できるようにするものです。これにより、さまざまなトランザクションのタイプやガスの支払い方法、新しい暗号技術の統合など、多岐にわたるカスタマイズが可能となります。

https://metaversal.banklesshq.com/p/erc4337 より引用

少し難しいので、もう少しわかりやすく解説します。(技術的な解説というよりもイメージできるような解説にします)

EOAの代表格はMetaMaskです。MetaMaskを始めとして、我々が現在使っているウォレットのほとんどはEOAです。先述した通り、EOAでは秘密鍵をユーザーが管理する必要があり、ガス代の支払いもユーザー負担です。

EOAでは「ウォレット生成ハードルの高さ」や「ガス代の支払いやトランザクションにおける制限の多さ」がネックとなり、マスユーザーをweb3に引き込むための快適なUXを提供することができませんでした。

これをAAの技術を活用したSmart Contract Accounts(コントラクトウォレット)にすれば、GoogleやX等のSNSログインによるウォレット作成、ガス代負担を事業者側にするメタトランザクション、ガス代の支払いトークンを個別に選択できる仕組みなど、複雑な実装が可能になります。

また、ゼロ知識証明の技術など、プライバシーやセキュリティに配慮した技術の組み込みも可能になり、トランザクションのプライバシーを保護しつつ、Ethereumのスケーラビリティを向上させることも可能だと期待されています。

このAAの実装とEOAからSmart Contract Accountsへの移行はEthereumコミュニティにとっても長年の夢であり、vitalikが提唱したEIP-4337にて議論されてきました。

そして、2023年3月2日にEthereumのメインネットにデプロイされました。

どのようなユースケースがあるか

ここまで、AAの概要について解説しました。ここ最近、SNSログインが可能なウォレットやガスレス決済が増えてきたことは、AAを実現するERC-4337の実装によるものが大きいということです。

では、すでに言及した内容もありますが、AAによって実現可能になるユースケースをいくつか列挙します。

  1. 柔軟なガス支払いメカニズム
    トランザクションの受取人やサードパーティがトランザクションのガス料を支払うことができます。これにより、ユーザーがEtherを持たなくても、他のユーザーやDAppsがガス料を代わりに支払うことができるようになります。

  2. 高度な署名方法の導入
    AAの柔軟性により、標準的なECDSA署名だけでなく、他の署名方法や暗号技術もトランザクションに利用することができます。これにより、より高度なセキュリティ要件や新しい暗号技術の迅速な統合が可能になります。

  3. ソーシャルログインとソーシャルリカバリー
    SNSログインによるウォレット作成や、パスワードを忘れた際にあらかじめ設定している複数の友人による承認によってウォレットを復旧させるソーシャルリカバリーが可能になります。

  4. プライバシー向上
    AAを使用することで、zk-SNARKsやzk-STARKsなどのプライバシー向けの暗号技術をトランザクションに組み込むことが容易になります。これにより、トランザクションの内容や関連データのプライバシーを保護することができます。

  5. マルチシグ(複数署名)の拡張
    複数の参加者の署名が必要なトランザクションや契約を、より柔軟にカスタマイズして実装することが可能になります。

  6. カスタムのトランザクション検証ロジック
    DApp開発者は、特定のアプリケーションやユースケースに合わせて、トランザクションの検証ロジックをカスタマイズすることができます。

具体的なプロダクト

日本国内で有名なのはsivira社が数年前より運営している「unWallet」です。unWalletはSNSログイン、秘密鍵の紛失・盗難に対応するためのリカバリー機能、メタトランザクションによる暗号資産レスな NFT操作、詐欺からNFTを保護するロック機能など、EOAでは実現できない機能を実現します。

https://sivira.co/index-ja.html より引用

また、最近はフォテイソンを運営する「Nextmerge株式会社」がAccount Abstraction型ウォレット「TIPWAVE」を発表しました。

海外で見るとイーサリアムファウンデーションを始め、多くの投資家からシードラウンドで合計300万ドルの資金調達を行なっている「Soul Wallet」が話題です。

https://techcrunch.com/2023/03/16/soul-wallet-crypto-wallet/ より引用

また、累計で5,600万ドルも資金調達を成功している「Argent」も、数年前から運営しているスマートコントラクトウォレットです。


https://www.argent.xyz/ より引用

このように国内外でAAを活用したウォレットが誕生しています。また、新規アプリケーションのウォレット機能にAAを活用することで、秘密鍵なし、ソーシャルログイン、ソーシャルリカバリー、ガスレス決済等を実装するアプリケーションも増加しています。

AAの未来

最後に、AAの未来を考察します。

とはいえ、考察と言っても「AAはスタンダードになる」が筆者としての結論です。これは個人の意見というよりも、どう考えてもEOAよりもスマートコントラクトウォレットの方が利便性が高いので、そちらがスタンダードになることは間違いありません。

ユーザーとしては秘密鍵の管理から解放され、より便利で快適なアプリケーションの利用が可能になります。事業者からすれば、AAを利用したスマートコントラクトウォレットのソリューションを展開するか、自社DappsにAAを利用したウォレットを導入するという2つの選択肢が考えられます。

多くは後者の自社DappsにAAを利用したウォレットの導入を検討する事業者になるかと思いますが、これまでは技術的な制約でできないことが多く、快適なUXの設計が不可能で諦めていたことが実現可能になります。

基本的にアプリケーション(ソフト)の発展でその業界の参加者は増えます。ですが、ソフトの発展のためにはハードの成熟が必要不可欠です。

スマホと4Gの普及によってYouTubeが一気に盛り上がったように、どれだけ優れた構想であっても、ハードが整わない限り快適なUXを提供することはできず、優れたアプリケーションにはなり得ません。

既存のブロックチェーンはスケーラビリティの解消が主にL2によって解消されつつあり、秘密鍵やガス代問題等はAAの実装によって解消されつつあります。もちろんまだまだ課題はありますが、徐々にハードが成熟し始めていることで、web3を一気にマスアダプションに近づけるソフト(Dapps)が誕生するかもしれません。

事例ベースのユースケースのリサーチも大切ですが、ハードとなるブロックチェーンレイヤーのリサーチも大切です。今後も両輪でのリサーチを行い、定期的に発信していきます。

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