空前のトレカブーム、ポケモンカードこそNFTトレカにすべきである
こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。
今、世の中では空前のトレーディングカード(以下、トレカ)ブームが起きていることを知っていますか?たくさんの子どもたちがポケモンカードや遊戯王カードなどのトレカで遊んでいることはもちろんですが、最近は大人たちもトレカの資産価値や将来的な値上がりを期待してカードを買い集めています。
このように投資的な観点で盛り上がりを見せるトレカですが、実はweb3界隈でもNFTとの相性が良いのではないかと注目されています。そこで今回はトレカブームの現状を見ながら大人気トレカであるポケモンカードをNFT化することについて考えてみたいと思います。
ポケモンカードを中心とするトレカブーム
日本玩具協会が発表した2022年度の国内玩具市場調査では、玩具売上が約9500億円となり過去最高を更新しました。その最大の要因がトレカブームです。13ある分類の中でトレカは約2300億円(約24.2%)で最も大きな金額、前年比132.2%で最も大きな伸び率でした。2022年度は、ポケモンカードと遊戯王カードが安定した人気を誇り、大作漫画のワンピースがトレカ市場に参入したことも話題になりました。
トレカは人気のあまり購入するのも一苦労です。たとえば、ポケモンカードは1ヶ月あるいは2ヶ月の短い期間で新パックが発売されますが、これらの新作はどれも即完売し、各パックのレアカードは決まって価格が高騰しています。Youtuberを中心にトレカのコレクションにハマる著名人が増えたこともトレカブームを後押しし、メルカリやスニーカーダンクなどの二次流通市場では多くのカードが高値で売りに出されています。ポケモンカードの人気女性トレーナー「リーリエ」をはじめ一部のレアカードは数百万円もの大きな金額で取引されており、今やトレカは資産形成の手段としても需要が大きくなっています。
なぜこれほどにトレカの価格が高騰するのでしょうか。トレカに全く興味のない人からすればどのカードもただの紙切れにすら見えるかもしれません。しかし、大ヒットしているトレカの特徴を読み解くことでその理由が少しずつわかってきます。
①コンテンツのブランド価値
高値で取引されるポケモンカードも遊戯王カードも子どもから20年以上愛され続けており、カードゲーム以外でもアニメやゲームなど様々な形で新しいファンを獲得しています。さらに幼い頃にこれらのカードで遊んでいた人が大人になってコレクション欲が再燃し、幅広い世代にわたって人気が持続しています。
②カードのユーティリティ
トレカはカードゲームとして遊ぶことが本来の用途です。ポケモンカードであれば60枚のデッキを組み、モンスターカードとサポートカードを戦略的に駆使して対戦相手と勝負します。カードの引きや相手デッキとの相性によって勝敗が左右される面もありますが、デッキを定期的に見直すこともカードゲームとしての面白さであり、デッキを強化するためには新しいカードを継続して購入する必要があります。
③カードのレア度
トレカは製造枚数に応じてレア度がいくつかに分かれています。ポケモンカードはレア度が8種類、レア度が高いほどパックで引き当てる確率も低くなります。またレア度に比例してカードの能力やヴィジュアルも良くなることが多いため、ユーザーの間ではレア度の高いカードが自ずと人気になります。
④カードのルール改正
トレカでは、「スタン落ち」と呼ばれる、ゲームバランスを調整するためのルール改正が定期的に行われています。これにより試合における特定カードの使用が制限されることがあります。禁止によって人気が落ちるものもありますが、一方で、禁止カードは販売がストップするため希少性がむしろ増すものもあります。ポケモンカードもスタン落ちした人気トレーナーの価格が高騰する傾向にあります。
これらの特徴によってトレカは根強い需要を確保しながら個々のカードの希少性もコントロールすることで価値を高めています。他にも大会の優勝者が使用していたカードが急騰したり、著名人やSNSの間で話題になったカードが値上がりしたり、短期的な流行によって価格が影響されることもあります。
ポケモンカードをNFTトレカにする面白さ
さて、前半ではトレカブームの現状について見てきましたが、ここからはブームの火付け役とも言えるポケモンカードをNFT化することについて考えてみます。そもそもNFTとはデータを固有のものとして扱える技術であり、様々な分野でデジタルコンテンツやデジタル権利証としての活用が検討されていますが、ゲーム界隈では特にトレカとの相性が良いと期待されています。なぜでしょうか。
まず、トレカ運営の立場では収益機会の拡大やトレーサビリティに役立てることができます。前者について、運営はこれまで通りパック形式のNFTトレカ販売で収益を得られるだけでなく、NFTのロイヤリティの仕組みによって二次流通に伴う収益も獲得できます。現状、運営はトレカの二次流通市場にほとんど関与しておらず、たとえレアカードの価格が数百万円に高騰したとしてもその恩恵を受けていません。後者についてはNFTトレカの真贋および所有者を改ざんの難しいブロックチェーン上で管理することで、個々のユーザーがどのカードを好んで所有しているかを把握し、偽造トレカやマネーロンダリングを防止することもできます。また、NFTトレカではカード製造コストに代わってNFT発行コストがかかりますが、発行手数料を抑えたブロックチェーンやNFTをまとめて発行できるSFT(SemiFungibleToken)というトークン規格などの技術的な進歩によって、将来的には原価を今より安く抑えられる可能性があります。
一方、トレカユーザーの立場でもカードゲームとしての体験価値を高められる可能性があります。そもそもトレカの価値を維持するためには個々のカードを傷ひとつない状態で保管しなければなりません。それらの大量のカードを保管することも大変ですし、試合や大会の度にカードを持ち運ぶことも面倒です。そこでデジタル版のトレカとしてポケモンTCG Liveのようなオンラインカードゲームが今では作られていますが、その中で保有するカードは単なるデータにすぎず、現実において高値で売買されるトレカと違い資産性を持ちません。しかし、既存のオンラインカードゲームにNFTを導入することによってゲーム内のレアカードも価値あるものとして取り扱うことができます。また、特定のNFTトレカの保有などを条件にユーザーがカードルールに関する投票に参加できるようにし、運営とユーザーが一体になってレギュレーションを決定することも可能です。他にもアニメやグッズなどコンテンツ全体の発展に関われるコミュニティパスとしてNFTトレカを応用することもできるでしょう。
このようにNFTトレカの優位性を見てみると、カードのユーティリティやレア度、ルールの設計はむしろ高度化するため、運営側は技術的な問題を除けばNFTトレカに踏み出さない理由は無いように思います。現にSplinterlandsやCryptoSpellsなどトレカをNFT化したゲームは国内外で作られており、その数は今後も増えるでしょう。しかし、未だにヒットしたNFTトレカが生まれないのはユーザーを惹きつけるコンテンツが無いからです。これがもし世界中に大きなファンを抱えるポケモンカードをNFT化した場合には、カードゲームとしての面白さをそのままに、上述したNFTならではの面白さを体現できるのではないでしょうか。
ポケモンカードがNFTトレカにならない理由
それでもポケモンカードがNFTトレカにならないのは、運営である株式会社ポケモンがNFTに対して何かしらの課題やリスクを感じているからだと思われます。
先に述べたように株式会社ポケモンも既存のトレカでは二次流通市場と一線を引いており、カードショップやマーケットプレイスでのカードの売買には一切関わらないスタンスをとっています。ところが最近のトレカブームの中でレアカードの値上がりを目的とした買い占めや転売があまりに横行し、不正取引の数も増えたため、今年6月に同社は公式サイトでカードの二次流通について異例の注意喚起を行いました。この発表からは「カードは投資目的で売買するものではなく遊んで楽しむものである」という運営の強いメッセージが読み取れます。ゲーム業界全体でNFTの評価が別れているように、トレカを運営する彼らにとって二次流通を前提とするNFTは理念に反するのかもしれません。
ユーザー目線でも今あるトレカがNFTに置き換わることに反対する人は多いでしょう。既にお金儲けをたくらむ大人たちによって子どもやファンの遊び場が奪われつつあり、本来カードゲームを楽しむはずのユーザーは運営とともに頭を悩ませています。NFTによってトレカの金融的な側面が強くなることで既存のユーザーがますます離れてしまう恐れがあり、そのことを運営も危惧していると考えられます。一方、ポケモンカードを心から愛するユーザーは好きなカードを所有しながらルール作りやコンテンツの発展に関われることに喜びを感じるはずです。その点、いかに二次流通における投機性を抑えるかがNFTトレカを実現する鍵であると言えそうです。
NFTに関する知識やノウハウが一般に広まっていないというweb3業界全体の未熟さも課題として挙げられますが、もしかしたら株式会社ポケモンは秘密裏にNFTについて研究していて、これまでに述べてきたような構想を思い描いているのかもしれません。タイトルの通り、ポケモンカードのようなグローバルコンテンツこそNFTトレカにすべきであり、Decentierとしてはそのようなコンテンツのweb3進出を支援するための事業コンサルやプロダクト開発に取り組んでいきたいと考えています。
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