web3×コンテンツIPを大乱闘スマッシュブラザーズの世界で考える
こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。
最近久しぶりに「大乱闘スマッシュブラザーズ」で友人と遊ぶ機会がありました。スーパーマリオ、ゼルダの伝説、ポケモンといった任天堂のキャラクターだけでなく、ファイナル・ファンタジーやストリート・ファイター、メタルギア・ソリッド、ソニックなど他のゲーム会社の主要キャラクターまでが勢揃いする対戦ゲームとして皆様もよくご存知かと思います。
今年で25周年となる大乱闘スマッシュブラザーズは、ありえないと言われるコラボを次々に実現し、様々なキャラクターのファン層を取り込むことによって世界の売上本数3000万本を超えるメガヒットを記録しています。このような異なるコンテンツIPが一つのプラットフォームで共存する世界観は、まさにweb3が理想として掲げているものです。
そこで今回は、web3×コンテンツIPの現状と見通しについて考えていきたいと思います。ビットコインが史上最高値を更新して盛り上がる一方で、NFTは依然として冬の時代にあると言われていますが、コンテンツIPの領域では、NFTが単なる投機対象ではなく、実社会と結びついた形で発展しつつあります。
web3×既存のコンテンツIP
コンテンツIPはweb3のマスアダプションの鍵として期待されています。例えば、スーパーマリオは世界中で愛されているキャラクターであり、スーパーマリオが登場するゲームや映画、アトラクションなどは全て、「スーパーマリオ」というコンテンツIPの力で多くのファンを惹きつけています。もし任天堂がスーパーマリオをテーマにした限定のデジタルコレクションNFTを正式に発表したら、世界中のファンが殺到することは容易に想像できるでしょう。
コンテンツIPそれぞれがファンコミュニティを持っていることもweb3と相性が良いと見られている理由です。熱狂的なファンであればあるほど、特定のキャラクターに関する情報やアイテムを集めたり、同じコミュニティ内でインタラクティブな体験を求める傾向にあります。この点、トークンやNFTを使うことでファンに対してデジタルアイテムの所有感やコミュニティへの帰属意識を高めることができます。
こうしたweb3×既存のコンテンツIPに関連した取り組みは世界的に広がっています。
その代表例として、誰もが知るIPの巨人、ディズニーが2023年11月に「Disney Pinnacle 」というデジタルアイテムのNFTマーケットプレイスをDapper Labsと共同で立ち上げました。ディズニーやピクサー、スターウォーズのキャラクターを「digital pin」として売買でき、保有者はディズニーのキャラクターやイベントにちなんだ様々な特典が得られる予定です。現在はまだウェイトリストの段階ですが、登録時のアンケート内容をもとに選ばれたテスターによってクローズド検証が進められている可能性があります。また、8月に米カリフォルニア州で開かれるディズニー公式ファンクラブ「D23」の大規模イベントにおいて来場者向けの特別体験を提供するとのことで、近くに新しい発表があるかもしれません。
さらに、アベンジャーズで有名なマーベル・コミックスと、バットマンで有名なDCコミックスも「VeVe」というデジタルアイテムのNFTマーケットプレイスにライセンスを提供しています。ユーザーはデジタル画像付きのフィギュアやデジタルコミックスなどを米ドル建てで売買できます。最近ではマーベル映画「デットプール&ウルヴァリン」の公開に合わせてイベントを開催し、特別アイテムを販売しています。これらは外部ウォレットに持ち出すことができないプライベート環境で実装されていますが、ブロックチェーンおよびNFTを活用して管理されています。
一方、日本でも大手IPホルダーが、新しいエンターテインメントや収益モデルの創出のためにweb3技術を探求する動きを加速させています。スクエアエニックスは既存IP「ミリオンアーサー」と新規IP「シンビオジェネシス」を活用したブロックチェーンゲームをリリースしました。コナミはデジタルアイテムの売買ができるNFTマーケットプレイス「リセラ」を立ち上げ、その技術を事業者向けにも提供しています。さらに、セガはヒットゲーム「三国志大戦」のIPを活用したブロックチェーンゲームを、double jump.tokyoと共同で開発しています。
このように、既存のコンテンツIPを活用したweb3の取り組みは、まだ多くの課題が残されていますが、各IPホルダーが試験的に取り組みを進めています。例えば、ミッキーマウスやアイアンマン、ポケモン、ドラゴンクエストなどのキャラクターIPがブロックチェーン上で価値を持つようになれば、様々なIPが共存し、それぞれの価値がゲームを超えて取引される世界が実現するでしょう。それによって、大乱闘スマッシュブラザーズのように、異なるIP同士がデジタルの舞台で共演し、ファンに新しいエンターテインメント体験を提供することができます。
web3発祥のコンテンツIP
既存のコンテンツIPがweb3参入を検討しているのに対し、web3発祥のコンテンツIPが一般企業とのコラボレーションや消費者市場への進出を通じてファン層を拡大しようという動きがあります。
CryptoPunksとTiffany & Co.のコラボアイテム販売
ピクセルアートのブルーチップNFTとして知られるCryptoPunksは、ジュエリーブランドTiffany & Co.と提携し、保有者向けに限定のジュエリーライン「NFTiff」を提供しています。これによってCryptoPunksは、Tiffanyやジュエリーのファン層からの認知を獲得し、新たな購入に繋げることができます。2024年6月に行われたクリスティーズのオークションでは、CryptoPunks #1423 、NFTiff #130 、Tiffany & Co.ペンダントがセットになった商品が出品され、販売価格を遥かに上回る176,400ドルで落札されました。
DoodlesとG-SHOCKのポップアップストア出展
Doodleはカラフルでポップなキャラクターが特徴的なブルーチップNFTです。著名音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスが最高ブランド責任者に就任したことでも大きな注目を集め、コミュニティ向けにオフラインイベントも積極的に開催しています。2024年2月には時計メーカーG-SHOCKとコラボし、渋谷PARCO内にある2G TOKYOでポップアップストアを期間限定でオープンしました。リアル店舗の出展を通じてNFTを知らない多くの人にもブランドを発信しています。
Azukiのアニメ化
Azukiは日本のアニメテイストのキャラクターをモチーフにしたブルーチップNFTです。2024年4月にアニメシリーズ「Enter The Garden」としてアニメ化されることが発表されました。このアニメは、電通とコンテンツスタジオQzil.la、プロダクション会社IMAGICA Infosとの共同制作で、谷口悟朗氏をはじめ名だたるクリエイター陣が参加しています。Azukiはブランドストーリーをアニメとして発信することで幅広い層に知ってもらい、コミュニティの参加者あるいは支援者を募ることができます。
Pudgy Penguinsのトイブランド参入
Pudgy Penguinsは愛らしいペンギンの絵柄が描かれたNFTコレクションです。内紛によって一度は解散しかけましたが、創設者の追放とともにNFT保有者であったLuca Netz氏がブランドの権利を買取り、その後はIPの構築に動いています。その計画の始まりとしてPudgy Penguinsは子ども向けのおもちゃ市場に参入し、小売店やオンラインショップなどでキャラクターを使ったフィギュアやぬいぐるみなどを販売しています。次の構想としてNFT保有者や商品購入者が遊べるゲーム空間「Pudgy World」を発表し、一般消費者のweb3へのオンボーディングを支援するブランドになることを目指しています。
これまでweb3発祥のコンテンツIPは暗号資産やNFTに詳しい人だけが触れるものでした。それゆえブルーチップNFT以外のweb3 IPはブランドを築く前に潰れてしまうことがほとんどでした。しかし、今ではweb3 IPと一般経済のタッチポイントが少しずつ増えており、こうした流れの中でより多くの人がweb3の世界に参入してくることが期待されます。
web3版の大乱闘スマッシュブラザーズ
最後に、頭の体操も兼ねて、web3版の大乱闘スマッシュブラザーズの世界について考えてみましょう。
既存のコンテンツIPがブロックチェーン上に移行することでシステム上の互換性は生まれるでしょうが、異なるIPを相互にやりとりするためには、依然として各IPホルダー間の合意が必要になるでしょう。これには法律的な観点とビジネス的な観点が含まれます。
しかし、web3発祥のコンテンツIPは、今すぐにでも大乱闘スマッシュブラザーズのような世界を再現できます。web3はコミュニティから自発的に新しいプロジェクトが立ち上がることを歓迎しているため、多くのNFTコレクションでは利用規約の中で保有者に対する商用利用権を認めています。
実際にCryptoPunksに並ぶブルーチップNFTとして有名なBored Ape Yacht Club(BAYC)では、保有者が自身の持っているコレクションのデザインを付したハンバーガーショップを開店したことが話題になりました。そこではBAYCの保有者向けのイベントや特典も用意されたそうです。他にもBored Brewing CompanyがビールラベルにBAYCを使用したり、著名音楽プロデューサーのTimberlandがBAYCをテーマにした音楽レーベルを立ち上げるなどの例があります。
このように人気のNFTコレクションを集めることで、それらのデザインを利用した様々な事業を検討することができます。例えばCryptoPunks、BAYC、Azuki、CloneX、Moonbirds、Pudgy Penguins、DoodlesなどのブルーチップNFTを購入すれば、web3 IPのオールスターをテーマにしたレストランや宿泊施設、テーマパークなどを建てることもできます。その際には、BAYCの例に倣って、各コレクションの保有者に向けた特別な体験も提供すると良いかもしれません。
今後は一般企業が事業あるいはキャンペーンの一部としてweb3 IPを利用することも増えていくでしょう。web3 IPの活用を検討されている事業者様は下記
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