日本のクリプト界隈は技術をキャッチアップできなくなっている?
はじめに
こんにちは。web三郎です。2024年も残すところあとわずかになりました。
2024年のweb3業界は、ビットコインが最高値を更新するといった嬉しいニュースもある一方で、国内取引所がまたもや大規模な不正流出を許してしまうといったネガティブなニュースもあり、高揚感と失望感が入り混じる不思議な1年だったと感じるところです。
SNS上での話題も大きく変化しました。かつてのクリプト界隈では技術寄りの話題が頻繁に飛び交っていたと思うのですが、今年は「エアドロ」や「ビットコイン」のようなより一般層に訴求するキーワードのほか、「日本円ステーブルコイン/セキュリティトークン」や「ビットコインETF」といった金融のビジネスサイドに注目されるキーワードが目立っていたように感じます。
この変化は、web3のマスアダプションが進展し、投資の対象としても注目されるようになったことを示唆しているのでしょうか?
そうであればいいのですが、別の視点では、web3業界が短期的な利益追求を優先し、中長期的な利益をもたらしうるインフラ=技術をないがしろにしている、という見方もできるのではないでしょうか。本稿ではこの観点に立ってweb3業界の現在地点を確認したいと思います。
web3の現在地:技術からビジネスへ
web3は、かつて分散化された未来社会の青写真として、技術者たちの熱い視線を集めていました。しかし、現在の国内web3業界は、先述のようにその様相を大きく変えています。
日本のweb3業界は、暗号資産という金融資産としての側面が確立されつつある一方で、分散型アプリケーション(dApp)などの技術的な側面での社会実装は、まだ緒に就いたばかりの状態です。JVCEAのデータによれば、国内取引所の口座数は1100万口座、預託金残高は2.8兆円を超え、暗号資産への関心の高まりが伺えます。しかし、実際のところ、私たちの日常生活を大きく変えるようなdAppは、まだないといっても差し支えないでしょう。
技術を社会実装するためには、大規模な採用と、それに伴う規制や大企業との協業が不可欠です。このニーズに応えるべく、コンサルティングやインフラ提供といったB2Bビジネスが急成長しています。資金調達や事業企画など、ビジネスサイドの人材の力が強まり、技術は後景に追いやられつつあります。
一般ユーザーからの支持も、web3の大規模採用には不可欠です。しかし、SNS上では、インフルエンサーと広告主との利害関係により、技術的な深堀りよりも、短期的な利益に結びつきやすい話題が優先される傾向にあります。エアドロやビットコインの話題はその典型でしょう。web3がもつ技術的な可能性が十分に伝えられていない現状は、大衆の理解を阻み、技術の普及を遅らせているのではないでしょうか。
また、国内の規制環境が技術的な話題に向かい辛い言説空間を醸成している側面もあると思います。海外では、規制が厳しくなりつつある状況でも、VCなどの投資家がdAppsプロジェクトへ積極的に投資できる環境が整備されており、DeFiやRWAのようなイノベーションが生まれやすい土壌が形成されています。対して国内のVCは、トークンを保有することが法的に認められておらず(来年6月までには法改正により保有が解禁される予定)、技術を活かせる機会もあまり多くないというのが実情です。
ビジネスサイドの理解を超える技術群
近年、DeFi(分散型金融)は、その複雑さを増し、金融実務家でなければ何に使うのかも理解できないようなdAppsも少なくない状況にあります。
私見ではありますが、イールドファーミングの流行が一段落した2020後半~2021年頃にはすでに、金融屋以外には理解が難しい高度なデリバティブdApps(※)が登場しつつあり、マスに向けて意義を説明するのが難しくなっていたように感じます。
※Synthetix, Opyn, Hegic, Fulcrum, UMA, Aave V3, Uniswap v3, Nexus Mutual, Olympus DAOなど。
現在でもEigen LayerをはじめとするRestakingのような、もはや金融屋にも理解が難しいDeFi技術が人気を博していますが、実際に仕組みや意義がよく理解された上で動いてるマネーなのかは甚だ疑問です。
このような事象はDeFiの領域だけに留まりません。NFTの世界でもERC-6672やERC-7401、ERC-404のような新たなトークン規格が登場してきていますがあまり話題にされていませんし、Layer2を支えるゼロ知識証明の技術も詳細を理解できている人はさほど多くないように見受けられます。
このような苦言じみたことを書き連ねている筆者自身も、正直なところ技術トレンドのキャッチアップは年々難しくなっています。1年ほど前にVitalik Buterin氏が「enshrined ZK-EVM」という概念に関する投稿をしていたので読みましたが、恥ずかしながら前提知識が及ばず、わからないところが多かったです。
ビジネスサイドのあるべき姿
ただ一般論として、ビジネスサイドの誰もが技術の細部までを理解する必要はないと思います。まずビジネスサイドの目的はビジネスの成功であり技術はあくまでも手段です。
技術は抽象化され後景に退くものです。SNSのコンセプトを作るためにCassandraやWebsocketを理解する必要はなく、AIサービスを作るためにTensorFlowやApache Sparkを知る必要もありません(もちろん工数管理や要件定義の仕事となれば別です)。
また、新しい技術が古い技術に完全に取って代わるわけではないため、常に最新の技術動向を追う必要もありません。エンジニアの間でどのプログラミング言語が生き残るかという議論が盛り上がる一方で、実務の世界には無数の言語が生き残っていますし、また、ノーコードツールが持て囃される一方で、あいも変わらずWordpressは支配的地位を守り続けています。
重要なのは、技術が進歩することで不可能が可能になる、そしてそれこそがビジネスの価値の源泉であるという点を理解することです。
例えば、ウォレットのUIは慣れていないユーザーにとって直感的とは言えず、新規参入の大きなハードルとなっています。また、DeFi上でのKYC/AMLは、従来の金融機関のような中央集権的なシステムを代替するDIDなどの技術が未発達なために実装が困難であり、機関投資家の参入を妨げています。さらに、既存のアドテクノロジーはweb3の分散的なインフラストラクチャを十分にサポートできておらず、マーケティング施策の幅は狭いままです。
ビジネスサイドとしては、これらの障壁を単に認識するだけでなく、なぜこれらの課題がビジネス機会の損失につながるのかを深く理解し、どのような技術革新やビジネスモデルの変革によって乗り越えられるのかについて、常に思考を巡らせているべきだと思います。
たとえば、最近では、Account Abstractionの技術が進展し、ガスレス決済が可能になっています。これは、トランザクションごとに発生するガス代をユーザーが意識する必要をなくし、web2のようなスムーズなUXをweb3にもたらす可能性を秘めており、前述のウォレットUIの課題を一部解消しうるため、マスアダプションを促進する上できわめて重要です。
このような技術のキャッチアップと応用は、「いちいちガス代がかかるUXはよくない」という課題を予め認識できていれば、Account Abstractの仕組みを深くまで知っていなくても可能です。
技術をキャッチアップするよりも前に、ビジネスの課題を明晰に認識しておくことがビジネスサイドとしての節度ある姿勢なのではないかと思います。その上でしっかりと先端技術にもアンテナを貼り、その勘所を掴めるように鍛錬できればベストでしょうか。
おわりに:2025年、私たちは何の話題で盛り上がるのか
最後に、来る2025年に話題になる技術やトピックが何かという予想で締めくくりたいと思います。
暗号資産ETFやステーブルコイン、セキュリティトークンなどの、金融やコンサル領域のビジネスサイドが比較的理解しやすい話題は、直近の規制動向もあって引き続き話題に上りやすいように思います。とくにETFについては自民党の政調審議会で承認された提言でも触れられていたので、商品化に向けた本格的な取り組みが見られることと思います。
より広く一般投資家や愛好家も含めた「クリプト界隈」で話題になりそうなものは……すみません……予想がつきません。
海外ではクリプト愛好家らが飛び付いたトレンドやトピックを総称して「Crypto Narrative」と呼ぶことがあるようなのですが、Crypto Koryo氏の2023年2月時点での「今後2年のCrypto Narrative予想」が面白かったので紹介します。ただ紹介するだけなのも芸がないので、筆者の主観ベースで進捗を書き加えてあります。
ちなみにCrypto Koryo氏はDexu.aiというCrypto Narrativeにフォーカスしたデータ分析サイトを運営しているのでそちらも併せて見てみると面白いかもしれません。
それでは良いお年を。
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