web3の世界でもベネフィット・ステーションは普及するのか?
こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。
最近、日本のweb3界隈では合同会社型DAOの話題が尽きません。
合同会社型DAOについては様々な有識者が解説しているのでここでは詳しく触れませんが、日本ではDAOに法人格を付与する法的なルールが整備されました。米国でもワイオミング州やユタ州など一部の州で、DAOを法人として設立することが認められています。
このように、DAOを法人と見立てると、web3の組織でも一般企業と同様に人材を惹きつけるための福利厚生サービスが重要になることが予想されます。そこで今回は、従来の福利厚生サービスと比較しながら、web3特有の福利厚生サービスについて考察したいと思います。
従来の福利厚生サービスの役割とは?
そもそも福利厚生とは、企業が従業員に対して提供する給料以外の様々なサービスや支援を指します。これには健康保険や年金、休暇制度、子育て支援、研修・教育プログラム、社内カフェテリアやフィットネス施設の利用などが含まれます。福利厚生の役割は、従業員の生活の質を向上させることで、従業員のモチベーションと生産性を高め、企業への忠誠心を強化することにあります。また、優秀な人材を引きつけ、定着率を高めるためにも重要です。
しかし、企業がこれらの福利厚生サービスを独自に整備するには多大なコストがかかります。各種プログラムの設計や運営には専門的な知識とスキルが不可欠です。また、サービス提供のための契約締結や管理、従業員へのサポートには大量のリソースが必要です。例えば、健康保険プランの選定と提供、フィットネス施設の利用契約、育児支援プログラムの導入など、これらを個別に実行するには膨大な時間と労力を要します。さらに、サービスを適切に管理し、従業員に周知して利用を促進するためのコミュニケーション費用も発生します。
このような背景から、福利厚生代行サービスの普及が進んでいます。企業が直接福利厚生を提供する際に生じるコストや管理の負担を軽減し、効率的に多様なサービスを提供するため、多くの企業が専門業者に業務を委託するようになりました。その代表例がベネフィット・ステーションです。ベネフィット・ステーションは、企業に代わって全国で140万を超える福利厚生サービスを一括して提供し、管理を行うプラットフォームです。現在、導入企業の数は16,000社を超えています。このサービスを利用することで、企業は従業員に対して幅広い福利厚生を効率的に提供でき、管理コストも大幅に削減することができます。
ベネフィット・ステーションのビジネスモデルは、企業からの手数料収入を基盤とし、多様な福利厚生サービスを提供することで、企業と従業員双方のニーズを満たすことを目的としています。スケールメリットを活かしたコスト削減、オンラインプラットフォームによる利便性、利用傾向の分析によるサービスの最適化、そして企業の人材管理に関する戦略的サポートを通じて、高い価値を提供しています。このような総合的なアプローチにより、ベネフィット・ステーションは多くの企業に採用され、福利厚生代行サービスのリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。
web3における福利厚生サービスとは?
ここまでで従来の福利厚生サービスについておさらいしましたが、web3における福利厚生サービスとはどのようなものが考えられるでしょうか。以下にいくつかの例を挙げます。
トークン・インセンティブ
web3関連プロジェクトで働く人の多くは給与の一部を暗号資産で受け取っています。これにはビットコインやイーサリアムといった主要な暗号資産だけでなく、自社で発行するトークンも含まれます。自社発行のトークンは、プロジェクトが成功するほどその値上がり益が大きくなるため、従業員のモチベーションアップに繋がります。これは株式会社におけるストックオプションに類似したものであり、従業員が会社の成長に直接的に関与し、その成果を共有することができる福利厚生の制度と言えます。このような制度は、従業員が会社に対して長期的なコミットメントを持つことを促進し、離職率の低下に寄与することが考えられます。
トークン・インセンティブについては、少し前の記事になりますが、AstarNetworkの渡辺創太氏が実体験を踏まえて解説していますのでぜひご参照ください。
意思決定への参加
ここ数年でガバナンストークンを発行するweb3関連プロジェクトが増えています。このような組織においては、従業員が自社トークンを給与として受け取るだけでなく、組織の意思決定に参加することができます。ガバナンストークンを保有する従業員は、プロジェクトの方向性、資金の配分、新しい機能の追加などに対して投票や提案を行うことが可能です。
例えば、分散型取引所Uniswapでは、UNIトークンの保有者が組織運営に関する重要な決定に参加しています。この仕組みにより、通常の株式会社のように一部の大株主が決定権を握るのではなく、より公平な意思決定が行われます。これにより、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体のモチベーション向上につながります。
柔軟な労働環境と匿名性
web3関連プロジェクトも初めは会社として運営し、コアとなる従業員と雇用契約を巻いているケースがほとんどです。しかし、雇用契約の無い人であっても、ガバナンストークンを通じて世界中どこからでも組織に関わることができます。web3の組織では遠隔でのコミュニケーションが当たり前で、従業員はインターネットとウォレットさえあればどこからでも業務を遂行できます。
また、web3に関わる人は本名を明かさずにペンネームで働くことも可能です。従来の企業では雇用契約において個人情報を提供することが一般的ですが、web3の組織では匿名性を保ちながら働くことができるため、個人のプライバシーが保護されやすい環境が整っています。このような柔軟な労働環境は、副業をしやすいという点でも従業員にとって大きなメリットとなります。
NFTを活用した特典や報酬
web3における福利厚生サービスで最も重要な役割を持つと個人的に考えているのがNFTです。NFTはデジタル権利証として様々なユーティリティを付帯できるため、その所有者となる従業員に対してボーナスを支給したり、特別な研修・教育プログラム、施設利用、クーポンなどを提供することができます。
最近では、web3関連プロジェクト同士や一般企業とのコラボレーションが増えており、それによってNFT保有者向けの特典や報酬を充実させることが可能です。例えば、日本発のNFTコレクション「Neo Tokyo Punks」は、損益計算サービスを提供するクリプタクトと提携し、保有者向けに割引特典を付与するキャンペーンを実施しました。このように外部連携を通じてweb3の組織やコミュニティの魅力を高めようとする動きは、今後ますます増えることが予想されます。
web3版のベネフィット・ステーションを考える
web3関連プロジェクトは、述べたような福利厚生サービスを整えることで、運営に関わる人のインセンティブやモチベーションを高めています。しかし、従来の企業と同様に、各プロジェクトがこれらの環境を独自に整備するためには相当なコストがかかります。この問題を解決するために、実はweb3の世界でもベネフィット・ステーションのような福利厚生代行サービスが徐々に出始めています。以下では、現在存在するweb3関連の福利厚生代行サービスをいくつかご紹介します。
Opolis(米国)
Opolisは、web3関連プロジェクトや個人事業主向けの雇用管理プラットフォームです。Opolisに参加することで、給与管理、健康保険、退職金制度などの福利厚生を利用することができます。具体的には、給与の受け取り方法や健康保険プラン、退職金の貯蓄運用方法などを選択できます。また、ガバナンストークン「$WORK」を発行しており、保有者はプラットフォームの方向性や運営に関する提案や投票に参加できます。
Opolis以外にも、グローバル雇用管理プラットフォームとして有名なRemoteやDeelが、給与の暗号資産支払いに対応し、web3関連プロジェクト向けに福利厚生代行サービスを提供しています。これらは休暇制度やスキルアッププログラム、ヘルスケア支援、育児支援など幅広いサービスが含まれています。
PORT(日本)
PORTは、あらゆるNFTに対して様々なユーティリティを提供するサービスです。PORTがweb3関連プロジェクトに代わってホテルや旅館、文化施設などと提携し、それらの特典を既に流通しているNFTコレクションに対して一括して付与することができます。NFT発行側は自分たちで一社一社と契約することなく、NFT保有者向けのユーティリティを増やすことができます。
PORT以外にも、メタバースやブロックチェーンゲームが注目を集める中で、PlayNFTのようなサービスが現れました。PlayNFTは、クリエイターが作成したNFTに対して、様々なゲームのユーティリティを付与することができます。クリエイターやゲームタイトルにとって、個別に対応するのは大変です。そのため、一括して管理できるサービスが求められています。
このようにweb3の組織ではフリーランスやギグワーカー、リモートワーカーが多いため、彼らの働き方に対応した福利厚生代行サービスが好まれています。一方、新しいものではNFTのユーティリティを代行業者がまとめて提供するサービスも生まれています。
これらがweb3における福利厚生代行サービスとしてどこまで普及するかはまだわかりません。しかし、日本を含めて各国ではDAOに法人格を与える議論が進んでおり、法人格が与えられることでweb3関連プロジェクトがベネフィット・ステーションのような福利厚生代行サービスを導入しやすくなる面もあるでしょう。それにより、優秀な人材がweb3の世界へ入りやすくなり、業界全体の発展に寄与することが期待されます。
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