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日経平均大暴落に始まる歴史的な一週間を通過、今後のビットコイン相場の見通しは?


日経平均大暴落で暗号資産、ビットコインはもう批判できない?

2024年8月5日、日経平均株価は終値で4,451円安となり、1987年のブラックマンデーを上回る過去最大の下落幅を記録しました。これは、7月31日に日銀が予想外の利上げを決定して以来、わずか1週間足らずで7,000円以上も下落し、年初からの上昇分をすべて打ち消す形となりました。翌8月6日には一転して3,217円の大幅反発を見せ、これも過去最大の上昇幅となりましたが、その後も不安定な値動きが続いています。

この日経平均株価の大暴落は、米国株や欧州株、さらには暗号資産にも波及し、世界中のリスク資産が一週間にわたって大きく乱高下する事態を引き起こしました。その背景には、米国の景気後退懸念や日米の金融政策の転換、それに伴う急激な円高など、複数の要因が絡んでいます。下落のトリガーを一つに特定することは難しいですが、投機筋による円キャリートレードの巻き戻しによって暴落した、という指摘には説得力があります。

円キャリートレードの詳細については、多くの金融関係者が解説しているため、ここでは詳しく触れませんが、要するに、今回の暴落では日本円を使ったレバレッジ取引の解消が急速に進んだということです。

これまでは、日本の低金利、円安、株高の状況が続いていたため、投資家は日本円を調達し、外貨やリスク資産に投資することで金利差益、為替差益、キャピタルゲインの三重の利益を得ることができました。この環境下で、国内外の投資家やヘッジファンドによる円キャリートレードが拡大し、日本円の売りポジションが積み上がってきました。

しかし、日銀の利上げやAI半導体ブームの収束による株式市場の調整などによって日本の金利上昇、円高、株安の流れが強まり、それに伴って円キャリートレードの大規模なデレバレッジが発生しました。実際に米国商品先物取引委員会(CFTC)の統計によれば、8月5日から6日にかけて投機筋による日本円の売り越しポジションが急減していることが確認されています。その数量が7月にピークを付けた後、減少に転じていたことを考えると、暴落の兆候は既に現れていた可能性があります。

このような過度なレバレッジに伴う暴落は、金融の世界で歴史的に繰り返されてきた問題です。暗号資産もその例外ではありません。テラショックやFTXショックを思い出すと、暗号資産を担保にしてステーブルコインを借り入れ、それをさらに他の暗号資産に投資するというレバレッジ取引が広がっていました。しかし、米国の金融政策の転換や景気動向の変化により、暗号資産の上昇トレンドが終わると、その巻き戻しにより市場は急激に暴落しました。

また、このような急激な暴落のスピードについても、暗号資産だけではなく、金融市場全体のIT化を象徴する問題として捉えなければなりません。現在では、アルゴリズム取引や高頻度取引(HFT)の普及により、市場が予期せぬ方向に動いた際には、デレバレッジやポジションの解消が従来以上に急速かつ大規模に進行しやすくなっています。さらに、SNSの普及により、事件やFOMOに関する情報が世界中に瞬時に広がることで、これらの動きがさらに加速する傾向にあります。

これらの問題は、金融関係者が暗号資産を批判する際の典型的な例として挙げられてきました。しかし、今回の日経平均株価の暴落は、現代の金融市場が抱える共通の問題であることを浮き彫りにしたと言えるでしょう。

日経平均大暴落に伴うビットコイン売りは限定的

日経平均株価の暴落と世界同時株安に伴い、暗号資産市場でもリスクオフの動きが鮮明になりました。ビットコインの価格は一時700万円台まで急落し、暗号資産市場全体の時価総額は1日で20兆円規模が消失しました。特にリスクの高いアルトコインの投げ売りが目立ち、イーサリアムを含むほとんどの銘柄がビットコイン以上の下落率を記録しました。その結果、ビットコインのドミナンス(市場全体に占める時価総額の割合)は57%に達し、2021年4月以来の高水準となっています。

また、分散型金融(DeFi)市場でも資金が引き上げられており、DeFiLlamaによると、8月に入ってから市場全体のTVL(Total Value Locked)は数兆円規模で減少しました。これは法定通貨建ての相場下落の影響が大きいですが、例えばイーサリアムでは、日経平均株価が暴落した2024年8月5日にETH建てでのTVLが減少し、ソラナやバイナンスチェーンなどでも同様の動きが見られます。

さらに、これらの動きを受け、DeFiを中心とする投資家がステーブルコインに資金を移す動きも強まっています。ステーブルコインは米ドルなどの法定通貨に価値が連動しているため、市場がリスクオフに傾いた際には現金のような安全資産として見られる傾向にあります。

このように総悲観ムードが広がっていますが、今回のビットコインの下落率は過去と比較するとそれほど大きなものではありません。YahooFinanceのビットコイン価格(米ドル建て)の日次データによれば、日経平均株価の暴落時にはビットコインは最大で約15%下落しました。2017年以降のデータで同様に始値から最安値までで15%以上下落した日を調べると、25日間も該当します。

すべてを振り返るのは難しいため、過去最大の下落率を記録したトップ3の日付に焦点を当ててみましょう。

YahooFinanceより

1位. 2020年3月12日

  • 始値: $7,913.62

  • 最安値: $4,860.35

  • 下落率: -38.58%

  • 背景: 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、世界的な市場崩壊が発生。投資家は現金確保のためにリスク資産を売却し、ビットコインも大幅に下落しました。

YahooFinanceより

2位. 2021年5月19日

  • 始値: $42,944.98

  • 最安値: $30,681.50

  • 下落率: -28.56%

  • 背景: 中国による暗号資産取引の規制強化およびテスラによるビットコイン決済停止の発表が市場に衝撃を与え、ビットコインを含む暗号資産市場全体が大幅に下落しました。

YahooFinanceより

3位. 2018年1月16日

  • 始値: $13,836.10

  • 最安値: $10,194.90

  • 下落率: -26.32%

  • 背景: 韓国や中国による規制強化の懸念が市場に広がり、暗号資産市場全体が急落。ビットコインは2018年1月にICOブームのピークを迎え、調整局面に入りました。同年1月26日にはコインチェックのハッキング事件が起こりました。

第1位は新型コロナウイルスの発生、第2位と第3位は暗号資産の主要国における規制強化等をきっかけにビットコインが暴落した時です。これらの事例からわかるように、ビットコインは世界経済危機や金融当局による締め付けといった外部要因が絡む場合、大幅に動揺し、深刻な下落を経験することがあります。

また、テラショックの余波が広がった2022年6月13日(下落率:-17.19%)と、FTXショックが現実的になった2022年11月9日(下落率:-15.43%)にもビットコインは15%を超える下落率を記録しました。このように、ビットコインは暗号資産関連企業等の大規模な破綻によって断続的に暴落することもあります。

しかし、今回の日経平均株価の大暴落は、パンデミックや震災など世界経済を揺るがす事件が引き起こしたわけではなく、ビットコインや暗号資産市場に対してネガティブな影響を与えたわけではありません。ましてや日本の主要な暗号資産関連企業が破綻して起きたものでもありません。

そのため、ビットコインの下落は、過去の大規模な暴落と比較すると、より限定的な要因に基づいていると言えます。具体的には、日経平均株価の急落や世界同時株安が投資家のリスク回避の動きを引き起こし、その影響が暗号資産市場にも波及したものと考えられます。これは、暗号資産市場が伝統的な金融市場との連動性を高めている前向きな証拠でもあり、ビットコインがグローバル経済の動向に影響を受けやすくなっていることを示しています。

Glassnode:100BTC以上のアドレス数(左軸:オレンジ)とBTC価格(右軸:黒)
2024年8月のBTC下落時には大口保有者が買い増ししている様子がわかります

さらに言えば、アルトコインは下げ幅が厳しいものもありましたが、ビットコインに限っては過去の暴落時に見られたような大規模な投げ売りや市場全体のパニックといった状況には至っていません。これは、米国における現物ETFを通じた資金流入によってビットコインの市場が成熟し、より多くの投資家が長期的な視点でビットコインを保有していることを反映しているのかもしれません。

2024年下期のビットコイン相場の見通し

もちろん、今後の市場の動向には依然として注意が必要です。最後に、2024年下期のビットコイン相場の見通しについて、注目すべき主な材料を整理しながら簡潔に述べます。

米国の利下げと景気後退懸念

米国では7月の米雇用統計等が弱い結果になったことで景気後退懸念が高まっています。これに伴い、連邦準備銀行(FRB)が2024年9月に利下げを開始することが濃厚となり、0.5ポイントの利下げを予想する声も増えています。

しかし、パウエルFRB議長が慎重な姿勢を崩し、いきなり大幅な利下げに踏み切るとは考えにくいです。仮に利下げに踏み切る場合でも、8月後半のジャクソンホール会議での発言や、9月に発表される経済指標を踏まえ、市場を動揺させないよう慎重に対応するでしょう。いずれにしても、利下げ方針が固まったことはビットコインにとってポジティブな要因です。

一方で、米国の景気後退懸念が顕在化した場合には、金融市場全体でリスク資産が売られる可能性があります。しかし、直近の米国企業決算を見ると、AI半導体ブームの調整で株価は下げていますが、GAFAMを筆頭に企業業績は依然として好調です。もし米国経済がソフトランディングできず景気後退に陥ったとしても、ビットコインは国や企業の信用リスクをヘッジする手段として有効であり、史上最高値の更新は難しいかもしれませんが、価格を相応に維持するでしょう。

日銀の追加利上げはあるのか?

日本の金融政策が暗号資産市場に直接的に与える影響はほとんどありません。これは、国内では機関投資家や伝統的な金融プレイヤーがまだ暗号資産市場に参入していないためです。しかし、今回のように株式市場全体に大きな影響が及ぶ場合は、その限りではありません。

日銀は日経平均株価の暴落を受けて、積極的な追加利上げに踏み切れなくなったと考えられます。また、米国の利下げが決定的となり、日本政府が問題視する過度な円安進行に対処する必要性も薄れています。当面は静観が続くでしょうが、投資家が「日銀はやはり利上げできないのか」と判断して為替が再び円安に傾いた時には、植田総裁の発言などに注視する必要があります。

ビットコイン現物ETFの普及

2024年1月に米国でビットコインの現物ETFが成立し、香港や英国、オーストラリアでも同様の動きが見られています。さらに、これらの国々ではイーサリアムの現物ETFも承認され、ブラジルではソラナの現物ETFも誕生しました。このように、米国以外の地域やビットコイン以外の銘柄でも現物ETFの取り扱いが広がる動きは、今後も続くでしょう。それに伴い、より多くの投資家が暗号資産に投資し、価格も下がりにくくなると予想されます。

The Block:ビットコイン現物ETFの資金フローの推移

また、現在、米国を中心に現物ETFの資金フローが市場のセンチメントを表す指標として注目されています。リスクオフ局面では資金流出が多くなり、その動きにより相場が一喜一憂することもあります。しかし、現物ETFという大きな資金の受け皿ができたことで、金融市場から新たな資金が継続的に流入する可能性があることが重要です。流入と流出を繰り返す中で、ビットコインの流動性が徐々に高まり、底値が切り上がっていくと考えられます。

イスラエル情勢の悪化

イスラエルとイランの間で緊張が高まっています。イラン側が大規模な報復攻撃を示唆しており、もし戦争が始まった場合、リスク資産の売りが短期的に強まる可能性があります。しかし、過去を振り返ると、地政学リスクが高まる場面では自国通貨や金融システムの代替手段としてビットコインが注目されてきました。そのため、イスラエル情勢の悪化による相場への影響は限定的と予想されます。ただし、戦争が起これば資源や物資の価格が高騰し、各国のインフレが再燃するリスクには警戒が必要です。

米国大統領選挙の結果

Decentierでは、初回のテレビ討論会後に、米国大統領選挙に関する特集の第一弾を出しています。その後、民主党側ではバイデン大統領の撤退やハリス氏の代表選出といった大きな動きがありました。一方、共和党側ではトランプ氏が銃撃から復活し、ビットコインカンファレンスに登壇してビットコインに言及するという出来事がありました。

2024年の米国大統領選挙では「暗号資産」が討論の大きなテーマの一つになっており、民主党と共和党のどちらが勝利するかによってビットコインの相場も左右されるでしょう。この点については、9月に予定されている第2回テレビ討論会の後に改めて述べたいと思います。

さて、金融市場の歴史に刻まれるであろう日経平均株価の大暴落がありましたが、ビットコインの相場が大きく崩れる事態には至っていません。年半ばに株式市場および為替の調整が入ったと考えれば、むしろポジティブな要因と捉えることができます。米国の景気動向は冷静に見極める必要がありますが、2024年末にかけてビットコインの価格が高騰し、半減期アノマリーが再現される期待は持てるでしょう。

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