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ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」第10話(最終回)から、杉原音、曽田練の北海道での再会シーン。(シナリオ)

ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」
10話(最終回)から。
杉原音(有村架純)と曽田練(高良健吾)の北海道での再会シーン。

・北海道・矢羽根町、ファミレス店内
ウエイトレスにテーブル席へ案内され、座る練。
練「コーヒーください」
ウエイトレス「かしこまりました」
練、店内を見回し、外を見る。
メニューを手に取り、めくっていると、来客を報せるチャイムが鳴った。
練、振り返ると、入ってきたのは、黄色いコートを着た音だった。
練、あ、と。歩み寄ってくる音。
ふうと息をつき、練の前に座った。

音「(無愛想な表情で、目を見ず)どうも」
練「どうも」
音、いきなり呼び出しボタンをポンと押した。
ウエイトレスが来る。
ウエイトレス「お待たせしました」
音「コーヒーください」
練「お腹空いてないですか?」
ウエイトレス「(待っている)」
音は反応しない。
練「(ウエイトレス)にコーヒーで」
ウエイトレス「かしこまりました」
行くウエイトレス。
練「(メニューを示し)今見てたら、いろいろありましたよ。
デザートとかも」
反応しない音
練、頷き、メニューを置いて。
練「ありがとう。勝手なこと言ったのに、来てくれて」
音「いえ」
練、頭を下げて。
練「このたびはお悔やみ申し上げます」
音(小さく礼をする)」
練「おばさんは、お体の調子は」
音「足が良くないから」
練「じゃあ、杉原さんがずっと」
ウエイトレスが来て、音と練にコーヒーを置く。
ウエイトレス「お待たせしました」
音「ありがとう」
練「ありがとう」
ウエイトレス、行って。

練「杉原さん、(後頭部に触れ)怪我は?」
音「(後頭部に触れ)もう」
練「あ、良かった。お仕事はどうされるんですか?」
音「前にいたクリーニング店の方が、来ればって言ってくださっ てるんで」
練「そうですか。じゃあ
音「元に戻っただけです」
練「びっくりしました、急に引っ越しされたんで」
音「すいません」
練「あ、いえ‥ただ、空っぽの部屋見たらなんか(と、淋しげに微笑って)」
音「(その笑顔を見ながら)そうですか」
練「あの部屋、気に入ってるって言ってたから」
音「最悪な部屋でしたよ。結露ひどいし、毎日換気しないとカビ生えるし、駅から遠いし、エレベーターないから」
練「‥仕事も辞められたんですね」
音「やっと」
練「すごく頑張って‥」
音「頑張ってましたけどね、五年働いて、一度も給料上がらなかったんです。最悪な職場でしたよ」
練「送別会が‥」
音「東京の話はもういいです。別に、特に、嫌なことしかなかったから、思い出したくないんです。もう忘れました」
練「少しくらいはいいこと‥」
音「なかったです。東京でいいこと一個もなかったです」
練「‥」
音「もういいですか?」
練「なんか食べませんか?(メニューを手にし)俺、お腹空いてるんで」
音「ひとりで食べればいいじゃないですか」
練「杉原さんとご飯食べるの久しぶりだし」
音「(一瞬間があって)別に」
練「簡単なのでいいんで、早く食べるんで」
音「勝手に頼めばいいじゃないですか」
練「はい、頼みます。いちおう二人分頼みます」

練、メニューを見て。
練「前来た時はハンバーグ食べましたよね?美味しかったですよね。何ハンバーグ頼んだんでしたっけ」
音「(おぼえてないと首を傾げ)」
練「じゃあ、デミグラのと大根おろしのとどっちがいいですか?二つ頼んで分けましょうか。(呼び出しボタンを持って)押しますね(と、押す)」
鳴って、音も練も鳴った方を見る。
ウエイトレスが来た。
練「ハンバーグセットの、デミグラスと大根おろしと‥」
音「(小声で)トマト‥」
練「はい?」
音「(いえ、と首を振る)」
練「(ウエイトレスに)デミグラスのと大根おろしの、二つください」
ウエイトレス「かしこまりました」
行くウエイトレス。
練「前みたいに分けましょうね」
音「(ぼそっと関西弁で)トマトのや」
練「えっ?」
音「前頼んだのは、トマトソースのと大根おろしのや」
練「あ‥(と、呼び出しボタンを手にする)」
音「ええよ(と、薄く苦笑)」
練「そうだ。トマトの、美味しかったですよね」
音「(標準語に戻り)おぼえてないから」
練「あの時、杉原さん‥(思い出し、笑って)」
音「何(と、少し表情がやわらぐ)」
練「杉原さん、東京の家具屋さんは広いから道に迷うって本当ですかって」
音「言ってません」
練「言いましたよ。行きました?東京で、家具屋さん」
音「まあ」
練「迷いました?」
音「家具屋さんでは迷ってないです」
練「どこで迷ったんですか?」
音「六本木ヒルズ?」
練「(笑って)」
音「何で笑うんですか」
練「杉原さん、六本木ヒルズ行くんですか?」
音「東京に六年住んでましたから、そりゃ何回かは」
練「あそこ、(首を伸ばして見上げ)こう、なりますよね」
練「(笑って)」

音「(首を伸ばして見上げ)まあ、なりますね」
練「会社の先輩に言われました。ビル見上げるな。見上げたら田舎者だってバレるぞって」
音「それ言ったら、お腹空いた犬はみんな見上げてますよ」
練「(笑って)お腹空いた犬?確かにお腹空いた犬は、確かに見上げてきますけど‥(と、首を傾げる)」
音「(下を向いて、少し微笑って)サスケだって」
練「サスケもお腹空いたら見上げますね」
音「サスケは東京生まれ、東京育ちですよ」
練「(笑って)」
音「(笑って)サスケ、元気にしてますか?」
練「昨日、風呂に入れたら、脱走しました」
音「顔がね、濡れるの嫌なんだよね」
練「最近ちょっと杉原さんに似てきましたよ」
音「(関西弁で)違うよ、曽田さんに似てきたんや」
練「(顔を真似してみる)」
音「(笑って)それは、ただ、変な顔した曽田さん」
練「(笑って)」
音「(微笑みながら)全然面白ないし‥」

微笑みながらコーヒーを飲む音。
練「(そんな音を見つめながら)‥今度は、サスケ連れてきますね」
音「え?」
練「サスケも杉原さんに会いたいと思うし」
音「それは(会いたいけど)遠いし」
練「新幹線だって出来たし、(ケージを示し)これに入れて」
音「(外の方を見て)入るかな」
練「連れてきますね。サスケと一緒に来ますね」
音「(外を見ていて)‥」
練「杉原さんが迷惑でも、僕は‥」
音「(外を見たまま)迷惑ちゃうよ」
練「‥」
音「(外を見ながら)嬉しいよ」
練「‥」
音「(下を向き)嬉しいに決まってるやん。今かて、めっちゃ嬉しいよ。来てくれて‥(と、首を傾げる)」
練「‥」
音「(厨房の方を見て)ハンバーグけえへんなあ」
練「(厨房の方を見て)はい」
音「‥(練に)あんな」
練「はい」
音「ほんまはな、おばさんな、帰ってこんでもええよ、東京におりって、言うてくれてんねん」
練「はい」
音「でもそんなん無理やねん。おばさんひとりで暮らすんは」
練「はい」
音「あとな。井吹さんもな」
練「(頷く)」
音「優しい人やから‥優しい人やったから(と、言葉に詰まる)」
練「(頷く)」
音「(言葉に出来ず)‥うん」
練「はい」
音「東京には帰らへん」
練「はい」
音「ここで暮らす」
練「はい」
音「引っ越し屋さん」
練「はい」
音「好きやで」
練「‥」
音「好きなんやわ」
練「‥」
音「それはほんまに‥」
必死に涙を堪える音。
音「(頑張って微笑んで)サスケの写真、送って?飾っとく。
毎日サスケの写真見ながら寝るわ」

練「‥(頷く)」
音「送ってくれる?」
練「(頷き)送ります」
音「ありがとう。これで安心して、振り出しに戻れるわ(と、微笑う)」
練「(合わせて微笑って)‥」
ウエイトレスがハンバーグセットを二つ持ってきた。
ウエイトレス「お待たせしました。大根おろしのハンバーグとトマトソースのハンバーグです」
音、練、え、と思う。
ウエイトレス、当たり前のように淡々と置き。
ウエイトレス「ごゆっくりどうぞ」
と言って、行く。

音と練、トマトソースと大根おろしのハンバーグを見て、顔を見合わせて、えー、と。
練「(微笑って)」
音「(微笑って)何でトマトソースの来たんかな」
練「運がいいですね」
音「(苦笑し)そんなちょっとの運ある?」
練「(微笑って)」
音「(微笑って)」
練「分けますね」
音「はい」
練、ハンバーグを取り分けはじめる。
その様子を眺める音。
練、分けながら話しはじめる。
練「振り出しじゃないですよ」
音「うん?」
練「杉原さん、振り出しじゃないです。前にここで会った時の杉原さんと、今の杉原さんは全然違います」
音「‥」
練「苦しいこともあったけど、違います。変わってないように見えるかもしれないけど、違います。人ががんばったのって、がんばって生きたのって、目に見えないかもしれないけど、心に、残ってるんだと思います。杉原さんの心にも、出会った人たちの心にも、僕の心にも」
音「‥(頷く)」
練「北海道遠くないです。何回でも来ます。道、ありますから。そこ走ってきます。電車でも、車でも」
音「(頷く)」
練「会津に行く約束だって、まだ果たしてないんです。猪苗代湖見せたいし、じいちゃんの種の大根だって食べてもらいたいです」
音「(頷く)」
練「道があって、約束があって、ちょっとの運があったら、また会えます」
音「(思いを込めて、強く頷き)会える」
練「僕も杉原さんのことが好きです」
音「はい」
練「はい」
練、切り分けたハンバーグを音に戻す。
音「(ありがとうと礼をし)いただきます」
練「(頷き)いただきます」
食べ始める二人。

・ファミレス 駐車場
店の方から来た音と練。
駐車場に駐めてあるトラックに向かう。
歩いていて、偶然手が触れる。
練、ちょっと音を意識する。
音、ちょっと練を意識する。
そのまま歩く。
トラックの前に来て、互いの手が近づき、触れた。
練、ぎゅっと音の手を握る。
音、練の手を握り返す。
互いに引き寄せ、向き合う。
音、練の顔を見て、練、音に顔を寄せて。
二人、キスをする。
トラックにもたれるようにそのまま抱き合う。
離れて、照れたように見合って。
練、ドアを開け、音を補助する。
乗り込む音、シートベルトをする。
練「荷物、どけてもらって」
音「うん」
練、ドアを閉め、運転席側から乗り込む。
練「こっちもだいぶ」
音「うん、あったかくなってきた」
練、エンジンをかける。
音、窓を開ける。
音「そこ出たら、右行って、すぐ左」
練「近道?」
音「ううん、遠回り」
走り出すトラック。
車内の二人の笑顔が見えて。
夜の中に走り去った後、路上のアスファルトに
小さな花が咲いていた。
(終わり)
#いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう
#坂元裕二 #有村架純

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