ラーメンパンスペルミア
「うん、ベーコンも悪くないな」
私がそう言うと、ダンはちょっとだけ得意気な顔して
「まあ、本物のベーコンじゃないと駄目だけどね」と言った。
私は食というものに対してそれほどこだわりが無いから、ラーメンを食べる為にわざわざスウェーデンから日本にやってきたというダンに対して、友人ながらちょっと頭のおかしな奴だという認識を持っていた。
そんなダンが、間違いなくラーメンに合うお勧めのベーコンがあるから試してみろと言うので、仕方なく市販の生ラーメンを調理し、そのベーコンを乗せて食べてみたのだが、なるほど、これは美味い。チャーシューより良いかもしれない。
もしこのベーコンがスウェーデンでしか手に入れられない物だったら、私もベーコンの為にスウェーデンまで行くかもしれない。
まあ、これは東京でも手に入るのだが。
私に新たな認識をもたらしてくれたダンに対して、「おかしな奴」から「興味深い人物」に格上げを検討し始めたのも束の間、
「タク、ラーメンは宇宙だよ」
と言い出したので、格上げは保留となった。
いや、言いたいことはわからなくはない。一杯の丼の中で全てが完結するという意味では、ラーメンはそれひとつで小宇宙を形成する稀なる食べ物だ。
ああ、私もダンの影響で頭がおかしくなってきたぞ。
「違うよタク。僕が言いたいのはラーメンは宇宙から来たってことさ」
うん、これはわからない。意味がわからない。こちらとしては友人のよしみで話を合わせたつもりだったのに。
「タク、確かに君の超丼理論は興味深い。しかしね…」
まあ、ダンの言いたいことは要約するとこうだ。
「ラーメン程の宇宙的食物が、そもそも地球起源である筈が無い。ラーメンは宇宙から地球にやってきて、現生人類は地球にある素材でそれを再現している」と。
「なるほど、それで合点がいった。つまりナルトは銀河を表しているのか」
「タク、それは短絡的だよ。大体ラーメンにとってナルトは必須ではない」
私は深いため息をついた。
そして1分程黙ったあと、自分でも思ってもみないことを口にした。
「ダン、人類はラーメンから生まれたのかもしれない」
ダンは暫く固まり、一点を見つめた。
そしてゆっくり口を開いた。
「つまり、宇宙から地球に飛来したラーメンはそこで人類を生み出した…」
私は大きく頷いた。
ダンは悲しい目をしてこう言った。
「何故、私の国はラーメンが無いのだろう」
「いいかい?ダン、日本にだって数百年前まで食べ物としてのラーメンは無かったんだ。でも大いなる母としてのラーメンは最初から失われてはいない。何故なら人類自身がラーメンだとも言えるからだ」
私たちはラーメン丼に宇宙船を浮かべてそれに乗り込んだ。
長い年月をかけて麺世界やスープ世界を巡り、宇宙船の中でもラーメンを作り食べ、ラーメンに浸かり自身とラーメンの境い目が分らなくなった時、地球は丼としての役目を終え、ラーメンは次のラーメンへと昇華する。
そしてまた麺の空からスープの雨が降り注ぎ、人類は新たなページをめくる。