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ROOTS OF "D" 第3回 ZI:KILL 『HERO』(1995)

第2回を書いて以降、取り上げる作品について迷いに迷った末、今回はD'ERLANGERと並んで中1の自分に既に解散してしまっていた過去のVISUAL ROCKを掘り下げるきっかけとなったアーティスト=ZI:KILLを初めて体験したマキシングル『HERO』を取り上げたいと思います。

ZI:KILLに関しての詳細はWikipediaを参照していただくとして、そもそも97年春の時点で中1の哲朗少年(DEATHRO)は"ZI:KILL"というバンドがかって存在したということを全く知らず、当時はお小遣いをやりくりしてPENICILLINを中心とした現行のVISUAL ROCKの音源を収集するのに夢中になっていた。

もちろんPENICILLINにしても全てのカタログ、特にメジャー流通ではなかったインディーズ時代の作品が近所の千葉電気や久美堂に揃っているわけではなかったので、時には海老名や厚木、相模原方面にも自転車で遠征して探しまわることもあったのだが、その遠征の一環で今でもビナウォーク内に現存する新星堂海老名店に立ち寄ると、そのインディーズ&ヴィジュアルコーナーの品揃えに驚愕した。

地元愛川町の久美堂や千葉電気ではなかなかお目にかかることが出来なかったPENICILLINのインディーズ1stアルバムのリメイク盤『GOD OF GRIND』をはじめ、media youthのインディーズ三部作やSleep My Dearの『MOVE』や『MIRAGE』、ROUAGE『ROUAGE』等々、SHOXX紙の円盤屋やBrand-Xの広告でタイトルしか知り得なかったCDの数々が陳列されている光景に興奮を禁じ得なかったが、冷静に財布を確認してみると入っていたのはちょうど千円札一枚のみで、到底それらのCDは買えるわけもなかったが、謎の意地で何としてもこの店で何か一枚買わずにはいられなかった。

そこでシングルCDより曲が多く入っている可能性があるJ-ROCKマキシシングルのコーナーに照準を定めた哲朗少年は、まずBUCK-TICKの『見えない物を見ようとする誤解、全て誤解だ』という凄まじいタイトルのマキシシングルを手に取ったが、2曲入りだということと、いずれBUCK-TICKについて書く際に詳しく記述するつもりだが、小学生時代に一度聴いた『six/nine』での苦手意識があったため棚に戻して、次に手に取ったCDが今回紹介するZI:KILLのマキシシングル『HERO』だった。

ZI:KILLについて知っている情報は皆無に等しかったが、帯に書いてあった『解散しても未だなお抜群の人気を誇るZI:KILL』の文字で判る通り、『HERO』は彼らの94年の解散翌年の95年に、メジャーデビュー後最初に在籍した東芝EMIから、おそらくほぼメンバーが関わらない形でリリースされた91年リリースのシングル『HERO』の未発表バージョンと90年末の川崎クラブチッタより『LONLEY』のライブテイクを収録したピクチャーディスク仕様のマキシシングルで、おそらくこのCDがバックインレイ無しでプラケースから見えるピクチャーディスク仕様でなければ哲朗少年はBUCK-TICKの『見えない~』同様に棚に戻していたに違いない。

記事冒頭の画像でも掲載させていただいたが、このディスクデザイン&メンバー写真に哲朗少年は完全にヤられてしまい、すぐさま千円札とともにレジに向かう訳だが、振り返ってみるとこれが未知なるアーティストの音源を『ジャケ買い』した初めての経験だったのに加えて、僕が未だにこのバックインレイ無しでピクチャーディスクが外から見えるこの仕様がCDというフォーマットの最もカッコいい使い方だと思っているのは、もちろんこの時に受けた衝撃を忘れられないでいるからだ。

果たしてその足で再び海老名から愛川町まで40~50分ほど自転車をこいで自宅に戻りミニコンポの再生ボタンを押して、流れてきた『HERO』がタイトル通りの正義感を持つサウンドに『僕に向けるナイフが今は見えなくて』という印象的なリリックを、当時自分が知る限りの現行VISUAL ROCKには無い独特の正義感と若干の陰りとワイルドさを同居させたオリジナリティ溢れるボーカルにのせて思春期真っ最中の哲朗少年に突き刺さってきた。

ブックレットのメンバー表記には、vo.TUSK/Gu.KEN/Ba.SEIICHIとピクチャーディスクに写っている『HERO』を叩いているドラマーであろう人物はTETSU、3曲目『LONLEY』のライブテイクのみYUKIHIROとそれぞれクレジットされていて、この二人こそSavel Tiger~D'ERLANGER~ZI:KILL~BODY~CRAZEの菊池哲氏と、GUERRILLA~ZI:KILL~DIE IN CRIES~LArc-en-cielのYUKIHIRO氏であり、この後に自分が影響を受けまくる様々なバンドのドラマーだった事を考えると、このCDを手に取ったことはある意味必然だったのかもしれない。

後にロッキンfの91年2月号を読み、それがYUKIHIROのZI:KILL脱退ライブと知ることとなる3曲目『LONELY』の川崎クラブチッタでのライブテイクを聴き終わる頃には完全にZI:KILLという今は形を持たない存在に魅了されており、解散したものの自分がJ-ROCKに目覚める以前に存在した素晴らしいアーティストはBOØWYだけではなかったのだということも確信し、決定打となるのはこの少し後に兄の幽閉が入手することになるD'ERLANGERの『LA VIE EN ROSE』だが、以降兄弟二人で現行以前のVISUAL ROCKも掘り下げていくこととなる。

作品に話を戻して、その後数々の中古CDを入手することなる内陸工業団地にあったヨシダ電機にて91年にリリースされたオリジナルの8cmシングル盤『HERO』を購入して、本来のリバービーで空間の広がりを感じさせるミックスを聴き、何故マキシシングル盤のミックスが不採用になったのか当時の哲朗少年は納得するのだが、執筆にあたってマキシシングル盤を聴きなおしたところ、今現在の自分の趣向だとマキシシングル盤のドライかつ分離がハッキリして隙間を持たせたミックスがクセになってしまったのだが、皆さんはいかがだろうか。

いずれにせよこのマキシシングルをきっかけに集めたZI:KILLの『真世界~Real Of The World』『CLOSE DANCE』『DESERT TOWN』『IN THE HOLE』『ROCKET』といったオリジナルアルバムはビジュアルロックの源流というだけでは括りきれない、他に類を見ないオリジナリティと実験精神溢れるポストパンク/オルタナティブロックが刻まれているので、BOOK・OFFの¥500以下コーナーで見かけた際には是非手にとって欲しい。
そして願わくばその作品群が前回取り上げたPENICILLINのワーナーパイオニア時代のカタログ同様にオフィシャルな形でインターネットの海原に解放されること強く希望している。



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