超名作「ミッチェル家とマシンの反乱」を三幕構成で分解してみた
株式会社闇のトンカ(@tonka1981jp)と申します。
みなさん、忘れてませんか?
Netflixで「ミッチェル家とマシンの反乱」を観るの、忘れてませんか?
だめですよ。あれは絶対に観ておくべき映画です。
おすすめする理由とか書き出すと、何かが憑依してキーボード鍵打が止まらなくなるので辞めときます。
一言でいうと「スパイダーバースの制作チームが作ったクレヨンしんちゃん映画版(語弊あり)」です。今回も信じて!観て!
で今日はミッチェル家とマシンの反乱のストーリーと伏線回収がいかに素晴らしかったかを、観た人とだけ共有したいと思います。
なので、観てない人は、今すぐブラウザバック。
そしてNetflixと契約せよ。
-------------この続きをみるには-------------
ミッチェル家とマシンの反乱を観ろ
(マジで以降ネタバレしか無いぞ)
はい。今世紀史上最高の映画でしたね!
さっきも言ったとおり、ストーリーの何が良かったかを分解して考えてみましょう。こんなに良いお手本はないよ。
ハリウッド映画のストーリーを分解するのに「三幕構成」以上のフレームワークを私は知らないので三幕構成に当てはめて解説します。
で、実際に当てはめて分かったんですけど、あんなに絵はハチャメチャなのに、物語の構成が、三幕構成のお手本通りにピタッピタッとハマっていく感覚がありました。
なので、三幕構成を学ぶという点でも、この映画はとてもいい教材なんではないでしょうか。
ちょうど社内でストーリー構成について解説する機会があるので、このnoteを読んでもらうことで済ませましょう。
なので三幕構成ってなんやねんって話から、オレオレ解説(スナイダーが見たら助走をつけて猫を投げつけてくるレベル)も挟みながら、改めて映画のストーリーを分解してみたいと思います。
※用語は三幕構成警察がややこしいので一旦wikipediaに準じます
※スナイダー用語とシド・フィールド用語両方使ってるのは許してくれ。
解説の前に:三幕構成の基礎の基礎
はい、三幕構成を簡単に説明すると、非常に単純な話で
「物語を3つのパートで作りましょう」といったフレームワークですね。
一幕 状況の設定があって
二幕 困ったことが起きて、主人公が困って
三幕 ぜんぶ解決する
それだけのことが、何故こんなに便利に使われてるのかは理由があります。
突き詰めると「人間が面白いと思うもの」って汎用性があるんですね。
逆につまらないと思うものにも共通性があります。
そこでハリウッドの人たちが(この人達は映画が失敗すると数百億失うので必死なのです)少しでも失敗を防ぐため、ちょっとでも脚本を面白くするために、ノウハウを継ぎ足し継ぎ足し生み出されたのが「三幕構成」なわけです。
このお約束さえ守れば、多くの人が満足してくれる超便利なテンプレートが爆誕したんですね。どんなジャンルでも面白くなるんで皆がこぞって使ってるわけです。
なので三幕構成の大事なポイントは、
三幕(映画を3つのパートに分けること)を意識するだけではなく、
・それぞれの幕で何を盛り込むべきか、
・幕が変わるタイミングで何をすべきか、
・幕が変わるたびに登場人物はどうあるべきか、
・幕が変わると何が「変化」したのか
という観点が重要なんですね。
ただ上記の点も難しくなく(※嘘、めっちゃ難しい。ただ説明がややこしくなるんで簡単ってことにしてくれ)用意されたテンプレートをうまく埋めていくだけです!
では実際の「ミッチェル家とマシンの反乱」を幕の大事なポイントごとに解説していきます。
第一幕: セットアップ(フラッシュバック)
この映画は開始直後からとんでもないシーンから始まります。
理由はよくわからないがミッチェル家が「最低の家族」と紹介され(たしかにダメそうだ)、そして彼らが車に乗ってロボットから逃げ回ってるというシーンが目に飛び込んできます。
サブスク全盛のこの時代、セットアップに時間をかけることは嫌われる傾向にあります。そのためフラッシュバック形式(これから起こる盛り上がりシーンを先に見せる方式)で、この映画はこんなテンションです!この先こんな面白シーンがあるから、セットアップを耐え抜いてね!という役割を担っているですね。(そしてすでに細かい伏線をばら撒き始める)
第一幕: セットアップ(オープニングイメージ)
セットアップはこの映画がどんな映画か、どんな登場人物か、どんな悩みを持ってるのかをテンポよく示す役割があります。この映画では5分〜15分ぐらいがセットアップに当てられています。
セットアップの重要なポイントは登場人物の「悩み」が自然に表現できているかだと思うの。その点でこの映画は完璧でした。
ここでセットアップ中に描かれた登場人物の悩みを並べてみましょう。
ケイティ(主人公)
【悩み】
・本当の仲間と言える存在がいない。
・自主映画を作っているがパパに認められない。
・認めてくれないパパがうざくて家を出たい。
【理想】
・早く家を出て大学で本当の仲間と映画を学びたい。
パパ
【悩み】
・娘との関係がうまくいかない。
・家族はスマホばかりみている。テクノロジーが憎い。
・娘の映画の夢は理解できず心の底から応援できない。
【理想】
・昔のように仲の良い家族でありたい。
・父親として頼られたい。
ママ
【悩み】
・娘とパパが反発ばかりする、空回りしている状態に心を痛める。
・隣の家のインスタ写真への劣等感。
【理想】
・仲の良い家族でありたい。
・羨ましがられるような家族写真を撮りたい。
弟
【悩み】
・仲の良い姉が出ていくのが寂しい。
・姉がいなくなると恐竜トークができなくなる。
・女の子と話せない。
【理想】
・恐竜トークができる、新しい友達がみつかるまで少しでも姉といたい。
ミッチェル家それぞれに悩みと理想があり、自然なエピソードでそれらを紹介しています。また家族全体にかかるテーマの提示として「この家族は変である・ポンコツである」というキーワードが繰り替えし語られます。
10分間でよくもまぁここまで詰め込んだな。
第一幕: インサイティング・インシデント(キャラクター編)
物語が動き出す「きっかけになる事件」が起きます。それがインサイティング・インシデントです。カタリストとも言います。これが起きないと映画はずーっとつまらない日常になりますから。日常が変わるきっかけを作りましょう。映画では15分目ぐらいに起こります。
大学へ向かうためのケイティの飛行機を、パパが勝手にキャンセルしミッチェル家全員で大学まで送るための車旅行することになりました。
パパの提案で、旅行中に様々なアクティビティに挑戦するが碌なことがおきません。
このあたりはコメディとしても素晴らしいテンポでエピソードが放り込まれます。
第一幕: インサイティング・インシデント(プロット編)
また映画全体を揺るがす「きっかけとしての事件」が並行して起きます。
こちらは後で出てくるセントラル・クエスチョンに関わる事件です。
テクノロジー開発者が新しい「パル マックス」というAIのロボットを発表します。その演出のため、従来のスマホAI「パル」が開発者に時代遅れとして捨てられます。パルは人格があり、開発者のことを家族だと思っていたのに。
パルは反乱を起こし、ロボットを従え発表会をめちゃめちゃにします。そして開発者がロボットに連れ去られます。
第一幕: セントラル・クエスチョン
セントラル・クエスチョンは「この映画全体で一番重要な解決すべき課題」のことです。
超大事!例えば下記のようなものがセントラル・クエスチョンです。
・ホラー映画なら「お化けから逃げるか」
・探偵者なら「犯人を捕まえられるか」
・暴れん坊将軍なら「悪人を成敗できるか」
これがなかなか示されなかったり、曖昧だったりすると「我々は一体に何を観せられてるんだ」ってなります。分かりやすく出しましょう!
恐竜ショップに実際のロボットが攻めてくるシーンで提示されます。なんとロボットが人類を捕獲し始めるので、ミッチェル家は家族で協力してロボットと立ち向かおうとしますが、どうにもここでもポンコツです。
「はたしてミッチェル一家はロボット達から無事に生き残ることができるのか」
このセントラル・クエスチョンが、冒頭のフラッシュバックも含め観客にメッセージされます。
ファースト・ターニングポイント
いよいよ幕が切り替わる瞬間です。時間は30分目ぐらい。ちょうど映画の1/4あたりに設定されています。お手本通り!
ここでは幕が強引に切り替わるダイナミックな事件が必要です。
この映画では世界中の人がロボットに襲われました。そしてパル本社がパルたちの基地となりパルが人類に宣戦布告を行います。
ミッチェル家以外の人間が全員ロボットに捕まったことが分かりました。
世界を救えるのはミッチェル家だけということです!
ただのロードムービーものと思ったら、とんでもないスケールになってきましたね。
第二幕前半
ここは起承転結でいう承のあたりで、物語は順調に進んでいきます。
ケイティがロボットたちに立ち向かうプランを提示しますが、パパが却下してバリケードに立てこもろうとします。
そこに運良く故障したロボット2体(エリック達)が味方になり、ロボットの反乱を止める方法がわかります。
ここで、ケイティはパパを説得するために重大な嘘をついてしまいます。
ミッチェル家は、パルを止めるキルコードを入力するためショッピングモールに向かうことに。
ストーリーは順調に進行しますが、このパートでは数多くの重要な伏線がばらまかれます。少しでも時間を無駄に使わないその姿勢、憧れます。
第二幕:ピンチ
ここでいうピンチは「やばい状況」ではなく重要な出来事を「挟み込め」ってことです。登場人物が増えるタイミングだったりします。
この映画では文字通り「ピンチな状況」として現れます。
ショッピングモールにミッチェル家が到着し、キルコードを入力します。
しかし、その間にパルチップが搭載された家電製品とファービーが攻めてくるのです。
ここではエリック達が家族の仲間に加わるという、登場人物が増えるシーンとして描かれています。
第二幕:ファン・アンド・ゲームズ(お楽しみポイント)
このへんで悪ふざけとか、お約束とか宣伝で使えるお楽しみポイントとかテンションがぶち上がるシーンとかが入ってるとよいですね。
という訳でこの映画では55分目ぐらいに「巨大ファービーが大暴れ」という超イカれたテンションぶち上がりシーンがあったりします。最高かよおい。
第二幕:ミッドポイント
脚本でこれまた重要なポイントです。
主人公の危険度が急激に向上し、敵と衝突するようなポイントです。ストーリーが大転換する事件を映画のちょうど中盤に起こすことで観客がよりワクワクするわけです。
映画内でもまさしく真中付近の60分目に起こります。
家族全員でなんとか倒した巨大ファービーが、まさかルーターまで破壊してキルコードがアップロード完了直前で止まってしまいます。
まさかの作戦が大失敗となりました。
作戦の立案者であるケイティは大きく凹んでしまいます。
そこにパパが、本拠地であるパル本社に向かおうと家族に呼びかけ、
家族がここで一致団結します!!
第二幕:バッドガイズ・クローズ・イン(迫りくる悪い奴ら)
敵が更にパワーアップして主人公たちを追い詰めるシーンです。
敵は外的要因だけでなく、心の内側的な内的要因や仲間内の問題も含みます。
ミッチェル家全員でロボットに変装しパル本社に乗り込んでました。しかしパルは予測しており警戒するようロボットに注意を呼びかけています。(お手本通りパワーアップした黒ロボットも登場します!)
そしてパルによってケイティの嘘が白日にさらされ、せっかく団結していた「仲の良い家族」が崩壊します。
第二幕:オール・イズ・ロスト(全てを失って)
主人公が敗北し、登場人物が死んだりするシーンです。とにかくこの辺で誰か殺しておかないといけないんです!観客に大ショックを与える必要があります。
映画では70分目ぐらいに起きました。
パパとママがロボットに攫われ、仲間だったエリック達が再びパルの命令により敵対することになります。
頼みの綱だったキルコードの入ったUSBメモリは破壊されてしまいます。
ケイティは本当にすべてを失ったのです。
第二幕:ダークナイト・オブ・ザ・ソウル(心の暗闇)
主人公が敗北によって希望すら失うシーンを描きます。
主人公に物語を後ろ向きに歩むことすら許されるシーンです。後のクライマックスを効果的に描くために主人公にはバッチリ凹んでもらいましょう。
映画ではパル本社から森の奥まで弟と逃げ帰り、そしてケイティはパパに対する嘘を弟に責められます。
セカンド・ターニングポイント
お待ちかねのセカンド・ターニングポイントです!ここでまた幕が切り替わる事実が明らかになります。ここまで長かったですね。
第一幕:第二幕:第三幕の時間的な関係性は、1:2:1の関係が良いと言われているので、他の幕より必然的に倍程度長くなるわけです。
最悪の状況である主人公に新たな事実を提示し、決戦に向けて立ち向かう切り替えポイントに成ります。主人公の心境にも(葛藤の末の)大きな変化を描いておくと観客は自分ごとのように一緒に立ち上がっちゃいます。
映画でもちょうど3/4の時間に当たる75分目ぐらいに設定されています。
この映画ではケイティとパパそれぞれ同時にターニングポイントが起きるよう構成されています。
ケイティは昔の動画を観て、ケイティのためにパパが夢を諦め、ケイティを選んだことを知りました。またケイティが捨てようとしたお守りが、その時の夢のカケラだったと知ります。いつもパパが見守ってくれていたことに気がつきます。
パパはパパで、ケイティの作った自主映画をたまたま目撃します。
「夢を否定し、辛いとき、支えてほしかったのに支えてくれなかった」という劇中映画のセリフからケイティに向き合えてなかったと気づきました。
第三幕:フィナーレ
ここからクライマックスに向けて最終決戦が始まります。すべての問題の解決、伏線の回収をこの幕に叩き込む必要があります。
敵の主張を主人公の主張でぶち倒してやるのです。
映画では、80分目ぐらいから。
ケイティが再びパル本社に来るまで乗り込みます。車には秘密兵器が搭載されており、マッドマックスしながらケイティ無双が始まります!
またママが覚醒し、とんでもない映像が始まってしまいます!まじか!
第三幕:クライマックス
主人公と敵の直接最終決戦です。ここで緊張がピークになるように描きます。つまり大ピンチ状態だったり、仲間が駆けつけたり、最大の謎が解けたり、主人公の変化した心境が明確に示されるような、観客が思わず歓声を上げてしまう状況を作ります。映画では90分目にぶち上がります。
ギリギリでパルを倒せず、高所から突き落とされるケイティを、パパが最高の方法で救い出します。
そしてマイアヒーー!でマイアハー!でマイヤハッハ!です。
ママは一人でマトリックスになってます。
テナガザルの方向の伏線までここで回収して、パルを倒します。
第三幕:エンディング・ファイナルイメージ
物語はついに幕を閉じます。最高の勝利なのか、扉を閉められて「ゲームオーバー!」なのか、映画により様々ですが、セントラル・クエスチョンに決着が着き、とにかく映画は劇的に終わる必要があります。
またこの際に、主人公たちの成長が描かれていると言うことなしです(ホラーとかだと描きにくい場合も多いですが)。
このキャラクター成長の軌跡を「キャラクターアーク」と言いますが、私は映画の構成を通して失敗を経ても立ち上がって物語を解決させる、人間的成長が大好物です。
なので、オープニングの画作りと対になるように作ると、登場人物の成長差異が分かりやすくなります。
あと、最終回エンディングでオープニング曲の2番とかかかると全人類は泣くのでなるべく入れるようにすると良いでしょう。
映画では95分目にケイティが大学にいく、それを家族で見送る形で描かれます。オープニングと完全に対になった構造です。
シガー・ロスのホッピポッラは反則級の反則です。
ここで各登場人物のキャラクターアークが最終どの様になったかが示されます。改めて書き出してみましょう。それぞれの悩みの対になった答えになっています。
ケイティ(主人公)
【成長】
・大学で仲間たちと充実しているが、家族もまた本当の仲間だと思うようになった。
パパ
【成長】
・娘を含む、家族の関係が本当に仲良くなった。
・娘の夢を応援し、テクノロジーとも格闘しながら向き合っている。
ママ
【成長】
・娘とパパの関係が素晴らしいものに
・素敵な家族写真は撮れなかったが、最高の写真は撮れた
・変な写真をあるがままの家族として誇れるようになった。
弟
【成長】
・恐竜トークができる新しい友達が見つかった。
・しかも女の子で、会話もできるようになった
(癖で飛び出してしまうこともあるが)
そして家族が「変である」ことを受け入れるメッセージとしてこの旅行の家族アルバムが使われます。
完璧じゃないか!!!
ものすごく逆算で物語が作られていますが、ここまで完璧に各ピースを置けるものなのか…。
スタッフロール
泣いちゃう。
というわけで分解終わり!
はい、という訳で三幕構成の要素を解説しながら「ミッチェル家とマシンの反乱」の分解を行ってみました。
勢いで書いたら変なとこで間違ってたらすません!
ただ良く出来てるんだわホント。絶賛されるわけだわ。
しかも「ミッチェル家とマシンの反乱」の素晴らしいポイントはまだまだあって、映像表現の挑戦とかネット文化の扱い方なんか唸っちゃうレベル。
あと伏線のはり方が、適当に置きましたでなく、物語的にめちゃくちゃ必然性があるエピソードにこれでもかと打ち込んでくるんで、物語後半のカタルシスと納得度が凄いんですよ。(ママの覚醒については私に聞かないでくれ)
せっかくなので全体プロットと各キャラクター別の動き、シーンごとに用意された伏線をスプレッドシートにまとめてみたので、
参考にしてみてください。
ちょっとネタバレ書きすぎてるので、もしかしたら非公開にするかも。
結局何かが憑依してキーボード鍵打が止まらなくなったパターンだった…。
ただ、こうやって自分で分解してみると、勉強になるな〜とも思いましたので、自分でも好きな映画あれば、ぜひチャンレジしてみてください!