失われた麺を求めて。
川越にはかつて笑堂っていう豚骨ラーメンの老舗があって、とても美味しくてファンがおおかったんよ。でもオーナーの体調不良とかで泣く泣く閉店してしまった。
で、数年振りに笑堂が復活したということで行ってみたんだ。わくわくと懐かしさ、あの豚骨の匂いを求めて。
それで、券売機を見て愕然としたね。
「豚骨ラーメン」なんてどこにも書いてねえの。
何かの間違いかと思ってガン見したけど、正しかった。豚骨ラーメンなんてなかった。代わりに書かれていたのは「イタリアンラーメン」だとか「鶏パイタンラーメン」とか、そんなの。
戸惑いながら店長の方見たら、こっち見て微笑んでるのよ。嬉しそうに。何かと思ったらお客さん、ぜんぜんいなかったんだよね。広いコンクリート打ちっぱの店内に、こじゃれたジャズが響いてた。
もう座るしかないよ。ここでラーメンを注文するしかない。俺が求めてた豚骨ラーメンはこの店にはない。でも座って注文した。
出てきたのは鶏パイタンラーメン。すごく盛り付けが綺麗で、店長の気合いが感じられる見た目だった。
味も言うことない。美味しい。こんな美味しいラーメン屋が川越にできたことが嬉しい。おっちゃんの満足げな顔も自分のことのようにうれしい。
完食して店を後にする。腰の低いおっちゃんが、俺の食べたラーメンを片付けていた。テーブルも一生懸命拭いて、ぴかぴかだった。鶏パイタンラーメンは確かに美味しかった。美味しかった…。
俺は帰り、チャリを漕ぎながら泣いたね。LAWSONの大きなツインシューうま。
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