「ひと山」越えるために大切なこと (2022/6/1)
記事の長さはおよそ2,000文字。3~4分程度で読めます。
記事のポイント
官民挙げて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が叫ばれても、中小企業の事務机からファクスの山が消えない。
鋼材加工メーカー、中島特殊鋼は約400社の取引先からファクスで届く注文書の束に6人ほどの事務員がかかりきり。同社も大口取引先5社との受発注はEDI (電子受発注システム)でのやりとりだが、紙は減っていない。
大企業各社のEDIは独自仕様で互換性がないため、EDI画面をいったん紙に印刷し、改めて自社の販売システムに入力するからだ。業務負担はファクスとほとんど同じ。
1970年代に大企業が1次取引先と専用回線を結んだ「個別EDI」は、80年代に入って業界ごとに仕様が統一され「業界標準EDI」に進化した。それでも導入コストが高く、2次、3次の取引先までの広がりはなかった。
90年〜2000年代にインターネット時代を迎えて状況が一変。EDI構築コストが下がり、大企業だけでなく、1次取引先もそれぞれの「ウェブEDI」を立ち上げた。
2次、3次の中小企業が見た目も操作方法も異なるウェブEDIの乱立に翻弄される「多画面問題」が発生した。
中小企業庁は16年から、業界の垣根を越えて使える新しい標準規格「中小企業共通EDI」を提唱するが成否は見通しにくい。大企業や業界それぞれの商習慣が壁になる。
例えば特殊鋼業界ではメーカーが顧客に合わせて特別にカスタマイズした「客先協定鋼種」などが全体の1〜2割を占める。異業種を共通EDIで束ねる利害調整が容易ではない。
製造業のDXで先行するドイツは、中小企業のEDI導入などを無償で支援してきた。20年には欧州域内で業界横断のデータ交換をする基盤整備プロジェクトが動き出している。
一方、日本のEDIは70年代から40年余り「未完」のままで、コロナ下でもファクスのための出社を余儀なくされた。
官民とも「部分最適」の思考に引きこもっていては、社数ベースで日本の産業界の99.7%を占める中小企業の底力は発揮できない。
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「アメリカでは博物館にあるファクスが、日本では会社にある」
という冗談があるほど、日本ではファクスの使用率が高いですね。
(実際には、海外でもファクスの使用率はそれなりにあるようですが)
私自身は何年もファクスを使っていませんが、使い続けられているにはそれなりの理由があるはずなので、なぜなのか考えてみました。
ファクスの利点
誰でも、どこでも使える(どこにでもあり、PCより簡単に使える)
セキュリティ面が安心(ハッカーに狙われる心配がない)
紙で見られる(同じ文字でも画面で見るのとは安心感が違う?)
さらに企業の観点からいえば、システムの自社開発やプロセスの独自性に価値を置く文化や、下請けとの力関係もあるのではないでしょうか。
(”紙”プロセスは「受け手側」に負担がかかります)
こういった利点や背景はあるものの、できることならシステム化したいと考えている方も多いと思います。
ファクスのシステム化に限らず、これまでのやり方を別のやり方に変えようとすれば、変革に着手した直後は今までよりも作業負荷が増えてしまいます。
(これまでのやり方で作業は継続しつつ、変革後のやり方の検討やテストが必要になるため)
そのため、将来的にはラクになるのがわかっていても、直後の作業負荷という「ひと山」を超える気力が出ず、面倒なのはわかっていても現状のやり方を続けてしまうんですね。
外に出て運動したほうが将来的な健康のためには良いのがわかっていても、一歩が踏み出せず家の中でテレビを見ながらダラダラ過ごしてしまうのと同じですね。
行動経済学でいう「現在志向バイアス」や「現状維持バイアス」の影響を感じます。
「現在志向バイアス」:目の前の小さな利得に目を奪われて、後で得られるはずの大きな利得を失ってしまうこと。
「現状維持バイアス」:現在の状況からの移動を回避する(現状を続けたくなる)傾向。
※得をするより損を防ぐことに熱心なために起こる。
この「ひと山」を超えるためには、「リーダーシップを発揮」して、
関係者の「危機意識をあおり」
変革実現後の「将来の姿(目に見えやすいビジョン)をはっきり示す」
ことが大切です。
『企業変革力』ジョン・P・コッター著(ハーバード大学ビジネススクール名誉教授)
標準規格「中小企業共通EDI」は中小企業庁が提唱しているようですが、本当の意味で効果的な規格にするためには、大企業も含めて日本にある企業全体が関わる必要があると思います。
「デジタル庁」がリーダーシップを発揮して取り組むのが望まし気がします。
追伸
日経新聞では「ファックス」ではなく「ファクス」なんですね。
本投稿は日経新聞に記載された記事を読んで、私が感じたこと、考えたことについて記載しています。
みなさんの考えるヒントになれば嬉しいです。
「マガジン」にも保存しています。
「学びをよろこびに、人生にリーダシップを」
ディアログ 小川