【恋戌くろえBD記念SS】最高の誕生日
※このSSは「バーチャルあっとほぉーむカフェ」とそこに所属する「バーチャルメイド」をモデルにした二次創作です。筆者独自の解釈や事実と異なる部分を含みますので苦手な方はご注意ください。
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ゴーン……………ゴーン……………
お出迎えの時に鳴らすベルの音とは違う、少し重たい鐘の音が私の耳に届いた。
鐘の音がなると言えば、日付が変わる午前0時の鐘のイメージがあるが、時計に目をやると実際は日付が変わるまであと長針一周分ほどの時間を残している。
この鐘の音はお給仕終了を告げる合図なのだ。
私たちメイドがお給仕するお給仕部屋には、各部屋に1つずつ鐘が配置されており、その部屋のメイドのお給仕終了時刻になると音が鳴る仕組みになっている。
この音も、いかにもお屋敷中に響いていそうな大きな音だが、魔法の力で部屋の外には聞こえないようになっているのだ。
「……………………もう終わっちゃった。あっという間だったな……。」
私は静かになったお部屋でそっとつぶやいた。
今日は私の誕生日。
一年に一度の特別な日。
そんな日を一緒に過ごそうと、今日はたくさんのご主人様お嬢様が私の部屋にご帰宅してくださった。
ワンダーランドではただのポメラニアンだった私が、こんなにたくさんの人に誕生日をお祝いしてもらえるなんて、まるで夢のようで今でも信じがたい。
ギュッ…………………………
「………………いてっ…………………………」
まだ夢を見ているんじゃないかと自分の頬をつねったが、頬に伝わる刺激にこれは夢じゃないんだと気づかされる。
「…………………へへっ…………………………」
漫画みたいなべたなやり方で確認してしまった自分の行動の可笑しさと、先ほどまでの楽しい時間を思い浮かべて思わず顔がほころんだ。
「………………………お部屋に帰ろっと。」
私は少し後ろ髪を引かれながら、ご主人様お嬢様からいただいたたくさんのプレゼントを抱え、お給仕部屋を後にした。
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お屋敷の長い廊下を自室に向かって歩いていく。
想像を遙に上回るプレゼントの多さに、用意してきた袋では収まりきらず、どうにかバランスを取るのに精いっぱいだった。
全部大事なプレゼントだ。絶対に落としたくは無い。
やっとの思いで部屋にたどり着き、プレゼントで塞がった両手で自室の扉をなんとか開く。
そのままドア枠にプレゼントを引っ掛けないよう、慎重に部屋の中に滑り込んだ。
部屋の中は、窓から差し込む月明かりに照らされているだけで薄暗かったが、我ながらよく整理整頓されたこの部屋は、真っ暗な中で歩いたとしても何かに躓いて転ぶということはないだろう。
ようやく壁沿いのベッドにたどり着き、プレゼントをその上に降ろした。
ほっと胸を撫でおろし、プレゼントの山を崩さないようベッドに腰かける。
これからこのプレゼントを開封すると思うと、私の楽しい1日はまだ終わりそうにない。
ふと窓際に目をやると、月明かりに照らされた窓辺の机の上には、「17」の形を模したろうそくが刺さった大きなケーキが置かれている。
そうだ。あれを食べる楽しみもまだ残っていた。
昨晩、日付が変わったと同時に、まだろうそくに火がついた状態のあのケーキを持って、大勢のメイド達がサプライズで部屋に突撃してきたのだ。
その後お部屋の中は大賑わいで、みんなを送り出した後、冷蔵庫にも仕舞わずにそのまま寝ちゃったんだっけ……………………。
幸いまだ気温もそんなに高くは無いし、キッチンの妖精さん達の魔法がかかった特製ケーキはすぐ痛んでしまうということは無いだろう。
昨晩夜更かしをしてしまったから、今日起きたのはお給仕開始時間ギリギリで、とてもじゃないけどお給仕前にケーキを食べている時間は無かった。
いつもならそんな夜更かしして寝坊をするなんてことは無いのだが、夕べからとても楽しくて、ついはしゃぎすぎてしまった。
去年もいろんなメイドにお祝いしてもらったが、まだメイドを始めて日が浅く、お互いの距離感を図りかねていることもあり、こういったサプライズは無かったから、まさかこんなものを用意してくれているなんて思いもよらず、尚更嬉しかった。
去年よりも楽しかったのはお給仕でもそうだ。
この一年間、お仕えさせていただくご主人様お嬢様が増えたこともあり、本当にたくさんのご主人様お嬢様がお部屋にご帰宅してくださった。
お給仕中も幸せいっぱいで、いつもより長い時間のお給仕だったが、ホントに時間があっという間だった。
何もかもが今までにないくらい幸せで、今日はこの17年間で最高の誕生日だったと思う。
そう思うとまた顔がほころびそうになった。
ふと向かいの壁際を見る。
棚の上に綺麗に並べられた小物と一緒に飾られた1枚の写真が目に留まり、私はハッと息をのんだ。
それを見た瞬間、先ほどまでの楽しい気分がしゅん…………………と小さくなり、私の心にぽっかりと空いた穴が顔を覗かせてくる。
写真には二人の人物が写っていた。
一人は私。もう一人は私の大好きな人。
ピンクの髪を二つに結って、きれいな藤色の瞳を輝かせている。
萌夢みるも・・・・・もんちゃんが天使業のため”夢みるお国”に帰ってから、早くも一週間が経とうとしていた。
はじめにその話をもんちゃんから聞いた時は、思わず泣いちゃったっけ。
今生の別れでは無いし、前々から話を聞いて覚悟はしていたものの、初めて経験するもんちゃんの居ないお屋敷はやはり寂しい。
萌夢みるもがお屋敷にいない……………………。
そのことだけが唯一今日に欠けているものだった。
今日がとても良い1日だったことには間違いない。
でもやっぱりできることなら、もんちゃんと一緒に今日を過ごしたいと思わずにはいられなかった。
「……………もんちゃんが居てくれたら、もっと楽しい誕生日だっただろうな…………………………」
そんな言葉が思わず口からこぼれた。
その時、窓の外に浮かぶ夜空に何か動く物が見えた。
はじめは飛行機かなにかかと思ったが、こちらに近づいてくるにつれて、それはよく見慣れた生き物であることがわかった。
私は急いで駆け寄り、窓を開け放った。
言葉を運ぶ青い鳥は、何か大きな包みをぶら下げて、私の部屋の窓辺に降り立った。
その小さな体には重そうな荷物をほどいてやり、手に取る。
その大きさとは裏腹に軽い包みをほどくと、中から出てきたのは――――
――――――チューリップの花束だった。
こんなに大きな花束………誰からだろう………………………
そう思う間に青い鳥は、その花束の送り主の声で話し始めた。
よく聞きなれた、大好きな人の声で………………………。
「はっぴーはっぴーぴぴぴのぴ♩…………………ぽちゃん…………誕生日おめでとう。今年は直接お祝いできなくてごめんね。今日だけはどうにかしてお屋敷に行けないかと思ったんだけど、やっぱりどうしても天使業から手が離せなくて行けなくなっちゃった。」
「……………もんちゃん…………………………」
私の心を見透かしたかのようなタイミングで届いたそのメッセージに、胸の奥にじんわりと暖かいものが広がる。
青い鳥は萌夢みるもの声で言葉を続けた。
「お詫びと言ってはなんですが、ぽちゃんが寂しくないように、ささやかながら誕生日プレゼントを用意しました。大好きなぽちゃんに受け取って欲しいです。夢みるお国のチューリップ、とってもきれいでしょ?」
改めて包みの中に目をやる。
よく見るとそのチューリップは、見たことのない独特な形の花びらをしていた。
「夢みるお国のチューリップはこんな形なんだね。」
もんちゃんの見てる世界を少し覗けた気がして、なんだか嬉しくなった。
「チューリップの花言葉は"思いやり"なんだって。ぽちゃんにピッタリだと思わない?来年は一緒にお祝いできるよう、みるちも天使業を頑張るから、ぽちゃんはお屋敷でお給仕頑張ってね。どんなに離れていても"ぽちみる"はず~っと一緒だよ。」
そこまで話し終えると、自分の役目を果たした青い鳥は、また夜空の彼方へ飛び去って行った。
そうだ。
もんちゃんがいつでもまたお屋敷に戻って来られるよう、私がこのお屋敷を守っていかなくちゃいけない。
寂しいからって、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。
「そうだねもんちゃん。ずーっと一緒。」
私は一人、チューリップの花束に向かってそうつぶやいた。
私の誕生日の、足りなかった最後のピースが"カチリ"と音を立ててハマった気がした。
やっぱり今日は最高の誕生日だ。
END.
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