【書評番外編】ペリリュー/楽園のゲルニカ(武田一義・白泉社)

「覚悟ある武人の死は美しいものだと想っていた。だが今間近に来て知る。死というものは実に汚らしくおぞましく無残な悪臭を放つ」(3巻)、「この島は日本の一部となり、ならば我々も日本人になろうとした。だがアメリカとの戦争が終わり、この島を復興させていく段になって彼らはいなくなった」(10巻)
 第二次世界大戦中、現在のパラオ・ペリリュー島における米軍との戦闘から生還した一人の日本軍兵士を中心に展開する、きれい事だけでは済まされない戦場の生々しさを表現した作品。
 
《本の紹介》
 今回は、番外編ということで漫画の紹介です。漫画と言っても、著者は実際にペリリュー島から生還した土田喜代一氏との対談をはじめ、様々な歴史的な文献を参照しているため、南の島々における「援軍のない籠城戦」の悲惨さ、えげつなさ、を我々に視覚的に示してくれます。冒頭で紹介した1つ目の台詞は、ペリリュー島の日本軍側のトップが自決する前の最後の発言。本国からの「持久」命令に従い、自身も含めて飢えによる栄養不足から様々な病変に見舞われる兵士を率い、限界まであらがった末に玉砕を指示したあとの台詞です。
 
 2つめの台詞は、ペリリュー島の村長が、戦後、日本兵に語りかける言葉。パラオは戦前、委任統治領として日本の統治下にあり、南洋庁が置かれました。日本と一体になろうと決意した村長の想いはしかし、終戦とともに島に住んでいた日本人が本土に引き上げることで実現することはありませんでした。ここの部分、敗戦を機に本土と切り離された沖縄と共通する部分もあると思うのは考えすぎでしょうか。自己都合で移り住み、現地の環境を大きく変えた上で最後は去って行く。本土の人間として考えなければならないことでしょう。
 
 この漫画を読んで改めて思ったのは、どんな戦争も美名のもとに行われるということです。先の大戦では「アジアの開放」など「美しい言葉」が掲げられましたが、実態は、植民地となっていたアジア各国の支配者が欧米から日本に変わっただけでした。現場の兵士は、その「美しい言葉」とは裏腹に、飢えと闘い、圧倒的戦力差のある米軍から一方的な攻撃を受け、人としての尊厳も守られない「地獄」に放り出されたのです。
 
 本作品は、軍組織が崩壊したあとの一兵士たる主人公の目線で物語が進みます。その環境下で生き残るための苦しさは、漫画だからこそ伝わるものも多かったと思います。戦争の悲惨さを描いた漫画としては、数年前、「はだしのゲン」を学校図書館に置くべきかどうかで論争があったことが思い起こされます。発刊されて年数がたつこともあり、現代に合わない表現があるのもたしかでしょう。しかし、「美しい言葉」の裏にある悲惨さは、文字ではなく視覚的に捉える漫画だからこそ多くの人に届く面もあるはずです。話はそれましたが、漫画と言って侮るなかれ、戦争当事者が減っていく現代において、戦争とは何かを訴える一冊です。

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