【書評8冊目】沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&ABook(沖縄県)
「ニュース女子」による沖縄リポート放送の騒動からは、沖縄の米軍基地について、間違った知識がかなり広がっていることが分かります。安全保障問題という、意見が二極化しがちな題材だからこそ、最初から結論ありきのけんかのような議論になるのではないでしょうか。
「沖縄県は、日米安全保障体制の必要性を理解する立場です・・・安全保障が大事であるならば、基地負担のあり方についても日本国民全体で考え、その負担も日本全体で分かち合うべきではないでしょうか」(同書24p)
《本の紹介》
「ニュース女子」の問題に限らず、沖縄の米軍基地問題を巡っては、事実に基づいていない数値や意見をもとに議論が展開され、余計に対立が深まっている印象を受けます。本書は、4章からなり、「戦後の歴史的背景」、「沖縄県への負担の偏り」、「芸軍起因の事件事故」、「日米地位協定」、「基地と沖縄経済との関係」、「安全保障体制との関係」、「辺野古基地と環境問題」、「国との係争」について、沖縄県の公式見解を表したものと言えます。
もっとも印象に残る部分は、冒頭で触れた沖縄県による日米の安全保障体制に対する見解です。日本国民の、日米安保体制への支持が厚いからこそ、沖縄だけに基地の負担を押しつけるのではなく、日本全体で負担を分かち合うという指摘は、至極、まっとうなものと言えます。
沖縄の基地問題に限らず、例えば防衛力強化に関する世論調査では、強化方針には賛成でも、その財源的な裏付けとしての増税には反対という矛盾した結果が見られました。「安全は大事だけど自ら負担を背負いたくない」、これでは本当の意味での安全保障は得られないでしょう。
まずは沖縄県が現在押しつけられている負担、それは、有無を言わせず基地を作られた歴史や、復帰後は年間で約17件のペースで起きる米軍機の事故、同じく年間11件のペースで起きる凶悪犯罪、昼夜を問わない騒音問題、飲み水のPFAS汚染、不平等な日米地位協定の問題など多くにわたりますが、それをまっすぐ受け止めてはじめて、本土の人間と沖縄との方との一体感が生まれるのではないでしょうか。
ちなみに、私が住む東北の地でも、宮城県と山形県においては、基地の本土引き取り運動というものが続けられているそうです。先日、その運動に関わる方とお話する機会がありましたが、強調していたのは、誰も引き取らないものを他人に押しつける、その考え方自体が、安保の問題を超えて、差別の問題であるという点でした。妥協点が見いだしにくい問題だからこそ、人権という普遍的な価値観に立ち返って考えてみる必要もあるのでは?と思った次第ですが、その土台となるデータを学ぶことができる1冊です。
《重要ポイントの要約》
○戦時中、沖縄に上陸した米軍は、住民を強制収容施設に隔離した上で土地の強制収容を行い、基地を建設した。戦後も、住民を追い出して家を壊し、田畑を潰して基地を広げていった。
○本土復帰当時、全国の米軍施設における沖縄県の割合は約58%だったが、その後、本土の基地の沖縄への移転・縮小が進んだ結果、現在では、全国の約70%の米軍施設が沖縄に集中している。
○復帰から令和3年までの間、航空機関連の事故は862件(年17件のペース)、殺人・強盗・強姦など凶悪犯罪が584件(年11件のペース)となっている。
○基地内からの航空機燃料などの流出、有機フッ素化合物による水質汚染、鉛などの有害物質による土壌汚染などの環境問題。
○他国に比べ、国内法が原則不適用となっている日米地位協定。アジア圏でも、フィリピンでは、国内法の適用が徹底されている。
○基地関連収入が県民総所得に占める割合は、復帰前の昭和40年(1965年)には約30%だったものが、令和元年度には約5%にまで低下。
○辺野古新基地建設に反対するのは、状況が改善されない中で、今後100年、200年と使われうる同基地ができることは、沖縄県への過剰な基地負担を固定化するものだから。