埋もれる日々の中で
【十行プロット】
三十路になり、自分が少し惨めになり始めため息ばかりついているOLが、ため息が不幸を呼んだせいか、最近仕事もうまくいかないことが多い。仕事でミスをし、上司に怒られた帰り道、地元の駅に着くと見慣れない道を見つける。奥には、屋台の電気が光っている。ラーメン屋のようだ。沙織は、何か吸い込まれるように屋台に入ると、歯を見せて笑うオジサンが待ち構えていた。屋台にはメニューがなく、座るとすぐにラーメンが出てきた。細々と啜る沙織に、笑いながらポジティブな言葉を投げかけるオジサン。自分のラーメンを日本一だといい放つ姿に、吹き出す沙織。「自分で自分の事褒めてやらないと」と話すオジサンの言葉と笑顔に心を打たれ、笑顔で屋台を後にする沙織。誰かに呼ばれたような気がして振り向くと、さっきまであったはずの道は消えていた。
【教訓】
一つの悩みは連鎖して他の悩みを連れてくる。一つずつ自分の中で問題と向き合い、解消していかなければならない。
【登場人物】
小河原沙織(28)・オジサン(60)
【本文】
〇 駅前の大きい道(夜)
仕事帰り、母からLINE。『たまには帰ってけぇ。お父さんの三回忌もあいし』の文字。
沙織「はぁ……」
沙織、顔を上げる。暗い道と辺りを照らす一つのラーメンの屋台。吸い込まれるように入る。
〇 屋台の中(同)
メニューが一つしかない屋台。
席に着き、ぼーっとする沙織。
× × × (フラッシュ)
〇 ある会社・オフィス
ふんぞり返り、沙織に怒る上司。
上司「はぁ……こんなのもできないのか」
沙織「……すいません」
上司「すいませんしか言えないのかよ」
× × ×
オジサン「へいおまち」
ハッとして、ラーメンを細々と啜る沙織。
オジサン「どうだ、おいしいだろ」
沙織「まぁ」
オジサン「うんまか! そうかそうか、やっぱい俺のラーメンは日本一じゃ。はっはっ」
少し、吹き出すように笑う沙織。
沙織「それ、自分で言います?」
オジサン「そーや。自分で褒めてやらんとな、他にだいが褒めてくるいと」
沙織、オジサンの顔を見て何かを思ったように、笑顔でラーメンを噛み締める。
〇 駅前の大きい道(夜)
すっきりした顔で屋台を出る、沙織。
オジサンの声「たまには帰ってこんかい」
振り返ると道がなくなっていた。
(おわり)