ZAZEN BOYS@日本武道館 2024.10.27
"ZAZEN BOYSが日本武道館でライブを行う"
初めにその情報を目にした時、私は目を疑った。そんな世界線が果たして本当に存在するのだろうか?
武道館の、あのキャパシティは埋まるのだろうか?
そんな心配をよそに無事チケットは完売し、長く暑い夏が終わり秋が訪れ、ついに当日を迎えた。
東京メトロ九段下駅で降り、長いホームを端まで歩き線路の下をくぐる。エスカレーターが一度水平となり、再び斜めに持ち上がっていく。九段坂を一歩一歩踏み締める。所々にディレイマンが顔を出す。すでに皆少しアルコールを含んでいるようだ。
入場。日本国旗が掲げられた空間におなじみのギザフォントによる”ZAZEN BOYS”の文字が映える。おそらく武道館史上最も楽器のセッティングが中央に寄っている。そこにはステージを広く使うという概念が存在していない。
ステージ脇にメンバーが現れると同時に一斉に客電が落ち、予告では3時間に及ぶ過去最大のMATSURI SESSIONが始まった。
"You make me feel so bad" "SUGAR MAN"と武道館のコンプライアンスとして感覚的にNGな歌詞による2曲が繰り出され、初期からの定番曲"MABOROSHI IN MY BLOOD" "IKASAMA LOVE"へとなだれ込む。音だけ聞いたらライブハウスでも違和感のない爆音だ。皇居に音漏れしていないだろうか。
ZAZEN BOYSのワンマンライブはMATSURI SESSIONと明記される。前述のようにステージ中央に固まったバンド編成はキャパ150人のライブハウスであろうとRISING SUN ROCK FESTIVALのSUN STAGEであろうと一切変わらない。当然のこと武道館でも。
MATSURI SESSIONとは、MATSURI STUDIOで繰り広げられるSESSIONをそのまま持ち出し公開しているのではないか?武道館であろうとその距離感や本質は変わらない。我々は今、MATSURI STUDIOと化した武道館で繰り広げられているMATSURI SESSIONを目にしている。
向井秀徳はこの日、おそらく10回以上こう繰り返した。
「MATSURI STUDIOからやってまいりました、ZAZEN BOYSです」
らんど の曲を交え第一部は進行していく。ライティングとあいまりタイトすぎる演奏が繰り広げられた"サンドペーパーざらざら"。柔道二段のドラムだけでご飯が何倍もいけそうだ。
"ポテトサラダ" バックビジョンに向井秀徳が映し出される。その手にはNUMBER GIRL再解散ライブでも登場したビロリンマン。ぴあアリーナMMと日本武道館のステージに立ったのは向井秀徳と彼くらいだろう。ことあるごとにビロリンマンの手足が引っ張られる。引っ張り上がっている。一切手加減はされていない。
シンセ無しでダンスミュージック化した"I Don't Wanna Be With You"。
そして連続で披露された"Sabaku"が第一部のハイライトだろう。
"Sabaku"は向井秀徳の曲が生み出した曲の中でも異質の曲だ。制作時推定30代中盤の向井秀徳の心模様が赤裸々に描かれている。
2008年11月、大阪市立大学銀杏祭野外特設ステージで披露された"Sabaku"の空気感を今でも覚えている。肌寒い秋の空気、就職活動を控えた当時大学三回生の私には"Sabaku"は少し早すぎたのかもしれない。時を経て私も30代中盤となり、この曲の言わんとしていることが少しわかった気がした。
"Sabaku"の締めくくりとなる言葉を向井秀徳ははっきりとこう唄った。それはもう訴えかけるように。
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酒を飲んだ人が多いのであろう。ブレイクタイムの離席率がとても高い。第二部は"DANBIRA" "USODARAKE TAKE2"と新旧の名刺がわりの曲が連打される。不思議と統一感がある。
7月のLIQUIDROOMで視聴という名目でイントロのみ披露された"安眠棒"で会場が沸き立つ。安眠棒とは一体何なのか?その謎は20年解かれていない。16歳。ZAZEN BOYSⅡのCDを発売直後に購入しCDケースのビニールの開封を急ぐあまりCDケースを破損しかけたことをふと思い出した。
"HENTAI TERMINATED" "HARD LIQUOR"。本日の向井秀徳は密造したハードリカーを水道水で割って飲み、密造した水道水をハードリカーで割って飲み、しまいには密造した水道水をただただ飲んでいた。
"6本の狂ったハガネの振動" "Honnoji"と演奏は熱を帯びていく。
向井秀徳は歌詞を変えてこう唄った。
Life in the muddy water。人生は泥まみれ。
"半透明少女関係" チューニング時点でこの曲が始まることはもうわかっている。初期に忠実な祭囃子アレンジで会場の盛り上がりは頂点に達する。昨年訪れた青森のねぶたを思い出す。
"CRAZY DAYS CRAZY FEELING" MIYAのベースが地鳴りのように響く。棒読みAメロの後に繰り出される腰を落としたRAP。回り出すミラーボールと熱狂。生の実感だけは持っとこう。頭 どんだけ狂っても。
"YAKIIMO" らんど の曲の中で私が最も好きな曲が"YAKIIMO"だ。スネアロールが響く。JR王子駅前夕暮れ時。坂を登り飛鳥山団地を目指す、電動アシスト自転車を漕ぐ向井秀徳の背中が見える。都電荒川線に追い抜かれながら急な坂を漕ぎ上がっていく。行き先は私が敬愛する銭湯の一つ、飛鳥山温泉であろう。
この時点ですでに2時間半ほど、30曲以上が演奏されたのち "永遠少女"のギターリフが響く。途轍もない集中力が伝わってくる。ZAZEN BOYSはこの曲を鳴らしに日本武道館へ来たのだ。
"永遠少女"の終盤で向井秀徳はあなたに問いかける。
一体何を探せというのか?その答えは明確に示されてはいない。この曲を初めて聞いてからその意味を幾度も考えていた。
もし今の私なりの答えを聞かれたらこう答えるだろう。
”お前なりの生きる意味を 「探せ」”
"乱土" "胸焼けうどんの作り方"
カシオメンのギターリフが大舞台に映える。本日は死海の塩小さじ2とやけに減塩仕様だ。
アンコール。拍手は鳴り止まない。
"自問自答"や"Asobi"ではなく、"KIMOCHI"を選んだことがどのような意味を持つのか?
ただ伝えたい このキモチを。お互いに。
楽器を置き、メンバー全員アカペラで大楕円。客席を含めKIMOCHIの合唱が響く。向井秀徳の右腕が空気を掴んだと同時に合唱が止み、ビジョンに"ZAZEN BOYS"のギザフォントが映し出される。まるで新日本現代映画のようだ。
中野の駅前でラーメンを食らい、決して走り出さず、歩いて中野 天神湯へと向かう。先ほどの九段下の熱狂を噛み締めながらゆっくりと温冷浴を繰り返し帰路へ着いた。
とても…楽しい。