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syrup16g"遅死11.02"@日比谷野外大音楽堂 2024.11.02

あなたは雨の野音を経験したことがあるだろうか?
私は無かった。ついこの日までは。

遅死は特別だ。当時2004年はblogがまだ一般的では無く、個人開設のファンサイトで音楽情報を収集する事が定例だった。管理人の熱い想いが綴られたライブレポートを何度も読んだ。
「遅死10.10が凄かった。凄いものを観た。」


正直なところ解散・再結成後のsyrup16gからは離れていた。高校二年生、delayedeadやMouth to MouseはCDが擦り切れるほど聴いた。多感な10代の私にsyrup16gの音楽は染み渡り、今も血肉になっている。
しかしライブを見たことが無かった。彼らがフェスに20年出ていないことも影響しているだろう。

2024年7月末、外は茹るような暑さの中、自室でクーラーをつけAmazonPrimeのFUJI ROCK FESTIVAL配信を見る。そこには晴天の昼間に似つかわしくない姿の3人組が居た。画面越しでも伝わってくる良いライブだ。20年、お互い年は重ねたかもしれない。何か再会を喜んでいる自分がいた。

解散後この10年間の音源を一通り聴き込む。Amazonカスタマーレビューに熱く綴られたファンのレビューの文面にあの頃のファンサイトの面影を感じた。再始動後のシロップはもがきながら歩みを進めていた。ファンも以前の幻影を追いながらその様子を理解し受け入れていた。

久しぶりに公式サイトへアクセスしてみる。私の知る限り20年前から変わっていない。とってつけたようなYoutubeやXへのリンクを除き、あの当時のままで嬉しくなった。セットリストも当時から最新まで更新され続け過去20年分が記録されている。スタッフに記録魔がいるのだろうか。
http://www.syrup16g.jp/

10月下旬、日に日に天気予報を気にするようになった。雨時々曇り。社会人たるもの金にものを言わせて装備を新調する。北海道に何度も連れて行った野鳥の会レインブーツも久々に娑婆の空気が吸えそうだ。
11/1(金)会社の飲み会帰りに翌日の1時間ごとの天気予報を見る。18時16mm。まあシロップだしこんなこともあり得るのだろう。厳しい三連休初日を迎えそうだ。ここまで来たらとことん荒れてほしい。

御茶ノ水で千代田線へ乗り換え霞ヶ関駅へ向かう。
霞ヶ関駅は5年ほど前まで毎朝通っていた職場の最寄駅だ。いつの間にかホームドアが設置されている他は何度も見た光景が広がる。野音に来るたびに平日の官公庁サラリーマンの群れとのギャップに頭が痛くなる。
飯野ビルまでの地下通路へ歩みを進める。所々にレインコートを羽織り戦場に赴く同胞がいる。皆覚悟を決めた背中をしている。

日比谷野外大音楽堂は特別な会場だ。ROVO、相対性理論、ZAZEN BOYS、D.A.N、OGRE YOU ASSHOLE、clammbon、salyu×salyu、様々なライブを見た、最も好きな野外会場だ。老朽化で建て替えが予定されていたが、民間事業者の応募が無く2025年9月ごろまで使用期限の延長が決定している。もし延長がなければ「遅死11.02」は実現していなかったはずだ。
もしかしたら今日が自分にとって最後の野音となるかもしれない。過去の野音はかろうじて雨を回避できていたが、最後の最後で回避出来なかったようだ。syrup16gであれば手の施しようが無い。甘んじて受け入れよう。

装備を身につけゴミ袋で包んだバックパックを手に持ち地上へのエスカレーターへ向かう。足早に信号を渡る。大粒の雨がフード越しに打ちつける。
前のシロップファンが落としたタオルを手早く拾い上げ手渡す。一つ徳を積んだ。少しでも雨が弱まってくれることを祈り足早に入場する。

席を開けてもらい、濡れながら開演を待つ。隣の女性から声を掛けられる。
「こんな日ですけど今日は楽しみましょう!よろしくお願いします」
歴戦のシロップファンは何て優しいのだろう。過酷な環境の中触れる温かさに少し泣きそうになる。シロップは何て良いファンを持ったのだろう。

雨脚が強くなる。"クロール"で開演。
野音の天気に関係は無くこの曲から始まることは決められていたはずだ。しかし、この大雨をクロールして泳ぎきれという五十嵐隆からのメッセージと勝手に解釈する。

16歳の私はdelaydeadのCDを擦り切れるほどリピート再生していた。多感な高校生の私の人格形成に確実に大きな影響を与えたはずだ。そのdelaydeadの曲たちが間髪いれず披露されていく。16歳の高校生の私が想像していた遅死の野音が目の前に広がっている。

雨は一向に止むことはなさそうだ。厚着をしてきたが濡れた掌が体温を奪う。五十嵐隆が言わずとも野戦病院だ。

激しい曲が続いた後の不意打ちのような"エビセン"
この荒れた天気に妙に会う。間奏のベースラインがとても心地良い。ステージ全体が紫ピンクの幾何学模様に彩られる。野音のステージは照明がよく映える。

"明日を落としても" この曲は絶望を唄っているようだが、聴くたびに絶対的な肯定を感じる不思議な曲だ。ギターソロが荒天に響く。レインコートを伝った水滴が手のひらに滴り落ちる。

"赤いカラス" delaydeadからdelaidbackへ。赤い照明がステージから観客席に伸びる。この20年間に犬が吠える時もあった。この曲順にはとてもメッセージを感じてしまう。

"In My Hurts Again"  通称お煎餅屋さん。今日は煎餅の曲が2曲も並ぶ珍しい一日だ。雨は降り続け時折雷が光るようになった。もうどうにでもなれ。

"光なき窓" 最後の曲とは告げられないまま本編最後の曲が始まる。白い光の照明が降り注ぐ雨を照らす。この空間にギターの音色が溶け込んでいる。

En.
一足先にステージに戻ったキタダマキ氏のベースリフが響く。この日1番の大歓声だ。何小節繰り返されただろうか。動き回るベースリフの土台に なかはたいこドラム、ギターが徐々に組み上がっていく。いつまでもこのベースラインが続いてほしい。

"神のカルマ" "落堕" "coup d'Etat" "空をなくす" アンコールは続いていく。シロップほどアンコールを複数曲やってくれるバンドは珍しい。「最新ビデオの棚の前」はもう死語かもしれない。「寝不足だって言ってんの」空をなくす曲中のbpmの変化のように今日は雨が強くなったり弱くなったりしていた。

ダブルEn"Reborn"。コーラスがとても綺麗に響く。"Inside out"や"きこえるかい"は次回へのおあずけだ。「また来年会いましょう」五十嵐隆渾身の一声に客席が安堵する。

会場を出て屋根のある場所でレインコートを脱ぐ。下に来ていたパーカーがところどころパープルムカデのジャケット写真のように染みている。じきに乾くだろう。


遅死は特別だ。
「遅死11.02が凄かった。凄いものを観た」





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