「マジックブルーム幻想」〔コイネージ【新造語の試み】18-1〕
「掃除をさせれば、自信がつく」
「イージータスクで、自信がつく」
と考えること。
これを「マジックブルーム幻想」と呼んでみる。
主に、教育者・指導者的立場にいる者が陥りやすい幻想だ。
「ブルーム(broom)」とは「箒」で、「掃除」を表している。
「掃除」とは、小学生でもできるイージータスクの代表例であり、他にもスローガンの音読やコピー取り、九九の復習なども、これに相当する。
つまり、自分に自信がない子供や部下に対し、「自信をつけさせるために、とりあえず簡単なことからやらせてみよう」という発想全般が、「マジックブルーム幻想」だと考える。
これには「実例」があるため、少々厄介だ。
例えば、
①「自分に自信がない新人が入社してきた」
↓
②「会社の周りを掃除させてみた」
↓
③「自信がついた」
↓
④「今ではバリバリ活躍する社員になった」
といったエピソードをたまに見聞きする。
大抵この手のエピソードは、②→③の説明が不十分なのだが、指導法として単純かつ明快。安易に用いられがちである。
結論をいうと、「掃除をしたくらいで、自信はつかない」。
掃除など、ほぼすべての大人が小学生時代に、教室の清掃でこなしている。校歌斉唱や九九などもしかり。
「掃除をしたら、自信がつく」のであれば、小学校卒業時点で、皆自信マンマンな人間になるはず。
無論、「否」なのは、
子供・若者の自己肯定(今の自分が好きだ)率・46・5%
という、高くない数字より明らかだ(令和4年版子供・若者白書より)。
思うに、「自分に自信がないXさん」は、ひとえに「成功体験が少ない」。
そして、「成功体験」とは具体的には、「どうすればいいかを考え、実行することで、望む結果を得ること」だ。
ここで重要なのは「どうすればいいかを考えること」。
「どうすればいいかを考えること」に効果性が伴い、結果に現れて「成功体験」。
その積み重ねで「自信」となる。
(僕は、「どうすればいいかを考えること」に効果性が伴うことを、「クリアソートにクリア性が伴う」と表現している)。
とすれば、Xさんに「自信」をつけてもらうには、「その人に合った『どうすればいいかを考えられる』場や環境を提供すること」に尽きる。
その手段として「ただ掃除させるだけ」は軽すぎる。
そこまで「どうすればいいか」を考えなくともある程度はこなせてしまうし、結果も本人とって重要だと思えなければ、「成功体験」にも「自信」にもならないからだ。
もちろん、掃除も、例えばプロの清掃業者を呼ぶ必要がなくなるくらい徹底的にやれば話は違ってくる。
費用を抑えられ、同僚や来客に心地よさを提供でき、結果利益になったという「結果」を得られた。これならば「自信」に繋がるかもしれない。
しかし、ここまでに至る過程には、必ず「どうすればいいか」を真摯に考えていること。これがあるはずなのだ(上述のエピソードは、たまたまこの点がクリアされたものと考えている)。
やはり、重要なのは「どうすればいいか」を考えることである。「掃除やその他のイージータスク自体」ではない。
そこを抜かしたままいくら「イージータスク」だけこなしても、「自信」などつかず、すべて徒労に終わる。
「小さな成功体験も、『クリアソート』があってこそ」ーだ。
ということを、"かつてX"であった筆者が証言してみる。
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