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夢にあらわれた超願望

 蒼々と輝くグラウンドの真ん中に佇んでいた。
次の瞬間、左腕を大きく回しボールを投げた。
シュッ!!風を切る音が響く。
けれど、ボールの行き先を見届ける間もなく激痛で目覚めた。

 肩を傷め腕と胴体が離れないように固定をして眠ること6週間。
身動きが取れないわたしの”超願望”を顕現するかのような夢だった。
装具を付けている状態で無理に動こうとしてよほど力を入れてしまったのだろう。筋肉がズキズキと痛んだ。

 毎晩、夜間痛との闘いだ。
私の痛みに対する感受性は、痛み止めの薬の効果など軽く飛び越え、暗闇の中で線香花火のような小さな光を放ち、キリキリと細胞を刺激するミクロの攻撃者に支配される。

でも・・・・・・

攻撃者?

本当に?

 自分が苦痛を感じるから敵とみなしているけれど、痛みは壊れた細胞が一生懸命に再生をしている証なのではないか?
いっそ応援してみてはどうだろうか。
そうして”細胞応援計画”が始まった。

 痛みを感じたら「頑張れ!!わたしの細胞たち!!」と患部に手を当て応援する。力が入らず元気のない時は、まったり日向ぼっこをしてみる。
リハビリを頑張った時はチョコレートやアイスクリームのご褒美をあげる。
そうしているうちに細胞たちが愛おしく思えてきた。
 
 食生活もまるでペットにご飯をあげるような感覚になってきた。
朝食は粉末の植物性タンパク質やきなこを入れた豆乳。これは筋肉のため。
骨と神経のためには、無糖のヨーグルトににがり(マグネシウム)、そして蜂蜜を入れて免疫力もアップ。アミノ酸スコア100の卵は欠かせない。ブロッコリースプラウトとサラダにして。食後にレモン果汁を入れた緑茶を飲む。ビタミンCは熱に弱いので、食事の前に緑茶を淹れておいて、冷めてからレモンを入れる。日によって納豆やシジミのお味噌汁、お豆腐など。

「さぁ、お食べ~」
親のように細胞の再生を見守る。

痛みに翻弄されないよう心がけ、自分を愛おしむ日々が静かに過ぎて行く。
細胞応援の効果のほどは実に緩慢ではっきりとは感じられないけれど、「何となくいい感じに再生しているのではないか」と思うようにしている。


 さて、話を夢に戻しましょう。

わたしはほとんど悪い夢を見ない。
まるで現実の世界の疲れを癒すかのように、美しい夢の世界へ出かけて行っては癒されて帰ってくる。光溢れる色彩鮮やかな世界は、天国にいるみたいに心地良い。

 
 夢を見ている時は、自分を超える別の世界と繋がっているように感じる。
それは、別の次元か、誰かの意識か、宇宙か、何処かは分からないけれど、確かに存在する世界のように感じる。
なぜなら、香りや音、熱や空気もリアルに感じられるからだ。
でも目覚めると、消えてしまうファンタジー。
だから忘れてしまわないように思い出の文章を綴り、記憶の点描画を描く。
そんなことがもう何年も続いている。

 
 夢の中の私は左手でボールを投げていたけれど、現実の私は左利きなのにボールだけは右手で投げる。
自由に動きたいと願う”超願望”は現実をも超越するほどだった。

 投げたボールの行き先を見届けることはなかったけれど、きっとその先には腕を固定したもう一人の自分が立っていたのではないかと思う。

ボールは自分自身へのエール。
翼のように腕を広げて、どこまでも遠く、どこまでも高く、羽ばたいて行けるように。

現実の世界でわたしが細胞を応援するように、夢の世界では高次元にいる自分自身がわたしを応援してくれているような気がした。

左手でボールを投げたのは、今の自分を超越するように。
そんなメッセージのようにも感じた。


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