
幻想の船
「みんみんの前で待っています」
そんな告知をして週末の夜この場所に座っていた

21時になるとみんみんの赤ちょうちんは消えてしまう
暗い路地の片隅で占いに訪れるお客様を待ちながら数軒先のスタンディングバーの明かりを見つめていた
凍えるような寒さの中
深夜まで
酔っ払いに絡まれたり
強面のお兄さんたちに囲まれたり
ネズミの家族が足元をぞろぞろと通り過ぎて行くこともあった
路地から見上げる切り取られた小さな夜空には
街明かりのせいで星はほとんど見えなかったけれど
いつも見守られているような気がしていた

「よく頑張るね」
「今日もひとり?頑張ってね」
優しい言葉をかけてくださる方達もたくさんいて
温かいスープやお茶の差し入れをしてくださるお客様もいて
色々な人の優しさに出逢えた場所でもあった
流しの弾き語りのお兄さんが歌うザ・ブルーハーツの”リンダリンダ”が心に染み渡る
あの日の私は何を思っていたのだろう・・・・・・
時々 心の森を彷徨う
私は”わたしのリンダ”を待っていたのかもしれない・・・
夜が深まり
片づけをし横丁を出ると
いつも幻想の世界から飛び出したような感覚になった

外から見るハーモニカ横丁は
煌々と明かりを灯しながら
漆黒の海に浮かぶ船のようだった
私のサロンのある通りは
深夜の静寂に包まれていて
幻想の船から降りた私は
その静けさの中に沈んでいくように
吉祥寺の街を歩いてゆくのだった
愛じゃなくても恋じゃなくても
君を離しはしない
決して負けない強い力を
僕は一つだけ持つ
リンダリンダ
リンダリンダリンダ・・・♪
夜の中
ひとり
口ずさみながら・・・・・・