映画『アイの歌声を聴かせて』 批評・感想
【はじめに】
自分はこの映画を放映から3年の時を経て初めて視聴いたしました。これは2021年に放映されたオリジナルアニメ映画で、AIと歌をテーマにしている作品です。今回はそんな『アイの歌声を聴かせて』の個人的な簡単な批評の整理をメモしていきたいと思います。初投稿の駄文をどうかお許しください。
【背景、設定】
監督である吉浦康裕さんは過去にもAIやアンドロイドなどをテーマにしたアニメ映画をいくつか作っているらしく、手慣れているのか、舞台設定を語り手に語らせるのではなく極力背景描写で魅せるという技法が多用されていたように感じる。
近未来SF作品において重要となってくるのは設定の精緻さにあるだろう。これは重度のSF好きがハマるか否かの判定基準でもある。
その点で言えばこの作品の設定はかなりガバい。なぜならこの映画は青春に重きを置いた映画だからだ。おそらく新海誠監督のような万人受け映画を狙ったのではないかと思われる。(吉浦監督の他作品を自分は見たことがないので、基本このような作風なのかはわからないが)
とりあえず具体的にそのガバ設定を列挙していくと
①星間エレクトロニクスの社内セキュリティがその重要度に反してザルすぎる
②序盤あたりに一瞬登場した農業用AIはなぜ人型に設計する必要があるのか
③いくら強いAIで、学習したといっても、そもそも歌唱機能が備わっていなければプロレベルの歌唱はできないのではないだろうか
④一企業の公立高校への秘匿的な実験は政府が許可してくれるのか
⑤シオンにトウマが作ったAIが入っていることにどうして開発チームほどの実力者集団が気づけないのか?
⑥実験が成功しているかどうか、電子映像と人の目とでのダブルチェックは、なぜ行われなかったのか
今考えただけでこのくらいの疑問点はあるが、この作品はそのような見方をする映画ではもちろんなく、叙情的に見るべき作品なのである。よって上記のような粗探しは少々的外れな批評だと思っている。
【ストーリー】
さて、ストーリーについてだが、単刀直入に言うと自分は割と好きな部類だ。良く起承転結が纏まっており、伏線回収もかなり秀逸。ただ1時間48分という短尺の都合で序盤のゴッちゃんとアヤのストーリーが駆け足気味になっている気がした。
しかしながら、その序盤のミニストーリーも決して出来が悪い訳ではなく、ゴっちゃんが自身の器用貧乏さをコンプレックスに感じていたところをアヤが「私にとっては1番だ」と評価したことによって解消したのはかなり好きな展開。
そして終盤では、AIは使命なしでは動かないという常識が覆る可能性、すなわちAIが自我を獲得する可能性についても匂わせている。AIをテーマとする作品にはやはりこのような要素は欠かせないようだ。
【多くの伏線】
まず、タイトルの"アイ"とはなんだろうか。この"アイ"はよく伏線として用いられる多義語であるが、この作品において自分が主に感じたのは"愛(LOVE)"である。ゴッちゃんとアヤ、サンダーとシオン、トウマとサトミ、シオンとサトミなど、多くの愛情の関係性が見られるためである。他にも、"AI"をローマ字読みするとアイとなるし、"eye"(英語で目)は別れたサトミを町中のカメラから見ていたシオンの目としたり、"I"(英語で自分)とすれば本来あり得ないAIの自我、などという解釈もできる。
次に、なぜシオンはミュージカル(どちらかといえばDisney作品)風の演出なのか。これはもちろん、幼少期サトミが狂ったように見ていたムーンプリンセスという映画に由来する。シオン(まだシオンという呼称すらなかったが)が幼少期よりその姿を観測しており、その歌い方を学習したためだ。サトミの渾名、「告げ口姫」の姫という部分も、マイナスの意味ではあるがムーンプリンセスと掛かっている。
そして、映画のラストに、ずっと人間の幸せの定義について熟考し、まさに愛とも言える感情から自我の獲得に至ろうとするシオンに対してトウマ達が今度は逆に「幸せか?」を問いかけるシーンがあり、スッキリとした終わりとなっている。
このように、短尺の中にかなりの伏線とそれを回収するカタルシスが用意されており、感動しやすい映画であることが分かる。
【総評】
以下の項目はD〜S(1〜5点)の5段階評価である。(※あくまで個人的評価です)
《脚本》B
《設定》C
《作画》S
《音楽》S
《演技》A
《総合評価》3.8点 (3.8/5.0)
【関連事項】
自分はこの映画と非常によく似たテーマを取り扱った作品を以前拝見している。
それは「Vivy ーFluorite Eye's Songー」という2021年に放送されたオリジナルアニメだ。
具体的にどのような点が似ているかというと、
①AIは使命なくして動けない
②主役AIは歌で誰かを幸せにすることが使命
③最終的に自我を獲得したかもしれない
というところにある。これも割と設定にガバのある作品で、叙情的な見方をするべきSFだといえる。(密かに小説版vivyの記事も出したいと思ってます)
この2作品の関連性について言及している記事を発見したので、2作品ともご覧になった方は是非そちらの記事もご一読いただきたい。
また、制作の経緯や舞台裏など、本作品をより深く知りたい方のために関連する記事を貼っておくこととする。
以下は、本作品のメディアミックス作品群である。興味のある方は購入を検討してみてはどうだろうか。
小説版
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