ドゥルーズ(2)
ドゥルーズ哲学の基本的な枠組み
ドゥルーズ哲学の基本的な枠組みは、事象がそこから生起する創造の母胎、事象の生起のメカニズム、その生起を実現する媒介者、という三つの組み合わせである。
世界、世界成立の条件、両者の媒体という構造は哲学のなかではしばしば見られるものである。しかし、ドゥルーズ哲学には以下の特質がある。
1、創造の母胎そのものを、すでに差異を孕み、またいかなる超越的な一者にも基礎づけられないような場として設定する。
2、事象の生起を実現する媒介者もまた、同一性を有さないような出来事=事件として設定する。
3、事象の生起メカニズムは、同一性に基礎づけられないような差異そのものの生起の自由にしてアナーキーな流動的運動と、その差異の生起を覆い隠して同一的な事象へとの凝固をもたらす同一化の運動という絡み合う二つの運動によって思考される。
システム論の内実
ドゥルーズシステム論の内実は以下である。
1、諸強度の組織される強度的空間
2、諸強度が形成する齟齬する諸系列(セリー)、諸強度が描き出す個体化のもろもろの場
3、諸強度を交通させる暗き先触れ
4、そこから生じるカップリング、内的共振、強制運動
5、システムにおける受動的自我と幼生的主体の構成、および時-空的ダイナミスムの形成
6、システムの二重の分化=差異化を形成し、先の諸要因を覆う、質と広がり、種と部分
7、質と延長により展開された世界において、それらの諸要因の執拗な存続を告げる包み込みの中心
強度的空間とは、創造の母胎を意味する。これはもろもろの差異が充満したもろもろの多様体から構成される原初的な空間のことである。多様体とは、もろもろの差異が超越的一者に統合されることなく分散的に穏やかなまとまりを有しているという事態を示す概念である。
またそれが強度的と形容されるのは、もろもろの差異が相互外延的にはっきりと区別されて存在するのではなく、お互いがお互いを含み合うようにして、〈判明かつ曖昧〉な仕方で、つまり、それぞれの差異が差異として存在しているが、それを明晰に見通すことができないという仕方で存在している、ということを意味している。
この原初的な空間は潜在的な場であり、現実的な事象はここから生じるため、潜在的という措辞が用いられる。
創造の母胎は、その内側に様々な差異を含んでいるが、それらの差異がもろもろの系列をなして組織化される仕方を示すのが、齟齬する諸系列・個体化の場である。
差異はもろもろの系列を形づくるが、決して一つの系列へと組織化・収束することはなく、系列同士の差異を肯定しつつ分散的にお互いに関係づけられるという事態を示すために、齟齬する諸系列と呼ばれる。
それらの諸系列の分散的な関係において、外延的なまとまりを有する個体が個体として産出される個体化の運動が生起するので、それは個体化の場と呼ばれる。
このとき諸系列は、〈差異化されるもの〉〈可塑的で、アナーキーで、ノマドの原理として個体化する差異〉と呼ばれる媒介者によって、関係させられ、交流する。それをドゥルーズは、暗き先触れという概念で説明する。
この交流の結果、齟齬する系列同士に内的共振と強制運動が生じる。
齟齬する異質な系列の間の交流として、カップリングから系列間の内的共振が生じ、さらにそこから内的共振を増幅してシステムに位相の変化をもたらすような強制運動が生じる。
ここから、それぞれ二つの方向を有する二段階にわたる現実化の運動が生じる。
一つは、諸系列間の強制運動によって、時-空的な自己組織化を生み出し、これが時-空的純粋ダイナミスムと呼ばれる。
もう一つは、まだ主体や個体として成立していない受動的自我と幼生的主体とを生み出す。
これに次いで、現実的世界の個体が生じる。
二重の分化=差異化の過程によって、個体化の場を覆う二つのアスペクトである質/広がり、種/部分において現実化が生じ、現実的な個体が成立する。
これは、有機体の場合に、一方で特定の種の性質において、他方で有機体・身体の広がりをもった部分において個体が成立するようなものである。
〈参考文献〉
『哲学の歴史12巻 実存・構造・他者』中央公論新社、2008年