空の軍楽隊
イレギュラーな依頼による夜勤のお手伝いも、5回目になるとやっと落ち着いて挑めるようになってきた。
相変わらず自宅を出発する前にはじんわりと緊張するので、自分と向き合う時間をとる。
不思議と雨はやんで、夕焼けが美しく映えるなか、原付バイクで20キロ、北西へまっすぐ進む。
バイクで進むごとに、遮るもののない空のパノラマが刻々と目の前に映し出される。
空の上の方と下の方では、色も形もさまざまな質感でグラデーションの帯を何層と重ねて、雲が上へ横へと自由に広がる。
右を向けば赤い雲、左を向けば青い空。
前方に二本の白い筋。
ひこうき雲がのびていく。
何年も前『雲の生まれる場所』という題名がついた一枚の絵画を買いたいと思った。
ねずみ色のもくもくした雲がひとつ、描かれていた。
作家が自分で作品を出展するインターネットサイトだった。
八万円の値段で買うのに躊躇したなり、ネットの海でその絵を見失ってしまった。
壮大な雲の表現を空はいつも見せてくれるけれど、その雲を額縁に入れれるなら、部屋に飾りたいと思ってしまう。
自分の部屋に雲の生まれる場所があるのも素敵だ。
二羽の大きな鳥が、バイクで走る私の何倍も早いスピードで、頭の上をスイと追い越した。
その鳥の両翼は上と下にゆっくりと動き、翼が長いので山のように盛り上がったあとに谷のようにたゆむ。
一羽が鳴いたと思うと、キレイに左へ方向転換して、ぐんぐんと南へ離れて行った。
もう一羽はまっすぐそのまま翼をたゆませながら、私の目指す方向へ先に先にと飛んでいった。
短い合図でもって、お互い見合うことなく、スピードを落とすことなく、シンメトリーの二羽が違う方向へ弧をえがき別れて行ったのに見とれて、メットのなかで感嘆した。
『ガチャンかっくいー!』と言うアラレちゃんのようにカッコいい~!と声をだした。
夜勤に臨むわたしへ、励まし鼓舞する音楽を奏でる軍楽隊のように、雲や鳥や空の表現が鮮やかに後押しをしてくれたおかげで、今回の夜勤もつつがなくおわり、昨日はそのまま出勤して、ブログもかけたので満足して1日が終わった。