ポートフォリオ分離定理

最小分散ポートフォリオの効率フロンティアが双曲線を描くことは、上記の記事で示した。
 これを元に、ポートフォリオの分離定理を扱う。
 アセットマネージャーのためのファイナンス機械学習のポートフォリオ構築の記事に標識を合わせることとする。

N資産からなるポートフォリオの各資産のウェイトを$${{\bf \omega}=(\omega_{1},\omega_{2},\dots \omega_{N})}$$、期待リターンを$${{\bf \mu}=(\mu_{1},\mu_{2},\dots \mu_{N})}$$、N資産の$${N \times N}$$の期待共分散行列を$${{\bf V}}$$とする。
 最小分散ポートフォリオは以下の条件で最適化される。
$${\min_{{\bf \omega}} {\bf \omega}^{T}{\bf V}{\bf \omega}}$$
$${s.t.\ \mu_p={\bf \omega}^{T}{\bf \mu} ,\ {\bf \omega}^{T} {\bf 1} = 1}$$
 これをラグラジアンで表すと、
$${{\bf L}=\displaystyle{ \frac{1}{2} {\bf \omega}^{T}{\bf V}{\bf \omega}+\lambda_1({\bf \omega}^T{\bf \mu} - {\bf \mu}_p) + \lambda_2({\bf \omega}^T{\bf 1}_N - 1) }}$$
となり、この1階条件は以下で与えられる。
$${ \displaystyle{ \frac{\partial {\bf L}}{\partial {\bf \omega}} = {\bf V}{\bf \omega} +\lambda_1 {\bf \mu} + \lambda_2 {\bf 1}_N = {\bf 0} }}$$

ここで、N資産に無リスク資産を導入して、$${{\bf \omega}}$$と$${{\bf \mu}}$$を以下のように変える。
$${{\bf \omega}=(\omega_f, {\bf \omega}_r)^T}$$
$${{\bf \mu}=(\mu_f, {\bf \mu}_r)^T}$$
リスク資産の$${(N-1)\times (N-1)}$$の期待共分散行列を$${{\bf V}_r}$$と表す。
$${{\bf \omega}_r}$$と$${{\bf \mu}_r}$$は$${N-1}$$成分を持ったベクトルである。
 無リスク資産について、$${\sigma_f=0,\ \sigma_{f,i}=0 (i>1)}$$であるから、期待共分散行列は
$${\begin{pmatrix}0 & {\bf 0}^T \\{\bf 0} & {\bf V}_r \\ \end{pmatrix}}$$
となり、1階条件式は行列形式で以下のように与えられる。
$${\displaystyle { \begin{pmatrix} 0 & {\bf 0}^T \\ {\bf 0} & {\bf V}_r \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \omega_f \\ {\bf \omega}_r \end{pmatrix} + \lambda_1\begin{pmatrix} \mu_f \\ {\bf \mu_r} \end{pmatrix} + \lambda_2 {\bf 1}_N={\bf 0}}}$$
 これより、
$${\lambda_1 \mu_f + \lambda_2=0}$$
$${{\bf V}_r{\bf \omega}_r + \lambda_1 {\bf \mu}_r + \lambda_2 {\bf 1}_{N-1}={\bf 0}}$$
 期待共分散行列は
$${\displaystyle{ \begin{pmatrix}\sigma_{1,1} & \dots & \sigma_{1,N-1} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ \sigma_{N-1,1} & \dots &\sigma_{N-1,N-1} \\ \end{pmatrix}}}$$
で与えられているから、資産$${i}$$に関して書き出せば、
$${\sum^{N-1}_j \sigma_{i,j} \omega_{r_j} + \lambda_1 \mu_{r_i} + \lambda_2=0}$$
この第一項は、$${\mu_{r_i}}$$と$${\sum_j \mu_{r_j}\omega_{r_j}}$$の分散、つまり、資産iとポートフォリオのリターン$${{\bf \omega_r}^T{\bf \mu}_r}$$の分散となる。
 無リスク資産を一つ入れ、次元が一つ落ちていることから、この最適化は、最初のリスク資産$${N-1}$$のみの効率フロンティアへの接線となっていることを思い出せば、求めている$${{\bf \omega}}$$はマーケットポートフォリオ(接点ポートフォリオ)になる。よって、これを$${{\bf \omega}_m}$$とし、期待リターンを$${{\bf \omega_r}_m^T{\bf \mu_r}=\mu_m}$$と表し、$${{\bf \beta}^T{\bf \omega_r}=1}$$となる係数ベクトル$${{\bf \beta}}$$を導入すると、
$${\beta_i \sigma_m^2 + \lambda_1 \mu_{r_i} + \lambda_2=0}$$、ベクトル形式で
$${{\bf \beta} \sigma_m^2 + \lambda_1 {\bf \mu_r} + \lambda_2{\bf 1}_{N-1}={\bf 0}}$$
と書ける。
ここに、左から$${{\bf \omega}_r^T}$$をかければ
$${\sigma_m^2 + \lambda_1 \mu_m + \lambda_2=0}$$
$${\lambda_1 \mu_f + \lambda_2=0}$$より、
$${\displaystyle{\lambda_1=\frac{-\sigma_m^2}{\mu_m - \mu_f}}}$$
$${\displaystyle{\lambda_2=\frac{\sigma_m^2\mu_m}{\mu_m - \mu_f}}}$$
が得られる。i資産の式に代入して、
$${\mu_i - \mu_f = \beta_i (\mu_m - \mu_f)}$$
これは、危険資産iの無リスク資産からの超過リターンは、接点ポートフォリオ(市場ポートフォリオ)の超過リターンに係数$${\beta_i}$$で比例することを示している。
 危険資産のポートフォリオの最適化は解析的に行われ、各危険資産の割合に投資家の好みは反映されていないことに留意すれば、投資家の選択は無リスク資産のポートフォリオへの組み込み割合に限定される。これが分離定理と呼ばれる。
 一般に、係数$${\beta_i}$$は、観測データから回帰で求められる。ここからはCAMP理論で扱われる。

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