短期市場変化:t検定

短期市場の変化を判断するときに、サンプル数が少なく、分布的に裾が厚いファットテールであるデータ分布は正規標準分布でなく、t分布により近いと言える。このとき、データが標準正規分布に従い、平均と分散を既知としているZ検定を行うと、分布の誤差により誤った結論を導きやすくなる。
t検定はサンプルサイズが小さい場合(n < 30)に適し、基準となる分散はサンプル値を使用するので、分散が既知である必要はない。

統計量

統計量は、Z検定のz統計量と同じく、対数リターンの時系列データ、$${{\bf r}: r_i i=1,\cdots n}$$があり、このサンプル平均を$${\bar{r}}$$、分散を$${\hat{\sigma}}$$とし、比較対象である長期の対数リターンの平均の$${\mu}$$を用いて、以下のように表される。
$${t=\displaystyle{\frac{\bar{r}-\mu}{\hat{\sigma}/\sqrt{n}}}}$$
この値は、自由度$${n-1}$$のt分布に従い、確率密度関数は、
$${f(x)=\displaystyle{\frac{1}{B(\frac{n-1}{2},\frac{1}{2})\sqrt{n-1} }\Big(1+\frac{x^2}{n-1}\Big)^{-\frac{n-1}{2}} }}$$
で与えられる。ここで、
$${B(\frac{n-1}{2},\frac{1}{2})}$$はベータ関数で、ガンマ関数を用いて示せば、
$${B(a,b)=\displaystyle{\int ^1_0​t^{a−1}(1−t)^{b−1}dt=\frac{\Gamma(a)\Gamma(b)​}{\Gamma(a+b)}}}$$
である。
t分布に従う確率変数が期待値(平均値)を持つのは、$${n-1\geq 2}$$の時であり、分散が存在するのは、$${n-1\geq 3}$$のの条件が必要である。
$${B(\frac{n−1}{2}​,\frac{1}{2}​)=\displaystyle{\frac{\Gamma(\frac{n-1}{2}​)\Gamma(\frac{1}{2}​)}{\Gamma(\frac{n}{2}​)}}​}$$
より、スターリングの公式
$${\lim_{n\to\infty}\Gamma(z)=\sqrt{2\pi} z^{z-1/2}e^{-z}}$$
を用いると、
$${\lim_{n\to \infty}B(\frac{n-1}{2},\frac{1}{2})=\displaystyle{\frac{(n/2)^{(n-1)/2-1/2}e^{-(n-1)/2}\sqrt{\pi}}{(n/2)^{n/2-1/2}e^{-n/2}}=\frac{\sqrt{2\pi}}{\sqrt{n-1}}}}$$
また、$${\left(1+\frac{x^2}{b-1}\right)^{-n/2}}$$を展開すれば、
$${\lim_{n\to\infty}\displaystyle{\left(1+\frac{x^2}{n-1}\right)^{-n/2}=e^{-x^2/2}}}$$
であるから
$${\lim_{n\to\infty}f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-x^2/2}}$$
であり、これは正規標準分布の確率密度関数に等しい。
よって、サンプル数が十分多い場合のt分布は正規標準分布に近似される。

検定

帰無仮説 $${H_0}$$​ は「市場データの平均は長期の対数リターンの平均 ${\mu}$$と等しい」とする。対立仮説 $${H_1}$$​ は「市場データの平均は $${mu}$$から有意に異なる」とする。
 t分布の累積分布関数(CDF)を用いて求められたp値によって、この仮説の検定を行う。
両側検定の場合、分布の両端で、得られたt値よりも極端に外れた値が出る確率のp値は、
$${p = 2 \cdot P(T \geq |t|)}$$で与えられる。
片側検定の場合、右端において、$${\bar{r}>\mu}$$の確率は、
$${p=P(T\geq t)}$$であり、
左端における$${\bar{r}<\mu}$$の確率は、
$${p=P(T\leq t)}$$
で与えられる。
このp値が有意水準 $${\alpha}$$ よりも低い場合、帰無仮説を棄却し、市場に短期的な変化があると判断できる。

t検定は、Z検定と同様に計算コストが低く手軽に行えるが、ノイズに影響を受けやすい。よってあらかじめノイズ除去をしておく必要がある。また、ノイズの影響を受けるボラティリティ調整にGARCHモデルを併用したり、変化点検出できるCumsum検定を活用するのが望ましい。

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