短期市場変化:Dynamical Time Warping(DTW)

Dynamical Time Warping(DTW)は、異なる時系列データの類似度を測定する方法であり、市場変化の検出において、異なる市場レジーム間の時間的な変動や時間のズレを捉え、レジームシフトの予測に応用されている。市場データが非線形で、動きの速度が異なる場合にも対応できるが、外れ値やノイズの影響を受けやすい。また時系列データが長い場合、計算量が多くなり計算機負荷が課題である。
DTWの特徴は、単純な時系列の平行移動による比較ではなく、時系列データの変形を許容しつつ、最適な一致(warping path)を見つける点にある。これにより、二つの異なる時系列の変動パターンを適切に比較することが可能となる。
二つの時系列に対し、単なるスライドの一致ではなく、各時点のデータの変形により時系列がどのように変動するかを捉える最適な一致(warping path)を見つけるアルゴリズムである。

アルゴリズム

2つの時系列データ、$${{\bm A}=(a_1, \cdots , a_n)}$$と$${{\bm B}=(b_1, \cdots , b_m)}$$ が与えられている。
これらの間で最適な warping path を見つけるため、まず以下の距離行列をユークリッド距離で計算する。
$${d_{i,j} = |a_i - b_j|}$$
次に、累積コスト行列 $${{\bm C}}$$を以下のように定義する。
$${C_{i,j} = d_{i,j} + \min \left( C_{i-1,j}, C_{i, j-1}, C_{i-1, j-1} \right) }$$
ここで、$${C_{i-1,j}}$$は上からの移動コスト、$${C_{i,j-1}}$$ は左からの移動コスト,
$${C_{i-1,j-1}}$$ は斜め左上からの移動コストを意味する。
したがって、点$${(i,j)}$$の累積コスト $${C_{i,j}}$$ は、その点の距離$${d_{i,j}}$$ に、直前の最小コスト(最適経路)からの移動コストを加えたものとなる。
最終的な DTW コスト $${C_{n,m}}$$ は、最初の点 $${(1,1)}$$ から最後の点 $${(n,m)}$$ までの移動にかかる最小コストに等しい。この累積コスト行列を用い、$${C_{n,m}}$$ から $${C_{1,1}}$$まで、左・上・斜めの最小値をたどることで、最適な warping path を求めることができる。
この最終値$${C_{n,m}}$$ は、二つの時系列の類似度を示す指標となる。値が小さいほど、二つの時系列はより類似していると評価される。

市場変化検出への応用

DTWは、市場のレジーム変化を捉える際に有用であり、単なる価格のトレンド変化だけでなく、ボラティリティ変化などの市場のダイナミクスや、時系列のパターン変化を、時間的なズレを補正しながら適切に捉えることができる。
例えば、市場の過去の大幅な下落時と現在の市場状況を比較した結果、DTW距離が小さい場合、現在の市場と過去の下落のパターンが類似していることを示す。またWarping pathを可視化することで、ウォーピングパスが均一に分布している場合、2つの時系列は比較的整列した動きをしていると考えられ、もしウォーピングパスが大きく曲がっている箇所があるならば、時間的なズレが大きく、単純なトレンド比較では捉えにくい市場の変動があることを意味する。
DTWの応用によって、過去のリーマン・ショック、ドットコムバブル崩壊、コロナショック等の市場クラッシュと現在の市場を比較し、類似パターンを検出することで、危機の予兆を早期に察知することも可能になる。
また、異なる市場セグメント(株式 vs 債券 vs コモディティ)間でDTWを適用することで、どの資産クラスが先行指標として機能するかを分析することもできる。
 DTWにより、異なる時間スケールの市場変動を適応的に比較し、類似する過去の市場環境を特定することが可能であり、さらにkmeans++等のクラスタリングアルゴリズムを組み込めば、類似する市場レジームの自動分類が可能となる。

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