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にじさんじMinecraftの大きな変化

Minecraft

 今やご長寿ゲームの一角となった『Minecraft』。ボクセル(立方体)のブロックで構成された世界を自由に動き回り、様々なアイテムをクラフトして開拓していくサンドボックスゲームは、そのシンプルさと実現できる要素の広さから、多くのゲームプレイヤーに愛され続けている。

 そんなMinecraftは、にじさんじの歴史においても重要な役割を果たす存在となっている。
 にじさんじの黎明期、まだ所属のライバーも少なかった時代にマルチサーバー環境が構築されたことで、このゲームは単なる配信コンテンツという枠に留まらないものとなった。サーバーの中では配信中・配信外を問わずライバー同士の邂逅や交流があり、そこで起きた出来事がライバー同士の関係性に影響を与えたり、後のコラボや企画をやるきっかけになったりと、数多の『つながり』を作る場になっていた。
 また、ワールドの開拓にともなって様々な建築物や建造物を作るライバーが現れ、さながらテーマパークのように賑やかな空間が出来上がった。サーバーの中心地から各地への移動を可能にする鉄道が敷かれ、より遠方の地域やトラップを繋ぐためのネザーポータルと回廊ができたことによって、初期スポーン地点から遠く離れた場所にまでライバーそれぞれの拠点ができるように。そうして、彼らの作りたいものや表現したいものが『にじ鯖』に次々と築かれていくこととなった。
 さらに、にじさんじのMinecraft文化はKRやID、ENといった海外のライバー達にも波及し、各国サーバーを含めた『にじ鯖』はとてつもなく巨大なプロジェクトとなった。当初はそれぞれ独立したサーバー環境となっていた各ワールドも、運用体制の変更やシステム周りの整備によって行き来が可能になり、現在はライバーの出身地域に関係なく相互にワールドを見て回ることができるようになっている。ライバーの活動成果にとどまらず、それぞれの文化的な背景や感性の豊かさを垣間見ることのできる『にじ鯖』は、まさに素晴らしいコンテンツと言っていいだろう。

 そんなにじさんじのMinecraft文化だが、最近は様相が変化しつつある。特に顕著なのが、『にじ鯖』に依存しない独自のサーバーや、『ハードコアエンドラ討伐』などの小規模人数のプレイがMinecraft配信におけるメインコンテンツになってきている点だ。

 これまでの「にじさんじの配信なら『にじ鯖』プレイ」という定番を崩して、こういった取り組みを積極的に進めるようになったのは何故だろうか。今回は『にじ鯖』が現在抱えている課題を考察することによって、この謎を紐解いていく。

飽和状態の『にじ鯖』

 現在、国内のライバーが利用しているJP向けの『にじ鯖』は、最初の舞台として生成された旧サーバーと、新たな開拓地として開放された新サーバー、主に資源を確保する目的で開放されている資源サーバーの3つのワールドから構成されている。
 定期的なリセットが行われる資源サーバーを除いても、2つの広大なフィールドが用意されている。表面的な情報だけで判断するなら、幾らでもやれることがある環境だ。だが、現状を鑑みるに、ゲームのプレイ環境としては飽和状態と言わざるを得ない。これまでプレイしてきたライバーが何か追加で作業をする程度なら問題ないが、新たに何かを作ったり企画するとなると、深刻な規模でキャパシティがなくなっているのである。

開発し尽くされた中心地域

 Minecraftをプレイしたことがある方なら何となく理解が及ぶだろうが、ワールドの開拓は初期スポーンの座標を中心に、その付近から始まることが多い。
 ゲームの仕様上、何かの拍子にプレイヤーが死亡した場合には、プレイヤーは最後に登録したベッドか初期スポーンの座標にリスポーンする。再序盤にはベッドの材料となるアイテムが入手できないことがままあるため、いきなり遠出をするよりは、最初に降り立った地点からすぐ戻れる範囲で開拓を始めようとするプレイヤーが多いだろう。
 また、マルチサーバーの場合は新規プレイヤーが最初に出現する地点となるので、この周辺に待避所となるような建物を作ったり、案内や序盤のサポートを行うための施設を置くのが一般的だ。食料や基本的な素材の確保を容易にするため、畑や家畜の飼育スペース、交易所やトラップなどが周辺に集められることもある。その結果、初期スポーン地点がワールドの中心地域として発展していくことが多い。

 『にじ鯖』も例にもれず、初期スポーン地点の周辺を中心に建物が次々と広がっていく形で開拓されている。しかし、にじさんじのライバー自体が非常に多いこともあって、開拓や開発のスピードはとても早く、また開拓されている範囲も大規模となった。その結果、旧サーバーも新サーバーも初期スポーン地点の周辺は多くの建築物が作られ、新たに何かを建てるというのは難しい状況になっている。
 もし参加者の人数が限定されていたり、新たな参加者がほとんどいない環境であれば、こういった状態のマルチサーバーであっても特に支障はないだろう。プレイヤーの多くが自身の家や拠点を初期スポーン地点に近い地域に持ち、それよりも外縁の領域はより意欲的なプロジェクトのために使われる。そういったワールドの開拓が容易にできるからだ。
 しかし、『にじ鯖』の場合はライバーの新規加入にともなってどんどんサーバーの延べ人口が増えていく。中心地域が既に開発し尽くされている状況では、新規参加のライバーはサーバー間の行き来を可能にするポータルへアクセスしにくい地域へ入植せざるを得なくなり、早くに参加したライバーよりも多くの移動時間を割かなければならなくなってしまう。ネザーゲートなどの活用で短縮しているライバーもいるが、資源やツールを取りに行くだけで何十分と時間を費やさないといけなくなっている現状は、やはり不便と言わざるを得ないだろう。

極端化した資源獲得手段

 もうひとつ深刻な状態となっているのが、サーバー内における一部資源の獲得の難易度だ。
 Minecraftにおいては、プレイヤーによっていくらでも生産が可能になっている資源と、自然に生成されたもの以外獲得することができない資源の2つが大きく分けて存在する。このうち、後者の獲得が『にじ鯖』においては難しくなっているのである。

 たとえば、建築物に使うブロックを用意するため、種類の異なる岩石やテラコッタといった自然生成のブロックを必要としたとしよう。
 新たにワールドを作った場合は、地下や山中に生成されたものがいくらでもあるため、時間をかけて掘れば手に入れることができる。しかし、何年も前から稼働しているマルチサーバーの場合は別だ。これらはバージョンアップによって追加されたブロックのため、古いバージョンの時点で探索し終えている地域には生成されていないことがある。入手するには、まだチャンク(ワールドの単位エリア)が生成されていない場所まで行って、新たに地形を生成する必要がある。
 プレイヤーがどこまで探索し終えているかにもよるが、人口が多く古いサーバーであるほど、新規生成が望める領域は遥か遠くになってしまう。そのため、長期間稼働しているサーバーでは管理者の側で資源を得る手段を別途用意するなどの工夫が必要となっている。

 『にじ鯖』においては、新規資源の獲得を資源サーバーの設置によって可能としている。定期的なリセットを行うことで、自然生成されたブロックの枯渇が起きる前に補充される仕組みである。
 しかし、ワールドに入るためのポータルは旧サーバーのリスポーン地点付近にあるため、ライバーによっては経路の往復だけでも相当の時間を要してしまう。また、巨大な建築物を作ろうとすればその分だけ多くのブロックが必要となるが、資源サーバーの出入り口近辺で十分な量を確保できるとは限らない。それに、他のライバーも同様にブロックを採取しに来る可能性を考えると、根こそぎさらうようなことはできないだろう。
 こうした点を踏まえると、『にじ鯖』の環境は柔軟な資源確保が難しい状況にあると言わざるを得ない。村人とのトレードを活用してブロックを生産する方法もあるものの、こちらも一定数の取引を超えるとリセットされるまで待たなければならず、まとまった量の確保には長い時間を要する。
 こういった事情から、今のサーバーでは配信の尺だけで準備から建築までをこなせないほど時間的なコストが増大している。それ故に、以前より企画の立てにくさや建築の取っ掛かりにくさが生じているのかもしれない。

ライバー達の試み

 このような『にじ鯖』の課題が徐々に表面化しつつある中で、ライバー達のMinecraft配信はカジュアル性やライブ感を得られるような方向へと変わってきている。

 たとえばヒーローサーバー3SKMサーバーのように、同期あるいは同テーマを背負ってデビューしたライバーだけのマルチ環境を用意してプレイを進めるといった試みは、『にじ鯖』の整えられた状況に依存しない自由さが光っている。いわば身内だけのサーバーと同じ環境となっているので、後で他のライバーが入ってくることを想定しなくても良いし、自分達の都合や好みに合わせて建築作業を進められるのは、大きなメリットと言えるだろう。

 また、キャラクターが死亡してもリスポーンできないハードコアモードに設定して、強敵であるエンダードラゴンを倒すという『エンドラ討伐』企画もちょくちょく行われている。
 『にじ鯖』においてはトラップや交易が充実しているため、強力なエンチャントがかかった装備も比較的揃えやすく、死亡してもアイテムなどの損失をある程度補うことはできる。しかし、ハードコアの場合は『誰かが死んだら終わり、最初からやり直し』というシビアなルールが課せられる。慎重に立ち回りながらも、時には大胆にアイテムや素材を集め進行していくというスタイルは、こういった難しい企画ならではの姿だろう。エンダードラゴンの討伐を達成するまで行くことはそうそうないが、やり直しながらワイワイと賑やかに遊ぶ様子は見ていて楽しいものである。

 最近盛り上がっている企画としては、『にじさんじ若手女子限定マイクラサーバー』がある。
 2022年以降にデビューした女性ライバー(と猛獣一匹)だけが入れるサーバーで、特に制限などはなく参加者それぞれが自由に建築や探検を行えるようになっている。有志の参加ということでプレイヤーに加わるかどうかはライバーに委ねられているが、配信内で出来上がっていく様々な建築物や、徹底した地下採掘作業などからは、彼女達のMinecraftへの熱量が軒並み高いことを感じ取ることができる。サーバーの開放期間が1月末から3月末までの約2ヶ月となっているため、集中して取り組んでいるという部分はあるだろうが、往年の『にじ鯖』の賑わいを彷彿とさせるような活発ぶりに嬉しさを覚えるリスナーもいるだろう。

 こういった取り組みは、今後も意欲のあるライバーによって進められていくことだろう。それ自体はにじさんじのMinecraft文化が存続していくという意味で良いことだと思う。
 ただ、『にじ鯖』自体への活気や賑わいにこういった企画が結びついていくかというと、なかなか難しい。そこでできないことを企画として選んでいる部分もあるわけなので、それらが一通り終わった後に『にじ鯖』へ行こうとは必ずしもならないだろう。

『にじ鯖』はリセットするべきか

 ここまで述べたように、現行の『にじ鯖』はワールドの開拓や資源の面で飽和した状態となっている。今後もにじさんじライバーが増加していくことを考えると、新規参加者によるワールドの拡大や建築物の増加を期待するのは厳しいだろう。

 では現在の状態を一旦の完成として訪問・観光のみができる状態にし、ライバーが遊ぶ環境としてのサーバーをリセットするというのはできるのだろうか。
 技術的に考えるなら、これといった障壁はないように思える。新たにサーバーを用意して、そこで最初からプレイを始めてもらえばいいというだけなので、それ自体に難しいことはさして存在しないだろう。新天地という存在がライバー側の意欲につながる可能性があり、トラップや交易所などの整えられた便利施設に頼らない、本来のMinecraftを遊ぶ楽しさを味わうこともできる。
 一方、これまで積み上げてきた『にじ鯖』と環境が断絶されることで、既ににじさんじを去っていったライバーの残した物や、そこに付随するライバー達の思い出に後発のライバーが何気なく触れるという機会はなくなってしまう。それによって生じる影響は計り知れないものとなるだろう。
 ライバー自身が口に出さずとも、背景に建物が映ったタイミングでリスナーがコメントしたり、当時のことを懐かしんだりするという経験は、現行の『にじ鯖』の中でしか起こりえないことである。たとえにじさんじの遺産としてサーバーが保存され、いつでもライバーが自由に入れる状態になっても、『にじ鯖』の生活とは切り離された『化石』のようなものになってしまう。そうなれば、現在進行形の活動と過去の歴史が混在する、今あるような楽しさをライバーとリスナーが共有することは難しいだろう。
 結論を言えば、『にじ鯖』のリセットは非現実的な選択であり、別の方策によって課題の解決を図っていくほかない。仮にまっさらな状態から再スタートを切ったとしても、ライバー達にかつてのサーバーと同様の熱気や意欲が灯るわけではないし、積極的に取り組むグループがあっても『にじ鯖』とは異なる質感の世界が出来上がるだろう。そこにもちゃんと魅力はあるだろうが、今の『にじ鯖』を感じる何かは永遠に失われてしまうと思う。

 新たなライバーの入植や企画に伴う建築が増えていけば、長年の積み重ねによって巨大化した『にじ鯖』を運営していくことは、今後一層難しいものとなっていく。運用上の課題に留まらず、配信外での作業時間や利用頻度の多い施設までの移動時間に関する問題は、規模が拡大するほど深刻さを増していくことだろう。
 この先も魅力的なMinecraftサーバーとして、またライバー達の集える遊び場として機能させていくために、何らかの工夫が求められる段階に来ている。活気のある『にじ鯖』としてやっていくためにも、頑張っていってほしいものである。

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