新人ラッシュとその世知辛い背景
同時デビューとしてやや多い『5人組』の意味
2020年8月6日、いちから株式会社が運営する『にじさんじ』とカバー株式会社が運営する『ホロライブ』のそれぞれから、電撃的に発表された新人ライバーの参戦。いずれも「女性のみ、5人組のグループ」という同じようなメンバー構成となった。
そのコンセプトやデザインに違いこそあれ、この時期の大量加入は今年下半期の見通しを踏まえ意図したものと見るべきだろう。すなわち、今後の新規採用やグループ拡大が滞る可能性を前提に置いた、長期スパンを視野に入れての活動展開である。
今年の初めから感染が広がり、世界全体を混乱させている新型コロナウイルスの影響は、ここにきてまた深刻さを増しつつある。ようやく遅延していた企画や新モデルのお披露目が消化されつつある中、再び経済活動の自粛や外出の制限に見舞われる恐れもある。
特に2社が本拠地を置く東京都内では、感染者数が高止まりの様相を呈し、医療体制も依然ひっ迫した状況が続いている。緊急事態宣言が再び打ち出される可能性は日毎に高まり続けており、新規ライバーの採用や事前研修、面会ミーティングといった業務がいつ困難になるかもわからない。また、3月から5月にかけてがそうだったように、ライバーのスタジオ利用や公式主導での大型コラボ企画などが配信できなくなる可能性もある。
こうした外的要因による『停滞』を迎えうる中で、VTuberの活動を支える事務所は、配信における話題の欠乏やマンネリ化を防いでいかなければならない。ゲームコンテンツという面では、包括契約の拡大によって事務手続きの簡略化が進んでおり、自粛状況下でも許諾を得ての配信を確保することが可能になってきている。
一方で先行きや展開が心配されるのは、ライバー自身が企画するテーマトークや寸劇のような、筋書きや構想力をベースに置いて行われる配信である。いわゆる『ひな壇バラエティ』がそうであるように、この手の企画は一堂に会することで会話の盛り上がりや空気の一体感を作っている。その場に揃ってこそ成立するリズムの小気味良さやスラリと流れる進行が、視聴者に快感や躍動感を与えてくれるのである。
しかし、感染の拡大によって経済活動の大きな自粛を求められれば、そのようなスタジオありきの企画配信は実施が困難となってしまう。それによって、バラエティ企画がジャンルとして縮小し、弱体化してしまうのではないかというのが危惧されるところである。
こうした課題に対して今回提示されたのが、5人という比較的大所帯なグループ構成でのデビューである。にじさんじに至っては「元演劇部に集った5人の女子高生」というロールプレイ設定を置いて、デビュー後の活動内容が『グループ企画中心』であることを匂わせる形としている。これまでに加入したライバーの多くが一個人を単位としてきたのに対し、明確に路線を分けてきた形だ。
ホロライブ五期生にしろ、にじさんじの『学院演劇同好会』にしろ、箱という括りで見れば彼女達はその中の一員である。だが、強力や連携という部分で先輩グループに支援を受けるにせよ、活動の単位としては一個人ではなくグループになってくると見られる。
スタジオに集まる必要があるような企画が開けなくとも、同期を集めれば番組が成立する人数。ファンの想像力を刺激するシチュエーションというよりは、定期的に集まり配信をする名目として与えられたであろう背景設定。それは、今後訪れうる『巣ごもり』という状況に対して、有利に働く要素だと言えるだろう。
『テーマ型集団』に弱いにじさんじ、『言葉の不信感』を拭えていないホロライブ
ここまで新人グループの登場を、肯定的な捉え方で語ってきた。この節で取り上げるのは、にじさんじとホロライブのそれぞれが現在抱えている弱みや問題点の話題だ。
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