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でびでび・でびるに学ぶ『悪魔的なコミュ強戦略』

 皆さんは、ぬいぐるみのような外見でにじさんじ内を縦横無尽に飛び回る怪ライバー、でびでび・でびるをご存じだろうか。魔界からやって来た悪魔だと名乗り、人類のみならず亜人や異世界の住人さえも弄ぶ彼(彼女)は、一癖二癖あるにじさんじライバーの中でもひときわ異彩を放っている存在である。

 彼の行動や発言は、時として常人に理解のできないものであり、また脈絡のないいたずらに反感を覚えることも少なくない。それにもかかわらず、でびでび・でびるは排斥されることがない。コメディーリリーフとして、あるいは深淵から混沌を眺める存在として、どのような企画でも存在感を放っている。
 彼が「でびでび・でびるがいてこそのにじさんじ」と思わせるだけの魅力を放っているのは何故だろうか。今回は、彼の配信内容やコラボレーション企画での役割を元に、コミュニケーション強者として振舞うためのヒントを探っていこう。

1.常に退かないキャラ付けで唯一無二になる

 VTuberのキャラ付けのスタンスとしては、大別して2つのタイプがある。
 ひとつは、『演者自身の性格や言葉遣い、趣味趣向を最優先するタイプ』であり、多くのVTuberがこのスタンスを採っている。演者は自分が知っていること、興味のあることを話題の主軸とし、配信や企画の中で表に出していく。当然ながらキャラクター特有の設定もあるのだが、それ自体を前面に立てることは少ない。もっぱら、話題に織り交ぜてその現実性を薄めたり、限定的なロールプレイの中で用いられるものとなっている。
 もうひとつは、『キャラクターの設定や世界観を優先し、演者がそれに則した動きを取るタイプ』である。常にロールプレイを意識して言葉や話す内容を選ぶのがこのスタイルだが、声色や言葉遣いが特徴的であるほど土壇場で崩れやすく、定まったイメージを維持し続けるのは非常に難しい。また、他のVTuberとの交流においても言動を維持する必要がある。与えられた性格や人当たりの良し悪しでコラボ先の反応も左右されるため、同期や同グループ以外と付き合いを持つ際は細心の注意が求められることとなる。こうした点から、自然体でロールに入り込めるVTuber以外で見ることは少ない。

 でびでび・でびるは後者のキャラクター優先型のライバーである。自身の配信でも、コラボレーション企画でも、彼は一貫して異世界から来た悪魔であり、現場を掻き回す存在として行動している。そのため、どの配信に現れても「ああ、またあいつか」といった調子でリスナーに認識される。
 驚くべきは、どんな相手であろうとどんな場所であろうと、一切の遠慮や気後れを見せずに振舞っている点である。理外の存在であるでびでび・でびるは、企画内ではトラブルメーカーとしてのポジションを握っている場合が多い。一方的なあだ名付けに始まり、無茶ぶりやいたずら行為、自身のロールプレイへの協力強制など、明らかに迷惑と見える行動へ積極的に出る。こうしたものは、たとえライバー間で同意が取れた上での茶番でも心証が悪いものである。しかし、でびでび・でびるは一切の容赦なく行動に出る。その上で、相手のリアクションや和んだ空気を引き出していくのである。
 多くのライバーは、「相手に迷惑をかけないように」「他人の恨みを買わないように」と、一人で配信している時より控えめな態度を取ろうとする。対して、彼はどんな状況でも悪魔としてのスタンスを貫き、幼く考えの浅いような行動を平然と採っていく。一見リスクに思えるこの行動が、逆にでびでび・でびるとしての一貫性を形作り、独特の魅力を生んでいるのである。

 一般的なチームでの議論や作業でも、個々が引き気味な態度を取ってしまう場合が多い。それ自体は失敗や論理上の齟齬、関係の悪化を避けるための知恵ではあるが、過度に徹底することは各人の持ち味や独自の発想を押し潰してしまうことに繋がる。また、他者を慮っての躊躇は、時として自身の一貫性を崩してしまう。
 自身の論理や独創性は、いわば自身のキャラクターである。そこに一貫性がなければ、場の空気が穏やかであってもなんら実のない議論になってしまう。過度なリスクを負わなくともいいが、自らの考えや思想を表に出すことで筋を通す必要はあるだろう。そうした意味で、退かず前に出るという彼のスタンスは参考にできるものだと言える。

2.根回しと脚本設計で企画のリスクを制御する

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