にじさんじの麻雀大会が白熱する3つの理由
今年の初めを飾る大イベントである、にじさんじの新春麻雀大会は例年通り盛況の内に幕を閉じた。数え役満での役満賞が出たり、名だたる強豪達が敗退していく中、グウェル・オスガールやでびでび・でびるが決勝までコマを進めたりと、なかなか面白い展開に恵まれた大会であったと思う。
ところで麻雀大会といえば、にじさんじの箱内イベントとしてはマリオカートやスプラトゥーン等と並んで古参の部類にあたる。子供の頃から遊び親しんでいるゲームの系統が大会に持ち込まれるのは理解できると思うが、麻雀に関してはやや特異的というか、日本人の感覚からすると馴染みの薄い遊びではないだろうか。パーティーゲームとしてアレンジされたドンジャラが昔から玩具としてあることを考慮しても、本格的に触れる機会がこの大会になるライバーは少なくない。
それにもかかわらず、麻雀大会の参加ライバー数や事前の練習配信を含めた盛り上がりは、実質的な年中行事となっているイベントでも1、2位を争うほどになっている。この現象は冷静に考えてみるとなかなか奇異なものである。ちょっと前の時代なら、麻雀は中年や年配者の遊びというイメージの方が遥かに強かった。アカギや哲也などの漫画がそうであるように、どこか薄暗く尖った大人の遊戯として受け止められていたのだ。ところが、ライバー同士の対局においてはそうした空気感を覚えることはなく、流行りのゲームタイトルと比べても遜色ない熱さやスリルを味わう場になっている。
このような状況が出来上がっているのは一体何故なのだろうか。今回は3つの切り口から、にじさんじの麻雀大会が盛り上がっている要因を考察していくことにしよう。
『雀魂ーじゃんたまー』という存在
麻雀大会が白熱する要因の1つとしてまず考察したいのが、ネット麻雀アプリとしてサービス展開されている『雀魂ーじゃんたまー』についてだ。
ネット麻雀で大会をやることで得られる利点はいくつかあるが、特に大きいのは、麻雀をやるにあたって覚えなければならない知識を大幅に減らし、重要な部分だけに集中できるという点だろう。
例えば、実際の雀卓を使って麻雀をする場合には、場を整えて各プレイヤーに最初の配牌を渡すまで、人手でやらなければならないことがいくつもある。オートで麻雀牌をシャッフルしてくれる自動卓を使ったとしても、それぞれに牌を配って立てるまでの動作は各々協力してやらなければならない。もちろん、その途中で自分の牌を倒して相手に見せてしまったりすれば、場を整え直したりといった作業が必要になる。こういった手間をかけて打つとなると、やはり門戸としては狭いものとなるだろう。
また、役の点数計算についても自力で行おうとすると相応の麻雀知識を身につけなければ難しい。ツモあがりか否かで点数の大きさが変わる役があったり、あがった人やあがられた人が親番かそうでないかでも点数の増減に違いが出てくる。それらを理解した上で対局を円滑に進めるためには、それなりに学んで経験を重ねることが必要不可欠である。
そういった、本来面倒だがゲームの進行上やらなければならない要素を省き、『牌の並びをルールに沿って揃えれば点数になる』というシンプルなゲームに昇華させているのが、『雀魂』のようなネット対戦方式の麻雀だ。プレイヤーは1局ごとに牌を並べ直す必要などないし、細かい点数の計算を気にしなくても、アプリの側で勝手に算出して点数を振り分けてくれる。つまり、『どうやったら他プレイヤーに先んじてあがれる並びを作れるか』という点だけに集中できるからこそ、未経験者でも大会に名乗りを上げやすくなっているのだ。
もうひとつ大きな利点となっているのは、段位戦や友人戦といった対戦機能を使いながら、短期間でも麻雀の経験を積み上げやすい環境が提供されていることだ。
例えば友人戦においては、他のプレイヤーを招待するだけでなく、NPCを配置して対局することができる。また、1手ごとの持ち時間も設定でさまざまに変更できるため、じっくり考えて打つ形式での対局も可能だ。慣れないうちから麻雀を理解しているプレイヤーに囲まれ、徹底的にやり込められるという憂き目に遭っているとモチベーションも下がりがちだが、低いレベルのNPCを置きつつ打ち方の基本を学んでからなら、そこそこ自信をもって麻雀を遊ぶことができる。
これだけでなく、他のライバーや外部の有識者を呼んで勉強会や練習対局をすることで、実践的な知識を身につけたり大会へのモチベーションを高めることができる点もメリットと言えるだろう。初心者枠であろうと成長が早いのがにじさんじの麻雀大会だが、『雀魂』の経験を積みやすい環境がそれを助けていることは間違いない。
箱内の麻雀有識者の存在
2つ目に考えていきたいのが、にじさんじライバー内の麻雀有識者の存在だ。日頃から麻雀に親しんでいたり、神域リーグのような外部の麻雀イベントに参加していたりと、麻雀とのかかわりを持ち経験や知識を培っているライバーが何人もいる点は、麻雀大会の開催や運営においても大きな要素として機能していると言える。
たとえば、大会前の期間においては経験の浅いライバーの師範役や指導役として、知識を教える側に回っていることが挙げられる。
初心者のライバーにとっては、彼らのような存在がいることでやり方を尋ねやすくなる。また、要領がよく我流で麻雀を理解しているライバーからしても、実践的な知識を持っている相手に打ち方を見てもらうことで、自身の勘違いや先入観を解いて実力をより一層引き上げることができる。教える側にとっても、他のライバーの打ち筋や考え方を見ることによって、自身の経験を積む機会を得られるわけなので、まさしく一石二鳥だろう。
また、外部のイベントやかかわりを通して、麻雀のプロリーグ選手や著名な麻雀打ちの配信者達とコネクションを築いていることが、大会前の練習期間においてはかなり役立っている。自分が学び直すために人を呼ぶだけでなく、麻雀のことを勉強したがっているライバーとそうした外部の人々とをつなぐことで、モチベーションや技能の向上をもたらすことができるからだ。
能力と人脈、その両面を活かして大会に向けた熱量を上げていけるライバーがいることで、当日の白熱を演出できていると見ることができるだろう。
麻雀有識者の存在感は、当然ながら大会当日においても大きく寄与している。司会や実況・解説役として場を回していくライバー達が、対局における様々な展開を言葉にして伝えてくれるおかげで、リスナー側が素人であっても戦いの山場がわかりやすくなっていることは間違いない。当然ながら、専門用語については自身が知らないとイマイチわからない時もある。それを差し引いても、
『この場面で当たり牌を出さず巧みに立ち回っている』
『求めていたあがり牌を自分で引き寄せた』
といった場の盛り上がりのポイントは、有識者達の湧く様子を頼りに共有することができるので、『知らない遊びだからそこまで面白くはない』とはなりにくい。
同時に、選手として参加しているライバーに麻雀有識者がいることで、明確な打ち筋を持ったゲーム運びが見られるようになっている点は、大会の面白さを一層高めていると言える。初期の麻雀大会は、よくルールのわかっていない人達同士で打つ面白さを共有して楽しんでいる部分が大きかったが、ライバー達がルールや駆け引きを理解してきたことで、ちゃんと勝負をした上での面白さを見せるようになってきた。その流れの中で、絶体絶命のピンチを知識や経験を頼りに捌いてみせたり、待ち構えていない意外なところからあがりを作ってみせたりと、観衆を唸らせる見せ場を麻雀有識者のライバーが提供していることは、大会の盛り上がりを作る上でとても役立っていると言えるだろう。
『腕前≠勝利』という麻雀そのものの特性
3つ目に挙げるのは、麻雀というゲームそのものが持つ特性によって生まれる面白さだ。
麻雀の勝敗はプレイヤーの知識量や技能だけに依存するわけではなく、必ず『運』という要素が絡んでくる。最初に配られる牌の並びが悪ければあがりづらく点数にならないし、途中で引く牌があがりを目指すのに不要なものばかりだと、どんどん自分の手が遅くなっていく。また、どんなに有利な状況でも自分以外が先にあがれば、その時点で一旦点数の変動が行われ、盤面はリセットされる。自分が卓にいるプレイヤーの中で強く立ち回るには、腕前だけでなく、運という不確定要素を味方につけることも重要なのである。
こういう特性があることで、麻雀は他のゲームタイトルに比べて初心者でも参加しやすい空気がある。まったく対局に慣れていなくても、一度運が向けば役満あがりすら不可能ではないのがこのゲーム。偶然の勝利であっても『案外勝てるんだ』と前向きに捉えやすい。
対して、流行りのゲームや対戦形式で有名になっているゲームでは、不確定要素よりも技能と知識に大きく左右されるものが多い。
たとえばFPSタイプのアクションゲームの場合、プレイヤーが好成績を残すためには一瞬で目標にレティクルを合わせるエイミング能力や、遮蔽物や地形を把握し優位に立ち回るマップ知識、武器やスキルなどの特徴への理解度が重要となる。勿論、ゲームデザインとしてそれなりに不確定な要素を盛り込んでいるものはあるが、基本的には鍛え上げて知識を多く持つプレイヤーがより勝利しやすいルールになっている。
そのため、初心者を多く加えての大会を開くとなると、一通りの戦い方を熟練プレイヤーの指導でみっちり叩き込むという形になりがちだ。そういうやり方に適正のある人はどんどんモチベーションも上がるだろうが、全体的には『そこまで熱心にはなれないかも……』と敬遠する気持ちが出てきてしまう。
本格的なレースゲームや格闘ゲーム、ネット対戦形式のTCGなども同様のことが言える。最初から興味のある人、それなりに心得のある人を集めて大会を開くのであれば問題はないが、広く参加者を募ってということになると、ライバーから見て敷居の高いものになってしまうのだ。
にじさんじという箱の規模が類を見ないほどの巨大さを誇るおかげで、そういう参加者を限定しがちなタイトルでもそこそこのプレイヤーが集まる。また、腕前を競うゲームを好むライバーが声をかけて大会やイベントを開くことは比較的多い。だが、麻雀大会ほどの気軽な参加となると、他イベントではなかなか見かけない現象と言えるだろう。
みんなで参加できて、みんなで盛り上がれる大会。その特徴が、新年早々の白熱した空気の形成にも寄与しているのだ。
やっぱり麻雀は面白い
今回はにじさんじの麻雀大会の盛り上がりが生まれる要因として、3つの観点から考察を行ってみた。
ネット麻雀という環境を使うことによって、本来ある煩わしい要素を排除しシンプルに遊べるようになっていること。
箱内に麻雀の有識者がいることで、ライバーが事前に麻雀を学んだり大会の盛り上がりを作れるようになっているということ。
必ずしも腕前だけに依存しない麻雀の特徴が、誰でも参加しやすい敷居の低さを担保していること。
これらの要素が、にじさんじの麻雀を支えていると言えるのではないだろうか。
麻雀大会の視聴を機に、『雀魂』や麻雀に興味を持ったというリスナーもいるだろう。そういった人達には、是非とも一度チャレンジしてみてほしいと思う。ライバー達がそうであるように、初心者であっても最低限のルールがわかるだけで楽しく遊べるのが、ネット麻雀の持つ良さだ。のめり込むほどにやれとは言わないが、嗜んでみると面白い経験ができるだろう。
にじさんじの麻雀はいつ見ても面白いものだし、ライバー達が上達していくほどにその駆け引きと運の輝きも巧みな様相を見せていく。今後も新春の麻雀大会、あるいは花鳥風月戦といったイベントがにじさんじ内で続いていくことを心より願う。