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バーチャルで音楽ライブをやるということ

 2020年8月10日、にじさんじ所属ライバーの加賀美ハヤトが3Dモデルのお披露目配信を行った。そして彼の配信は数多くの視聴者を呼び寄せ、SNSのトレンドに上り、VTuber界隈のみならず音楽業界にも衝撃を与えることとなった。

 最近の3D配信の傾向がネタ寄り、面白モーション寄りの企画だったのに対して、彼が披露したのは1時間にわたる全編音楽ライブ配信である。それも彼だけステージに立って歌うのではなく、スタジオにバンドを呼んで同時に演奏する形式でのライブである。生配信を視聴した僕自身、「とんでもないものを見せつけられた」と度肝を抜かれたほどに凄い内容であった。
 『凄い』と一口に言っても、何が卓越していたのか皆さんには伝わらないと思う。ということで、今回は彼が敢行したバーチャルソロライブ配信の凄さと、その功績が切り拓くであろう『未来のライブ配信』について語っていこう。

演奏の動きをモデルに反映するトラッキング技術

 加賀美ハヤトの配信で凄かった要素のひとつ、それはバックバンドの演奏をバーチャル化したことである。予めモーション取りをしたものではなく、現地でリアルタイムトラッキングを行い、用意されたモデルに挙動を反映させている。

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 今回の配信では、舞元啓介の3Dお披露目配信でも使われていた黒子衣装のモデルを転用し、バンドメンバーのガワとして当てはめている。これは各人の体格や身長に合わせて、パーツのサイズが調整されている。そのため、結果としてライブステージ上に大きさの異なった5人の黒子が並ぶ状態となった。また、バンドマン達が手にしていた楽器は実機のモデルではなく、ある程度モチーフを取ったオリジナルデザインのモデルを使用している。
 全身黒づくめの黒子で統一されたバンドマン達は、面白い意味でステージに違和感を与えてくれる存在として現れた。加賀美ハヤトが会社の取締役らしいピシッとしたスーツ姿なのに対して、黒子は実に無個性な装いである。そんな彼らがのっけからギターを掻き鳴らし、ドラムを鮮やかな手捌きで叩いて激しく楽曲を奏でる。見た目には皆同じなのに、その全身からはアーティストとしての個性が湧き上がり、指使いにプロとしての技巧が垣間見える。キャラクター性を意識して排しているのに、演奏者としてのキャラクターが立っているというちぐはぐな面白さ。そこに魅力を感じる配信であったと思う。
 もう一つの驚きは、そんな感情を抱けるほど「相応に繊細な動きのインプットとアウトプットができるようになった」ということだ。肩や肘、手首といった大きな関節の動きにとどまらず、ギターを弾く指先や振り回されるドラムスティックの先端まで、リアルタイムでモーションを取得する技術。そして、取り込んだモーションを大きな破綻なく3Dモデルに落とし込み、遅れなく稼働させる技術。これらが揃って初めてバーチャル空間での演奏が成立している。今回のお披露目配信は、そうした『次につながる技術』のお披露目でもあった。

 勿論、これで全てが完成されているとは思っていない。ところどころ人物モデルの先端部が楽器を貫通したり、若干のかくつきを感じさせる場面があったし、せっかくアーティストらしい舞台にありながら共演者が目立たない姿であった点も、ライブイベントとして見るなら味気ないものである。技術面で見れば、やはりまだ実験的な投入としての意味が大きいだろう。
 今後いちからがイベントや公式配信を行っていく中で、今回見せてくれた技術をどのように応用していくのかは注視されていくことになる。加賀美ハヤトのように演奏者を立たせる場合もあれば、アイドル歌手のようなバックダンサー付きの舞台が展開される場合もあるだろう。そうしたライブコンテンツの中で技術が洗練されていけば、VTuber界隈の音楽シーンにも新たな作風を吹き込むきっかけとなっていくのではないかと思う。

創作上の存在との共演

 バーチャル空間ならではの演出として凄かったのが、彼が特別ゲストとして呼んだ人物(?)である。

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 TCG(トレーディングカードゲーム)『デュエルマスターズ』の召喚クリーチャーであるボルメテウス・ホワイト・ドラゴンとの共演。同じにじさんじライバーの葛葉との寸劇を交えた後、鎮座する巨大な機龍をバックに熱唱する加賀美ハヤトという構図は、彼の人となりを知る者なら誰しも熱狂したであろう。
 デュエルマスターズを紙のカードの頃から遊んでいる彼にとって、大人気クリーチャーのひとつであるボルメテウス・ホワイト・ドラゴンと一緒に舞台に立つことはまさしく夢であっただろう。現実には到底不可能な絵面であっても、バーチャル空間だからこそできる異色のコラボレーション。それをまさかの3Dお披露目配信という大舞台で叶えたことは、今もなお少年の心を持ち続ける彼らしい姿だったと言えるだろう。

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