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甲斐田晴の『失敗』とグループ配信者の立ち位置問題

 6月22日、にじさんじ所属のバーチャルYouTuberである甲斐田晴から以下の声明が出された。

 この自粛声明は、彼の活動内で発生したとある失言と炎上に起因するものだ。
 彼がゲーム配信中、トランプの大富豪という遊びを知らない人を指して『土人』(先住民族や発展途上地域の住民に対する蔑視的な表現である)と称したことが、まず方々から問題視された。当該発言について彼は「意味を十分に理解していなかった」などと釈明し、その上で配信アーカイブから該当箇所を削除する等の対処を一旦は行った。しかし、その対応を逆に隠蔽行為と捉えられ、さらに以前から睨まれていた要素とも絡められ糾弾されたことで、鎮火の目途が立たない状況に陥っていた。
 憤る相手をクールダウンさせ、状況を冷静に分析していく上で、今回のような自粛声明は適切である。ただ、これが単なる失言問題や彼の意識の問題として取り上げられるのはいささかお門違いであり、今後更なるトラブルの種となりうる誤解であるため、今回取り上げることとした。

甲斐田晴というキャラ付けの固化

 デビュー後の一連の活動を俯瞰してみると、今回のような炎上トラブルに見舞われたこと自体はあまり不思議ではない。元々にじさんじの中で男性ライバーという存在が扱いの難しいものであること、いかに上手く立ち回っている方々でさえ睨まれるものであることを考えれば、今の段階でなくともいずれ火が点く状況にはなっていただろう。
 ただし、彼自身に問題がなかったわけではない。自粛の決定打となったのは彼自身の発言であるし、そこに注目させる状況を作ったのは勇気ちひろとの突発コラボにおける発言や対処の杜撰さである。この点を些細なことと看過することは、彼の何たるかを見ずに語るようなものだ。甲斐田晴の行動として許されない部分があったことは事実であり、直接の引き金になっていることは否定のしようがない。
 では、彼の行動や言葉遣いは彼の本質なのだろうか。彼自身が心がけて制していれば、何も起こらないのだろうか。安易に否定や批判を投げかける方であれば、そうだと頷くかもしれない。しかし、どれだけ意識を強く持とうと、あのような言葉はいずれ出てしまっただろうと僕は思う。その根拠となるのは、彼にまとわりつく属性である。

 甲斐田晴は『晴ママ』と呼ばれることがある。これは元々、活動を始めた当初のやり取りから想起され生まれた呼称である。僕が考えるに、このイメージは彼の立ち位置を固定化させてしまっているのではないだろうか。
 ネットにおける『ママ』は必ずしも生物的な母性を指すわけではない。面倒見の良さ、人当たりの良さ、柔和な印象といった甘えを許す雰囲気を『ママ』という言葉に集約し表現している。そういった意味で、初期の甲斐田晴の言動は『ママ』に当てはまるものであった。しかし、これは初配信すら始まっていない段階での閲覧者達の第一印象に過ぎなかった。
 初配信において、甲斐田晴は視聴者からの『ママ』という反応を受け止め許容する形となった。当時の彼がどのように思っていたかは推察できないが、仮に快く思っていなかったとしても否定することは難しかっただろう。ファンとなりうる人々に対する拒絶を示せば、それ自体が火種となって活動に悪影響をもたらしかねない。嫌だと思っていても、一度は受け入れざるを得ない状況ではあったと言えるだろう。
 この肯定によって『晴ママ』という概念が正式に導かれ共有されたことは確実である。一方で、甲斐田晴にとっては覆したくとも覆せない状況に陥ったと言える。最初の印象で人が歩み寄ってくる手前、今さら自らの路線を変えるわけにもいかない。たとえ自身の素性と相容れなくとも、この扱いは我慢せざるを得ない。そこが同期2人と大きく異なる点だった。

 結局、ファンとライバーとの人格認知における齟齬が大きくなってきたのが今であり、炎上にしてもただ順当に破裂したに過ぎない、というのが僕の見解である。とはいえ、どちらにその責任があるかという話はここではしない。ファンからすれば悪ノリが過ぎた形であり、ライバーからすれば素性を隠し続けた形である。どちらにも落ち度はあり、いずれかの責任を問うたところで意味がない。
 しいて指摘するのであれば、彼が復帰した後に『晴ママ』というネタを擦り続けることは控えた方が良いという忠告はしておきたい。ファンの側から勝手に与えた属性ではなく、ちゃんと1人の個性を持ったライバーと認識して甲斐田晴に対面するのが、活動の改善を促す一歩となりえる対応だと僕は考えている。

周りを察し過ぎ、同じになろうとする人柄

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