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『切り抜き』の利点と危険性

魅力の周知に貢献する『切り抜き』

 YouTubeなど、動画共有サービスでは長時間のライブ配信が主流となっている。こうした長尺のコンテンツは、アーカイブなどの形で共有される一方で、後追い視聴をするユーザーからは楽しみづらいものとなっていることが多い。
 ライブ中の視聴を行っているユーザーの場合、コメントチャット等の形で即時の交流ができることや、また配信サービス内でのやり取りが行えない場合でも、同時視聴という形でファンコミュニティ内の歓談ができることで、間延び感を覚えることはさほどない。むしろめぐるましく変わる状況に追いつくのが大変だと感じるほど、多忙な状態である。
 一方、アーカイブ配信後に視聴する場合は、配信者や視聴者のやり取りを延々と傍観するという形式になる。全編を通して見れば面白い箇所もあるのだが、いかんせん拘束時間が長い。また、ファンの間で感想や反応の共有を図るにしても、タイムラグがあるためライブ配信ほどの一体感は感じられない。結果として、作業中のBGMや息抜きとして流し見る程度に留まってしまうのが、長尺アーカイブの宿命である。

 こうした状況を打破し、魅力の発掘に貢献しているのが『切り抜き』と呼ばれる編集動画の存在である。配信者自身、あるいは彼らをプロデュースする事務所が公に作成する場合もあるが、多くは有志のファンユーザーによって作成され、各人のチャンネルで公開されている。
 『切り抜き』の最大の特徴は、配信の中の「これだ」と言える見どころだけを抽出している点である。単一の見どころに絞った動画の場合には、アーカイブ内では見逃しがちな一言や反応をピックアップし、字幕テロップやエフェクト、登場人物の画像追加によって状況を分かりやすく伝える工夫がなされている。アーカイブを全編見通す時間がなくても、
「この配信ではこういう出来事があったのか」
という情報を知ることができるため、いわゆる『推し』の動向を追いかけるのにとても都合が良い。
 また、複数人でコラボレーション企画を行った際の配信を切り抜いた動画では、それぞれの配信から同時刻の状況をピックアップし、並列表示するといった工夫が施される場合もある。リアルタイムで複数の配信枠を視聴している猛者はいるが、それでも同時に各々の視点を注視することは不可能に近い。『切り抜き』が俯瞰の状態を作り出すことで、視聴者は参加者それぞれの思惑や反応の差異を見比べ、楽しむことができる。
 これら事後の娯楽を提供するという点で、『切り抜き』は役立っていると言えるだろう。

悪意を『切り抜き』として語る危険性

 一方で、『切り抜き』をファンコンテンツや好意とは別の形で用いている人々がいることもまた事実である。
 たとえば配信中のトラブルや失言を抽出し、配信者の短所や落ち度として指摘するような『切り抜き』は、動画配信サービスの単純なキーワード検索にかけただけでも何件か見受けられる。また、投稿者自身の考察や意見を付け足し、特定の主張を裏付ける証拠として配信の一場面を用いている動画もいくつか存在する。
 こうした『切り抜き』については、投稿者の悪意や偏執的な要素が含まれていることもあるため、視聴や引用に際しては慎重な取り扱いが必要となる。安易に同意し行動してしまうと、それが配信者や彼らを取り巻く界隈に対する攻撃や妨害となってしまうからだ。

 問題は、件の動画が『告発』を意図したものか、『扇動』を意図したものかが曖昧であり、また配信者からのシャットダウンが難しい点である。

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