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読心術

 僕の友人、三浦、27歳はいつもポーカーで勝つ、ババ抜きでも、じゃんけんでも。
 僕は大学に通っている。彼よりも3つ下、24歳で大学生だ。専攻は心理学、いわゆる学問と呼ばれる部類というよりもコールド・リーディングに特化した部類に当たる。
 彼は本当に強い、こちらの顔を見ない、瞬きの回数、瞳孔の開き方、仕草、鼻息からカウントできる呼吸回数、まるで乱れはない。
ある時、三浦に聞いた。
「なぜ、そんなに落ち着いていられるのかい?」
「さぁ?お前の自意識過剰なんじゃねえか?心理学を専攻している君の気の緩みをついている。」
「何だお前。」
僕は素で答えた。

 とある日、たまり場での時間つぶしのババ抜きを始めた。今回は三浦の心拍、体温、視線、瞳孔、唾液の分泌、脳波、をすべて測定して逐一こちらが確認できる。どんなポーカーフェイスの人間でもここまで計測されれば逃げようがないだろう。画像を見せた。
「三浦さん。嘘をついたり、動揺すると脳のこのあたりが白くなります。」
「すっげえ白くなってる、はっきりわかんだね。」
「では、質問するので『いいえ』で答えてください。」
「早くしろよ。」
「三浦さんはせっかちですね…では、質問します。
彼女とか、いらっしゃらないんですか?」
「いいえ。  やめてくれよ・・・」
「おっと、前頭葉付近が白くなりました。いるんですね。」

 機材テストも済み、連れてきた残り2人を助手に咥え、相手の心を見透かしたチートババ抜きを開始した。
三浦さんは、首が重たく固定され目と口だけが動く。
「3人は、どういう集まりなんだっけ?」
「僕らは同じ学部の学生たちです。」
 三浦さんは俺にカードを切らせろと懇願した。まぁここまでの機器を使ってゲームを行うのでそのへんは任せた。
カードを配り終わり、機器の担当者が三浦の手札を見た。
その瞬間三浦は
「お前さっき俺が切っているときチラチラ見てただろ…」
と、かなり神経質になっていた。こちらのモニタにもその感情は手に取るようにわかった。

 仕切り直し、今度は機器の担当者は僕の側に座らせて、ババ抜きを開始した。
終盤、残り三枚、三浦の手札のどこかにジョーカーがある。互いのカード手が震え、まるで柔らかくないものが、柔らかい。そうまるでスマートフォンが柔らかいかのようだった。
僕の高揚は焦り、不安、そして微量子レベルでの征服感があった。

そんな中、目が死んだ三浦は言った。
「わかった…」
僕は煽って言った。
「3枚だよ、3枚。」
 三浦の手札、残り三枚になると、三浦の緊張度も上がって心拍も上昇している…が、落ち着いた。
僕はてっきり、精神統一でもやり始めたか?と思って少し焦らした。手を右、真ん中、左、真ん中と動かし残り三枚のカードを探った。もはや右手はカードを引く、そのための右手となっている。
「ホラホラホラホラ」
 また、煽った。しかし、おかしい。

右のカードで上がり、

真ん中で落ち着く、

左で上がる。

 本来ならば引いてほしいカードで安堵するはず…ジョーカーが二枚あるということか?いや、それはない。僕の頭の中は…あーもうめちゃくちゃだよ。

 三浦は余裕の鬼畜の笑顔で聞いてきた。
「まだ時間掛かりそうですかね?」
「ぬっ・・・」
『何!?』と言おうとしたが、声に詰まった。まるでわからない。なんだこれは…
 とりあえず、真ん中が、ジョーカーではない。そう決めた。
さっと引いた。見た。ジョーカーだった。
「んあっー!」
声にならない声が出た。最後までその攻略法はわからず、映画を見に行くことに…三浦は言った。

「これから、映画見に行くから、ポップコーンつきでおごってね。『Temptation Labyrinth』って映画見に行こうか?ここまでやって負けたんだから当たり前だよなぁ?」
「お、そうだな。」

 映画館の座席までの道中、唐突に三浦は言った。
「なぜ、勝てなかった?って思っているでしょ?教えてほしい?」
「おっす、お願いします。」
「途中から読まれていることに気がついた。ジョーカーの付近を引いていたね。たぶん、精度を上げるためだ。
だからゲームを俺の中で変えたんだ。勝とうとしない。君が愛して止まない自分の恋人や家族だと思って、君に勝たせるためにゲームをすることにしたんだ。わざと子供に負けるような感じ。」
もはや僕は言葉を聞いてなかった。無関心に言った。
「そう…」
僕は放心状態で、さっき買ったいつもは食べないポップコーンを一つ口に入れた。
「うまいじゃないかよ。」
本当に美味しくて感心した。そして、ポップコーンの味とともに三浦の理屈も飲み込めた。
「口の中で転がして食べるとうまいぞ。」
「こ、こうっすか?」
「舌使って舌使ってホラ。」
「そういえばこの映画見たことないんですけど?誰が出てるんですか?」
「菅野美穂。」

僕らは映画を楽しんだ。

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