マッドマックス 怒りのデス・ロード 口述記録集を読んだ話
・本の内容が長大なので読み進めつつ道々で個人的な感想を書いていく。
・書評なんて大層なものではなく、上述の通り個人的な読書記録なので、情報はきれいにまとまっていないし、文章もしっかりとは推敲していない。
・デス・ロードをはじめとしたマッドマックスシリーズ(以下MMシリーズ)についての基本情報はいちいち書いたりしない。分からないことや単語があったら自分で調べてね。
概要
本の内容について
2015年に公開されたマッドマックス 怒りのデス・ロード(原題 Mad Max: Fury Road、以下MMFR)のジョージ・ミラー監督(以下ミラー)をはじめとした製作スタッフ、出演者(スタント含む)、映画関係者などへのインタヴューをまとめた本。日本語訳版で本編546ページとそこそこの厚みのある構成になっている。
書誌情報
タイトル
マッドマックス 怒りのデス・ロード 口述記録集 血と汗と鉄にまみれた完成までのデス・ロード
著者/日本語訳者
カイル・ブキャナン/有澤 真庭
版元
竹書房
初版年月日
2023年3月29日
価格
3,000円+税
ISBN 13
9784801934443
購入日・場所
2023年4月15日・ジュンク堂書店池袋本店
雑感・情報より抜きメモ
第1部 狂った世界を創る
サンダードームはやはり不完全燃焼な作品
逆にあれが会心の作、と言われたら困惑する。1,2の荒々しい魅力がハリウッドに殺されてしまった。
『コンタクト』(1997)の製作時のこじれによりMMシリーズの新作が作れるようになった
・コンタクトは当初ミラーが監督する予定で進んでいたが、ミラーが脚本の手を入れ始めて2年が経過してしまったためにクビになり、ロバート・ゼメキスに交代になったという。
・その仕返しにミラーはワーナー・ブラザーズ(以下WB)を契約違反で訴え、結果としてMMシリーズのフランチャイズ権を取り返したのだという。
・これでミラーは自身の思い描くMMシリーズを、前作から時間を経てより進歩した技術を駆使して創造することが可能になった。
・作った後に売り出す人の考えも多少なりとも入ってくるだろうので何でもかんでもやっていいわけではないが、サンダードームと比較すれば圧倒的に自由に世界を創造できる。
構想期間がめちゃ長い
・ミラーが製作に関わった『ベイブ』(1995)の成功により軍資金を得て、1996年にはミラーの手によってスケッチが描かれ、1997年初頭には脚本家を集めた会議が行われたという。
・その後ミラーは『ベイブ 都会に行く』(1998)を監督するため忙しくなり、MMFRの作業は中断状態となる。しかしベイブの2作目はコケたため、MMFRの作業に戻ることとなった。
MMFRの構想
・「字幕がなくても日本の観客に伝わる映画」というヒッチコックの方法論があるらしく、ミラーはその考えに共鳴し、MMFRでやりたかったのだという。MM2の時点で字幕がなかったとしてもある程度伝わる(そもそもメル・ギブソンは劇中17回しかしゃべっていない)し、たしかにMMFRもかなり画で伝わる。
・ジョーのためなら死をも恐れぬ不死隊(インモータルズ)の構成員であるウォー・ボーイズのモチーフとして二次大戦時の日本の特攻隊(カミカゼ・ボーイズ)があるという。日本人は遺伝子レベルでウォー・ボーイズへの共感、即ちV8を連呼し、戦闘の中で壮烈な死を遂げ、死後魂がヴァルハラへ行くこと(ヤスクニと重なる)を夢見るのだろうか。冗談ですよ。
第2部 スリルに一撃
MMFR製作小話
・MMFRの撮影は2012年に行われたが、その前に2003年、2009年と2回延期されている。
・1回目の延期はイラク戦争の影響による為替レートの変動(豪ドル高米ドル安)により予算が食われてしまい、ロケ地のナミビアに車両を送れなくなったことによる。
・1回目の延期時には前3作と同じくメル・ギブソンがキャスティングされていたが、延期により立ち消えとなった。
2009年の撮影開始に向けて再度キャスティングが進み、トムハとシャーリーズという今日私たちが知るキャストが選ばれた。
・2回目の延期の理由はミラーがハッピーフィート2の製作に専念するため。なお、2回目の延期時には税額控除等の都合からオーストラリアでの撮影に変わっていた。なお、ミラーが専念したハッピーフィート2はコケた。しゃべる動物映画の2本目は鬼門であるようだ。
・2010年、撮影開始の延期時にオーストラリアでの撮影予定地にて15年ぶりの雨が降り、ポストアポカリプスのような荒れ果てた大地が緑に覆われてしまった。そのため2003年で見繕ったロケ地であるナミビアで撮影することになった。
・トムハはキャスティング決定後にメル・ギブソンと会食する約束を取り付けた。メルはすっぽかそうとして2時間ほど遅刻して行ったという。
待たされたトムハは飲食代をメルのツケにして帰ろうかとしていたらしい。
始まる前の時点で非常に癖のある会見である。
結局二人は会見し、マクシミリアン・ロカタンスキーが引き継がれた。
・MMFRの世界にはマックスやフュリオサのような主人公格のキャラだけでなく、一瞬映るだけのウォー・ボーイズたちにも彼ら自身や彼らの使用する道具・車両の経緯や歴史を考えるよう各員に指示があったという(例えばAというウォー・ボーイズは何々の出身で、使用している車の傷はいついつの戦闘でついたもので、など)。だからMMFRの世界は創作の世界であるにも関わらず表面的な「嘘」がない。この世界では本当に演者たちはそのキャラクターであるからだ。
・MMFRにおけるもう一つの重要な存在は何といっても車両たちである。過去作を今をつなぐインターセプターやマックス・フュリオサらを乗せて駆け抜けるウォータンク、イモータンジョー自らが駆る異様な姿(車に車が乗っかっている!)のギガホースなどが激しくぶつかり火花を散らす様は観るものを熱狂させる。
・ウォータンクについて。この車両は生命があるかの如く(イメージはクジラ)仕上げたかったという。最終盤にてニュークスがクラッシュさせるシーンでは実際のクラッシュ時の音ではなくクジラや速度落としたクマの声が使用されている。
・ギガホースについて。キャデラック2台を接合させるというとんでもない改造が施されている。彼はとんでもなく大食いで、撮影中の燃料費は180万ドルにも及んだという(その時のレート次第だが約2~2.5億円)。
・登場する車両そのものやキズの一つ一つに物語があるが、そこまで熱を入れて作られた車両を破壊しまくることに躊躇はなかったか、という問いについて。美術監督のコリン・ギブソンは「映画美術は期間限定の画廊であってスミソニアン博物館じゃない(永久保存するためのものじゃない)」と述べている。まさしく彼ら(車両)の魂はフューリーロードにて華々しく散り、ヴァルハラへと向かったのだ。