革命的発見をしたのでチキン(とナスの)スパイスカレーを場当たり的に作った

発見

豚肩ロースの玉ねぎ煮込みをつくっている最中、ある偶発的発見があった。

『玉ねぎをスライスにして炒めると、すぐに飴色になる』

衝撃だった。

飴色玉ねぎ作りは、手間だ。

玉ねぎをみじん切りにし、塩を振り脱水、フライパンで炒める前に電子レンジであらかじめ加熱しておく――そんな時短レシピを用いても、30~40分はかかる。
フライパンで炒める工程も、焦げ付かないように常に気を配り、様子をみながら差し水をしなければならない。しかも、私の技量では、どれほど気を付けていても、火の通りにわずかなムラが出来てしまうときた。イライラする。

しかし

みじん切りではなく、玉ねぎをスライサーを用いて薄くスライスし、軽く塩を振り、そのまま油を敷いたフライパンで炒めたのなら――そんな気苦労も時間的リソースも要らない。

水分が多い新玉ねぎ三つ分のスライスを、一様の飴色にするのに、たったの15分。

私は、10年に渡る自炊人生の中でずっと恐れていた。

飴色玉ねぎを要するレシピを。

だが、世界は変わった。もはや、飴色玉ねぎ、おそるるに足らず。

オニオンスープ、ボロネーゼソースのなにするものぞ。

いまの私なら、スパイスからカレーを作ることすら可能だろう。

いや、作らねばならない。

スパイスカレーを作ろう

スパイスカレーを作るに当たって、いろいろと調べものをした。

両親秘蔵のチキンカレーのレシピを教わり、レシピサイトでレシピを見たり、『簡単なスパイスカレーの作り方』的な動画を5本くらい観た。

難しい。

というか、性に合わない。

私は、生まれてこの方、レシピ通りに料理を作ったことがほぼない。

いままで、ざっくりとした調理工程の知識と、感覚と勘に頼って料理をしてきた。レシピを自分なりに解釈し、アレンジを加え、適当に味付けをするのだ。

今回もそうすることにした。

私は私自身の感覚と勘を信じる。
曲がりなりにも10年料理をやってきたのだから、初めて作るスパイスカレーだって大丈夫なはず。たぶん。きっと。

スパイスカレーのざっくりとした作り方

自己流に解釈したスパイスカレーの料理工程は以下の通りである。

① 飴色玉ねぎをつくる。
② トマト缶を入れてめっちゃ炒める。
③ スパイスを入れて、カレーペーストをつくる
④ 具材をカレーペーストと一緒に炒める。
⑤ 水を入れて煮込む。
⑥ 塩等々で味を調えて完成

これだけ分かれば、あとは実践あるのみである。

スパイスカレーの材料

今回、スパイスカレーに使用した材料はだいたい以下の通りである。

玉ねぎ     3個
カットトマト缶 1缶
こめ油     大さじ4
おろしにんにく 大さじ1
おろししょうが 大さじ1
赤缶カレー粉  たくさん
シナモン    適量
グローブ    適量
ナツメグ    適量
ローリエ    2枚
ナス      2本
鶏モモ肉    2枚
鶏手羽元    10本くらい
水       800ml
塩       適量
砂糖      適量
ほんだし    小さじ1

いざ調理

① 飴色玉ねぎをつくる。

まず、玉ねぎ三つをスライサーを用いてスライスしていく。
なぜ、玉ねぎが三つなのか。当初、玉ねぎ四つ分をスライスにしようと思ったのだが、なんとなくそれでは多すぎるような気がしたからである。

スライスした玉ねぎに軽く塩を振り、こめ油大さじ2くらいを敷いた鍋へ入れ、強火で炒っていく。
こめ油は酸化しにくく、風味も良いので愛用している。揚げ物も軽く揚がるので、オススメである。

過熱しているうちに、玉ねぎはみるみると飴色に色づいていく。きちんと、木べらなどでかき回し続けてやれば、差し水をする必要すらない。
今回使用したのは、水分の少ない普通の玉ねぎだったため、10分ちょいくらいで飴色玉ねぎが完成した。

② トマト缶を入れてめっちゃ炒める。

飴色玉ねぎに、カットトマト缶を全量(400ml)加える。

どう考えても全量は入れ過ぎだった。

最終的に、ペースト状になるまで炒めなければならないのだが、トマト缶に含まれた水分でびっちゃびちゃになってしまった。

起きたことは仕方ないので、そのまま煮込んでいく。

トマトに含まれるクエン酸は、過熱すると酸味の少ないアコニット酸に変わる。ここでよく加熱し、トマトの酸味を飛ばしておかないと、酸っぱいカレーになってしまうらしいので、より高温になるようこめ油大さじ2を加えて、よく煮込んだ。

ところで、私はトマトが大好きだ。料理にいくらトマトが入っていても良いと思っている。しかも、この後入れる予定の鶏肉やナスとトマトの相性は抜群だ。トマトは多ければ多いほど良い。だから、この過程で起きたことはまったく失敗ではない。

③ スパイスを入れて、カレーペーストをつくる

飴色玉ねぎとトマトが良い感じにペースト状になったら、火を止め、スパイスを加えていく。ここで火を止めるのは、スパイスの香りをいたずらに飛ばさないためである。

さて、入れるべきスパイスの量がイマイチわからない。

このあと、水を加え、さらに過熱し香りが飛ぶことを考えると、かなりキツ目にスパイスを加えても良さそうではある。しかし、料理に使ったことのあるカレー粉やナツメグはともかく、今日買ってきたばかりのシナモンとグローブは勝手がわからない。

とりあえず、カレー粉大さじ2と、それぞれのスパイスを小さじ1ずつ加えることにした。さらに、おろしにんにくとおろししょうがもここで加えておく、

飴色玉ねぎとトマトのペーストと、スパイスたちとを良く練って、カレーペーストにする。

④ 具材をカレーペーストと一緒に炒める。

鶏モモ肉とナスを一口大に切る。そして、鶏手羽元と共に、カレーペーストと絡め、炒めていく。初めから水を加えて煮込むのではなく、一旦炒めるのは、メイラード反応によるうま味と風味の向上を狙ったものである。

鶏手羽元はスパイスカレーを作ろうと思い立って買ってきたものであるが、鶏もも肉は昨日からソテー用に仕込んでおいたものだ。
塩コショウを振った鶏もも肉をピチットシートで一晩脱水して、魚焼き機で焼くと素晴らしいチキンソテーになるのだ。しかし、二晩脱水すると、ややパサついてしまうので、カレーの具材へと急遽転身することとなった。
私の突飛な思いつきによって、哀れ鶏もも肉は主役の座から降ろされ、カレー具材のひとつにされてしまった。小悲劇である。

ナスは凄まじく大きかった。近くの八百屋で98円だったそれは、通常のナスの二倍はあろうかという大きさだ。非常にお得だったと言えよう。

鶏手羽元10本超、鶏もも肉二枚、巨ナスの襲来を受けた鍋は、大渋滞を起こしていた。具材に焼き目を付けようなどと、悠長なことをしていると、スパイスの香りが飛んでしまう。

やむなく、私は次の工程へと進むことにした。

⑤ 水を入れて煮込む。

私は、中身を出した後のトマト缶を用いて、手早く水を加えた。これで、缶に残ったわずかなトマト汁も、無駄にならないという寸法である。

なんとなくトマト缶二杯分の水を入れたら、ちょうどヒタヒタになった。私は幸運を嬉しく思った。

ここで、ローリエを折ってから鍋に入れ、煮込み続ける。

⑥ 塩等々で味を調えて完成

30分ほど煮込んだ後、味見をしてみる。

うま味は十分にある。鶏から油が出たのか、思ったよりオイリーな仕上がり。しかし、パンチとコクが足りない気がする。

経験上、パンチが足りないと感じる場合は以下の可能性が高い。

1. 塩気が足りない。
2. スパイスが足りない
3. うまみが足りない

また、コクが足りないと感じる場合は以下の可能性が高い。

1. 甘味が足りない
2. 油分が足りない
3. うま味が足りない

うま味と油分は足りているし、スパイスも十分入れたような気がする。よって、私は、塩と砂糖をひとつまみずつ加え、味見を繰り返した。

しかし、まだパンチが足りない。今度は、スパイスをすこしずつ加え、味見を繰り返した。

塩気も良い、風味も十分となっても、なにかが足りない。

辛みだ。

カレーなのに、完全に辛みのことを失念していた。このカレーには唐辛子もなにも入っていないのだ。

唐辛子はあいにく切らしてしまっている。しょうがないので、私はタバスコを入れることにした。

タバスコには発酵した唐辛子のカドの取れた辛みとうま味がある。カレーの辛さをタバスコで補填するこの試みは、意外にも上手く行き、思う通りの辛みを実現することができた。

そんなことをしているうちに、電撃的ひらめきが訪れた。

「カレーもいわば煮物なのだから、だしを入れるべきなのではないか」

私はひらめきのままに、ほんだしを小さじ1鍋に投入し、味をみた。

未知の領域にあったスパイスカレーが、なんだか慣れた感じの味になってしまっていた。
名だたるスパイスの風味を押しのけて、カツオ節の香りがする。これは衝撃だ。カツオ節とはこんなにも香りの主張が強いものなのか。知らなかった。

味はまとまりはしたが、スパイスカレー独特の鮮烈な印象は薄れていた。だが、まあ、美味くはある。

私はこれでスパイスカレーの完成とすることにした。

実食

平皿にご飯とカレーをよそう時点で、私はあることに気が付いた。

ナスが居ない。

あれだけ鍋を圧迫していた巨ナスは、ほぼ跡形もなくカレーの中に溶け去っていた。いまや、固形物として残っているのは、わずかばかりの皮の断片だけだった。寂しいことだ。

気を取り直して、私は食卓に座り。カレーを口に運んだ。

確かに、美味い。

スパイスとカツオ節の香り。ホロホロと崩れる鶏肉。どろどろとしたうま味たっぷりのルウの中、姿は見えずともナスが確かにそこにいる。

店で出されたなら、「結構おいしいね。鶏肉が柔らかいのが良い」と思って、二度とその店にはいかない。『自炊にしてはそこそこやる方だが、店で出されたらリピートするほどではない』くらいの美味しさだ。

成功と言えよう。

終わりに

今回のスパイスカレー作りは成功に終わった。しかし、改善すべき点はいくつかある。
その改善点を踏まえ、再びスパイスカレー作りに挑戦したい。それに、また挑戦しないとスパイスカレー作りのために買いこんだスパイスが無駄になってしまう都合もある。

究極的に、自炊の成否を決めるのは自分自身だと私は思っている。他人からは失敗に見えたとしても、それは本人にとって実りある学習である可能性がある。
あーでもないこーでもないと試行錯誤しながら、料理を作るのはこの上なく楽しい。
その楽しさの一端を、読者の皆さんに味わってもらえたなら幸いである。

すべての自炊者に幸あれ。それでは、機会があったらまた。






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