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#01 東京都の無料低額宿泊所利用調査の開示結果と考察(7/27開示)

※全文無料公開です。ご安心ください。

東京都が5月に行った「新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言下における無料低額宿泊所の運営状況調査」の結果を情報開示請求により入手した。本記事では開示結果とその周辺を読み解く。

1. 背景:ホームレス状態からの生活保護申請

まずこの記事を読む上で前提となる知識を簡単に記すことにする。
無料低額宿泊所は第二種社会福祉事業に位置づいており、主に住居のない人が生活保護を利用した際の受け皿となっている。区市の福祉事務所から直接斡旋されることも少なくない。(注1)

無料低額宿泊所は個室化が徹底され優良なサービスを提供する施設がある一方で、大人数の相部屋など劣悪な居住環境や、高額なサービス料を徴収するにもかかわらずサービス水準が低い施設がある、という問題が指摘されている。

生活保護法では本来「居宅保護」=つまり居宅(アパートの個室)での保護適用が大原則である。しかし生活保護利用者へアパートの貸し渋りもあり、また特に東京では低廉な家賃の物件を確保することの難しさなどから、無料低額宿泊所での保護適用が常態化していた。また、「宿泊所」の名前に反して利用が長期に渡ることも少なくない。

今般のコロナ禍において、相部屋の施設は感染防止の観点からも避けるべき環境であろう。東京都としても同様の見解で、原則として個室での対応を求める通知を発している。(注2)

筆者は、ホームレス状態からの生活保護申請であっても、本来は即時の居宅保護が図られるべきであるという態度をとる。しかしながら、居宅保護を徹底するシステムが整備されていない現実を鑑みると、無料低額宿泊所を利用せざるを得ない状況があることも事実で、それゆえ無料低額宿泊所自体を批判することに終始するのはあまり建設的ではない。
とはいえ、その利用はあくまで居宅(アパート)への転宅を前提とする一時的な滞在とし、かつ十分安全かつ安心して暮らすことができる個室での対応が遵守されるべきであるということはここにはっきりと記しておく。

その上で、現実的な入居先として選定される可能性がある無料低額宿泊所は、今回のコロナ禍に対して安全かつキャパシティ的に耐えうるかということを明らかにすべく、本件の開示請求を行った。


2. 開示の結果

東京都が行った無料低額湯宿泊所の利用状況調査は「4月30日時点の各施設の利用状況」であり、都内の147施設(設置主体は38団体)を対象に行い、うち142施設の回答を得ている。
回答のあった施設の設置主体の定員数と4月30日時点の入居者数、及び利用率を示す。全体としての単純な利用率は88.56%と非常に高い割合となっている。

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次に、回答のあった 施設の利用状況について、居室の形態ごとの集計結果を示す。

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居室形態別の利用率を見ると、個室(単身)及び複数人居室の利用率が極めて高く、個室(家族世帯)の利用率は比較的低い(ただし全体的な戸数では圧倒的に単身者用のものが多く、家族向けのものは少ない)。
今般のコロナ禍の影響を受けた、ネットカフェ等での生活者はその多くが単身者であると思われるため、以下では単身者用の居室に関する調査結果に着目する。

個室(単身世帯)用の空き室は116戸(116名分)であり、単身者用居室の定員の7%程度しか空いていない。また、複数人居室の空きベッド数は210で、これも複数人居室の定員の10%しか空きがない。単純にこれらを足し合わせると、4月30日時点で入居できるキャパシティは300余人分だったということになる。

もしも全ての施設が東京都の通知に従い、個室のみで対応するという場合には、複数人居室へ入居可能な人数は210よりも少なくなる。ただし、通知を遵守した場合の受入可能人数の正確な数値は今回の開示結果ではわからない。

雑な仮定だが、例えば全ての複数人居室が二人部屋で、そのどちらかのベッドしか使えないことにするならば、定員は半分の105ということになる。すなわち、その仮定を採用するならば一定の水準(相対的に感染リスクの低い個室であること)を満たす単身者用の入居可能な居室は300よりもさらに少なく200程度ということになる(もちろんこれはあくまで仮定であるが)。

また、受け入れ状況に関する設問に対しては、4月30日時点で制限をかけている施設が96、制限をかけていない施設が46であり、3分の2以上の施設が受け入れに何らかの制限を設けていた。後で述べるがその後の生活保護申請者の増加を鑑みると、さらに受入れに制限を設けた施設があっても不思議ではない。

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3. 考察

以上、開示情報から単身者が入居可能な居室は多く見積もっても300程度であることがわかった。また、都による通知を遵守し感染リスクを抑えた個室に限って受け入れる場合はそれよりも大幅に少ないキャパシティとなる可能性が指摘できる。

東京都では、4月の緊急事態宣言とそれによる休業要請に伴い、宿泊先を失うネットカフェ難民などを想定して一時滞在場所(ホテル)を確保した。継続して就労を目指すものを対象とした「TOKYOチャレンジネット」経由でホテル利用した者はその後最大4ヶ月利用可能な一時住宅への移行が可能だが、それ以外の制度からホテルを利用した者に対して、ホテル退去後の特別な措置は図られていない。すなわち、居宅移行の支援等が行われない限りは、ホテル退去後に無料低額宿泊所を斡旋されるケースが生じることが予想される。

4月27日の時点で上述のホテル利用者のうち、区市の窓口(=TOKYOチャレンジネット以外)経由は既に361名だった。(注3)
その後、区市経由に関しては都が確保したホテルの新規提供が7月に打ち切られるまでの間も生活保護申請者は増加し、最終的には更に200名以上の上乗せがあったと考えられる。
これは、前述の無料低額宿泊所のキャパシティを明らかに超える人数であり、都が求める「個室対応」が徹底されたと仮定すると、無料低額宿泊所では対応しきれない規模である。加えて、生活保護申請者が必ずしもホテル利用に至ったわけではなく、一定数は従来通り無料低額宿泊所を斡旋されたと思われる。そのため、実際にはより多くの居室のニーズがあったものと考えられる。

繰り返しになるが生活保護は居宅保護が原則である。しかし無料低額宿泊所以上に簡単にアパートを確保できることはないであろうことを鑑みると、居宅はおろか一定の基準を満たす(感染対策が施された個室の)無料低額宿泊所にすら入居できないという層が存在することが想定される。ではこれらの人々はどのようなルートを辿ることになるのだろうか。

4. 今後の課題

上記から、コロナ禍において生活保護申請をした人々は、居宅はおろか一定水準を満たす無料低額宿泊所に入居することすら、キャパシティ的に難しいのではないかということが心配される。それらの人々の行き先を筆者は現時点で把握できていない。

コロナ禍による経済的な停滞が続き今後も生活保護利用者が増加することが予想されるが、適切な保護行政がなされるためには、現状の実態把握が不可欠である。当然ながら実態が明らかになって初めて、必要な支援や構築すべき体制が見えてくるというものだ。

そういった意味で、今後まずはホテル利用者の行き先を明らかにする必要がある。これは現在進行形で東京都が実施しているものと思われるため、随時開示請求を行う予定である。

加えて、現実的に無料低額宿泊所へ入居するケースが依然として多いのであれば、感染防止対策や個室化の徹底など一定の水準を満たしているのかという点も確認しておかなければならない。7月の東京都の補正予算では「保護施設等の衛生管理体制確保支援事業」予算が計上され、無料低額宿泊所に対してもマスクや消毒液の購入費などが補助されるとのことである。しかし無料低額宿泊所の個室化を求める菅原都議の質問に対し、都としては元来の目標(3年後までに個室化するという厚労省方針)に向けて取り組む旨の答弁にとどまっている。(注4)

そして最後に本件からは飛躍するが、より根本的に言うならば今後長期に渡って住居喪失者が増加することが予想される中で、やはり居宅保護を円滑に進めるための体制整備が必要になる。(無料低額宿泊所の環境改善も必要ではあるが、個室化が進んだ際には居室が減ることはあれ増えることはない。そのためキャパシティの面では依然として課題が残り、根本的な解決策ではないのだ)

よって、居宅保護を困難にする要因の特定及び使い得る社会的資源の掘り起こしが今後必要な作業となろう。やや長期的な調査になるがこれについても並行して行いたいと考えている。またこうした調査については随時公表していく予定である。

※投げ銭歓迎:こうした情報は今後も全て無料で公開していく予定ですが、筆者は後ろ盾となる組織もない一介のフリーランスです。お金に余裕のある方は、資料印刷や開示資料複写などの調査研究提言にかかる活動費のカンパをぜひよろしくお願いします!(ページ最下部より。この後は注釈と開示データです。)

<注釈>
(注1)やや古いデータだが、全国の無料低額宿泊所の入所者の保護率は91.4%であり、また入所直前の状況は「路上生活」が62.2%を占める。山田壮志郎「無料低額宿泊所の研究」(2016)明石書店より

(注2)東京都から各区市福祉事務所長にあてた事務連絡「新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言に係る対応にあたっての留意点について」2020.04.17
https://craftmanship.hatenablog.jp/entry/2018/10/03/160421

(注3)東京都福祉保健局地域福祉課への聞き取りによる。ただし、区市の窓口経由のホテル利用者は、生活保護申請者の他に生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援機関経由での利用者も含まれる。しかしながら後者は現金給付が無いことやホテル退所後の住居確保支援が手薄であることから、途中で生活保護へ切り替えた利用者も多く、最終的には生活保護利用者の割合が非常に高かったものと推察される。

(注4)東京都議会 令和2年7月21日の厚生委員会にて。該当部分はインターネットアーカイブから、3時間38分のあたりから。
https://metro-tokyo.stream.jfit.co.jp/?tpl=gikai_result&gikai_day_id=193

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