見出し画像

だから僕は音楽を辞めた。だから、

ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」って曲を彼女に聴かせたら現実に気付いたみたいで「いい加減、音楽辞めろ」って次の日、あっさり振られた。
直接会える距離だし、LINEもあるのに大して絡んでないTwitterのDMで別れを告げるってどうなのか、と思いつつ俺も元カノと過ごした3年を清算する意味も込めて本当に音楽を辞めることにした。

自分が音楽で特別な人間になれるような気がして続けてきた。けど最後に気づいたのは自分が誰でもないって事実だけだった。
だから俺は音楽を辞めることにした。だから、

ギターを売ることを決めた。

週末になり、いよいよギターを売る日が来た。
でもピックや楽譜をゴミ箱に放り投げ、ギターをケースに入れても特に思うところが無くて、自分が思う以上に音楽に冷めてしまっていると気付いた。

苦労して貯めた金で買った10万円のギターは、もはや時代遅れな近所のリサイクルショップで1万円と言われた。寝てるのか起きてるのか分からないようなオッサンの店員に「差し引き9万円がお前の青春の値段な」と言われた気がした。

その顔にムシャクシャしたこともあり、その1万円は元カノを酒に誘う口実に使った。今日の出来事を語る俺を見て元カノがポツリと「音楽を辞めた今のあんたの方がカッコイイ」と言った。

元カノは俺よりも俺のことを分かっていた。だから俺に音楽を辞めさせるため振ったんだと気付いた。

事実、音楽を追わなくなり、音楽に追われなくなった今、何とも開放的で自由な気持ちになっていた。自分を苦しめる存在もない、これから何をしてもいい、そう思うと何だかワクワクしてきた。
遠足の前の日みたく心臓が妙にドキドキしてるのは酒のせいだけじゃなかった。

元カノはというと「今ごろ気づいたかバーカ」みたいな顔でこっちを見ていた。もう愛おしくて抱きたくて仕方がなかった。
だから、もう店が締まるっていうタイミングで「このままウチに来ないか」と言ってみた。すると元カノは少しはにかんだ微笑みを浮かべてこう言った。

「え、もう付き合ってる人いるんだけどwww」

ちなみに店を出る時、会計が1万円を少し超えていて元カノに金を借りた。誰でもない俺の人生なんてこんなもんだろう。

いいなと思ったら応援しよう!