MAIA 月田CEOとのインタビュー〜女性デジタル人材育成・就労支援
株式会社MAIA(以下、MAIA)は「Co-Create the Future 誰もが個として自立し、自由に自分らしく生き、共創できる社会を創造する」をミッションに、女性活躍×地方×ITを掛け合わせて女性デジタル人材の育成・就労における自治体との連携の仕組みを作るなど実績を重ね、女性デジタル人材育成の旗艦モデルを構築している企業です。デジタル人材育成学会では、MAIAが主幹事として設立した「でじたる女子活躍推進コンソーシアム」について、設立の思いや、実際の女性デジタル人材育成の内容、工夫や課題、また今後の展望について、MAIA CEOの月田有香さんに2023年11月初旬にインタビューを実施しました。
【インタビューの主な内容】
でじたる女子活躍推進コンソーシアム設立の背景や思い
女性デジタル人材育成という領域で、SAPやRPAという難易度の高い領域を選ばれた理由、また育成を行っていく上でのコツ
愛媛県や奈良県など各行政機関に強い関心を持たれる秘訣
愛媛でじたる女子プロジェクトを含め、女性デジタル人材育成という観点でのここまでの成果また課題感について
MAIA キャリアサポートプラットフォームを含め、今後の展望について
インタビューアー
デジタル人材育成学会会長 角田仁
デジタル人材育成学会副会長 中村健一
◆ でじたる女子活躍推進コンソーシアムに込めた思い
角田・中村: でじたる女子活躍推進コンソーシアムの設立の背景や思いをお聞かせください。
月田: でじたる女子活躍推進コンソーシアムについてご関心を持って頂きありがとうございます。まずは我々MAIAが事業を行っている「女性活躍推進」という分野の社会的背景についてご説明させてください。
先日世界経済フォーラム(WEF)が「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版を公表しましたが、その中で日本は146カ国中125位と、そのジェンダーギャップ指数は過去最低を記録しました。家事や育児、介護などについて、いまだに女性が担わざるをえない状況があることは、日本の文化的な課題といえるでしょう。また、特に地方においては男女間の賃金の格差が大きく、女性の平均所得の低さがより顕著となっています。
角田・中村: デジタル人材育成学会としても、愛媛県の女性デジタル人材育成の取り組みの中でMAIA様の取り組みを認識しました。
月田: 愛媛県×MAIAの事例に漏れず、我々が地方自治体との対話をしている中で、女性の都市部への流出や地域へのカムバックが難しい状況、つまり地域で女性の活躍人口が減少していることが大きな問題として浮かび上がっています。同時に、地方自治体は女性の力をもっと活用して、状況を改善したいという考えを持っていることも、我々は認識しています。かたや、IT業界では人材不足が深刻化しています。デジタル人材の確保についての議論が広がる中、そもそもデジタル人材が足りていないことが課題となっています。
そこで、女性を対象にリスキリングを行い、IT未経験でもデジタル人材として育成することで、日本社会のIT人材の不足を解消し、女性の活躍の場をもっと増やしたいと考え、でじたる女子活躍推進コンソーシアムを設立しました。
角田・中村: ITの初心者でもチャレンジができるという点が素晴らしいと思います。
月田: ありがとうございます。ITの初心者でも学習が継続できるように、またどんな環境においても学習ができるように、MAIAではeラーニングを含むオンラインの各種教育コンテンツの自社開発を行っています。
デジタル田園都市国家構想の一環として、2026年度までに230万人のデジタル人材を育成するという計画が発表されていますが、私はその中でも女性デジタル人材が重要な役割を果たすと確信しています。女性のライフスタイルが変容していくことも予測される中で、いつでもどこでも学べる環境の創出と高単価で働ける環境の実現が、でじたる女子活躍推進コンソーシアムの目標となっています。
◆ 女性デジタル人材の「育成」だけでなく、「就労支援」までの一気通貫の実践アプローチ
角田・中村: 女性の力を活性化させデジタル人材として育成することで、所得と働く環境という課題を解決する女性個人へのアプローチに加え、日本全体の社会課題つまりデジタル人材の不足や女性躍進という課題を解決する、ミクロ・マクロ両方の社会課題解決を実現するために、でじたる女子活躍推進コンソーシアムを設立されたと理解しました。
具体的にコンソーシアムが取り組まれていることや、アプローチについて教えてください。
月田: ご認識の通り、コンソーシアムのいちばんの目的は、女性一人ひとりが精神的および経済的自立をするために支援することです。そのため、育成をするだけでなく、多様な形での就労支援やその後の女性の活躍推進に包括的に取り組みたいと考えています。リスキリングを受けた多様な女性を活用することの重要性について、全国の企業の方々に啓発することが重要だと考えていますし、またご理解を頂いた企業とは連携を行っています。そして、最終的には内閣府や他の行政機関に政策提言を行い、政治の側面からも少しずつご支援できればという目標でコンソーシアムを推進しています。
でじたる女子活躍推進コンソーシアムは2022年5月15日に、MAIAとSAPジャパン、グラミン日本という三社で立ち上げました。SAPは大手の外資系基幹業務ソフトウェア(ERP)会社です。近年、ビジネスの世界では、特にSAPの人材の枯渇が課題となっており、全国で2万人ほど不足している状況とも言われています。今やコンサルティングファームやシステム・インテグレーターでは、IT人材、特にSAP人材は争奪戦となっており、単価が上昇しています。こうした背景もあって、SAP人材の裾野を広げ、初心者でも活躍できるように、SAPを学び、SAPの世界にチャレンジしてくれる人材を育成しています。
一方で、グラミンはシングルマザーを支援し、経済的自立を目指す方々に無担保無保証で融資をする会社です。グラミンは経済的な面だけでなく、女性のメンタル面でのサポートにも注力しています。
MAIAはコンソーシアムの代表者として、人材育成そのものや、タレント採用パートナー(*1)との連携など、さまざまな分野で活動しています。私たちがハブとなって企業と連携し、女性一人ひとりが社会で活躍するための枠組みを構築しています。
角田・中村: SAP・グラミン・MAIAのコンソーシアムでの役割はよく理解できました。このコンソーシアムの特徴はどう考えられていますか。
月田: 我々のコンソーシアムが大切にしているのが、「育成だけで終わらせないこと」です。リスキリングを受けた人々が企業とのマッチングを自力で行ったり、リスキリング後すぐにプロフェッショナルとして企業に就職するには高いハードルがありますが、そこもコンソーシアムとして支援できないかと考え、ワークシェアリング型OJT(*2)という新しい雇用形態・中間就労の形でサービスを提供しています。これは、例えばSAP導入のためのテスト活動やRPAの開発などの業務への支援のニーズに対し、企業と提携しているMAIAが主体となって育成した女性たちでチームを作って対応するというものです。
この仕組みでは、女性たちはリモートで働きながら学び合い、助け合いながら、企業から依頼された仕事を進めることができます。このアプローチを取ることで、育成(リスキリング)後も「これで終わり」とならず、就労まで一貫してサポートすることが可能です。
この一貫したサポートが、コンソーシアムの大きな特徴の一つです。女性たちの働き方は多様であり、誰もが正社員になりたいわけではありません。副業や兼業を望む人、フリーランスや起業を目指す人もいます。そのため、個々の希望や稼働時間に合わせた多様な働き方を提供することを目標として、このコンソーシアムを運営しています。
角田・中村: 女性デジタル人材育成という領域で、SAPやRPAという難易度の高い領域を選ばれています。育成を行っていく上でのコツもお聞かせください。
月田: MAIAが提供する研修・教育プログラムには、IT初心者の方が多数参加されています。そのため、IT初心者の方でも楽しみながら、実際に働くことをイメージしながら学習できることを重視し、設計しています。SAPとRPA、どちらのカリキュラムも弊社オリジナルのものです。
通常、RPAの開発のためにはマニュアルが提示されます。例えば、RPA開発におけるループ処理(プログラムに何度も同じことを行わせる制御構文)の作成方法などは、システマティックなマニュアルに従って学習を進めることが一般的です。しかし、弊社の場合はIT初心者が多いため、プログラミングやロジックの作り方の基本、変数の考え方などについて、理解しやすく楽しいストーリー仕立ての教材になっています。興味を持ちやすく、楽しみながら学べるようにアニメーションやイラストも活用しており、あきらめずに学習を進められるカリキュラムになっています。
◆ 女性デジタル人材が確実に活躍する舞台を整える
角田・中村: カリキュラムはどのくらいの期間で修了するのですか。また修了後はどのような業務に携わるのでしょうか。
月田: 通常、参加者は4か月程度で約160時間の学習を行い、修了となります。RPAの場合はBizRobo!やUiPathの基礎を学び、設計書があればある程度の開発まで行えるようになります。一方、SAPの場合は、保守運用やSAPのテスト活動、操作マニュアルの作成などができるようトレーニングを実施しています。いわゆるコンサルティングファームの新卒入社の方々が、実業務をできるようになるためのERPの学習カリキュラムのようなイメージでしょうか。
SAPの導入においては、一般的なシステム開発工程の流れと同様に、要件定義から設計・開発、そしてテストやユーザー教育、保守運用などがあります。ただ、そもそも要件定義などのいわゆる上流工程に、最初からお仕事として関わることは非常に稀なので、まずはシステム開発の下流工程を担えるスキルを身につけ、いち早く即戦力になれるように育成しています。そのためワークシェアリング型OJTにおいては、カスタマイズ(ERPにおけるセットアップ)や要件定義の上流部分に携わることはありません。
なぜこのようにしたのかというと、私自身がコンサルタント出身であり、コンサルティングファームに入社した新人はテストなどの定常業務や下流工程を任されるケースが多いことを、経験上理解しているからです。一方で、今は上流工程を担える人材も非常に少なく、RPAやSAPの導入企業においても、上流から下流まですべての工程を遂行するための要員不足が課題となっています。
であるならば、コンサルティングファームが得意とする上流工程は専門家にお任せして、MAIAで育成した「でじたる女子」たちが下流工程をお手伝いすることで、Win-Winの関係を築けないかと考えました。SAP導入の場合、でじたる女子はSAPの基礎知識やテスト設計書に基づいたテスト方法を学び、下流工程から入ってもらうようにしています。
ここが工夫のポイントで、難易度が高くないテスト業務であれば、皆さんあっという間にできるようになります。RPAも同じく、簡単な設計書に基づく開発に関するスキルは、習得も非常に早いです。上流工程の業務はコンサルティングファームやSIerの正社員の方に担当いただき、でじたる女子は下流工程を専門的に担う形ですみ分けをしっかりと行い、SAPのテスト活動やマニュアル作成、RPAの開発などの業務を受託しています。
角田・中村: でじたる女子の活躍の場がしっかりとフォーカスされ、定義されているのが非常に素晴らしいと感じました。提携する企業にとっても、でじたる女子にとっても下流工程や難易度のそれほど高くないRPA開発のお仕事をするイメージも湧きやすくていいですね。実践されてきた上での課題はありますか。
月田: 一番の課題は、企業と契約を結んでプロジェクトを推進するための業務範囲を決める初期のフェーズで、MAIAとして担う業務を明確に定義し、合意できるかどうかという点です。例えば単体テストと一言に言っても、企業によっては設計者が全てを担当するケースもあります。そのため、お客様や提携企業がどの部分を担当し、どの部分をでじたる女子が行うのか、最初の作業支援範囲の取り決めや業務の切り出しが非常に悩ましいのです。ただし、一年経つと企業側も、でじたる女子の活用方法を理解してくださるので各段に仕事が振りやすくなります。
企業の皆さんに考慮いただきたい点は、でじたる女子は完全にリモートかつチームで働いているということです。お客様からテストなどの依頼を受けてプロジェクトチームを組成するのですが、リモート型のプロジェクト推進のイメージがつかないと感じるお客様や提携企業もいらっしゃいます。契約先や提携先にでじたる女子の働き方を正しく理解していただき、活躍できる方法を認識してもらうことにも、まだまだ課題があると感じています。それでも新型コロナウイルスの流行を経て、テレワークの裾野が広がったこともあり、少しずつ理解が広がり、活用方法も増えてくるのではないかと感じています。
角田・中村: 実際就労するにあたって価格の設定はどのようにされているのですか。
月田: ワークシェアリング型OJTで働く女性たちは、完全リモートという働き方ながら、時間単価2,000円前後からスタートしています。対象となる女性たちにとっては1,000円台の仕事が多い中で、リモートで働けて、この単価は好意的に受け止めて頂いています。市場の単価からすると、月単価としては低額の設定だと思いますが、これにはちょっとしたカラクリがあります。でじたる女子一人ひとりは家庭の事情などからフルタイムで働けないケースが多いため、数人のチームで時間を分けながら働くという形をとっています。フルタイムで働ける人があまりいないという事情も、通常の単価より下げることで企業側にも受け入れて頂いています。MAIAとしては納品責任・品質責任を果たすために、専属のプロジェクトマネージャー・コンサルタントが入り、企業とでじたる女子チームの間に入ってマネジメントやでじたる女子の指導・教育をしています。
◆ 着実に実績を作ってきたからこそ見えてきた女性デジタル人材育成の課題
角田・中村: でじたる女子の活躍を支援するため、そして作業範囲の取り決めをきちんとするため、企業とでじたる女子の間にMAIAのプロジェクトマネージャー(PM)・コンサルタントが入られているのがポイントですね。企業・でじたる女子双方に安心感が生まれる体制なのではないかと思います。でじたる女子活躍推進のスキームを継続的に発展させていくにあたっての課題があれば教えてください。
月田: PM・コンサルタントが重要というのは、ご認識のとおりです。一方で、PM・コンサルタントが不足しているのも事実です。PM・コンサルタントには、例えば、SAP導入における長期間の業務経験がある人や、女性のマネジメント、システム開発のプロジェクトマネジメントに優れた人など、一定以上のスキルを有している人が必要なので、そのような人材はなかなか見つからないのが実情です。このPMのロールが我々の仕組みの肝であり、継続的に採用や育成に取り組んでいきたいと考えています。
このPMロールには、でじたる女子に対する教育や指導といった責任もあり、フィードバックやコーチングを含む評価の業務も担ってもらっています。また、評価という観点では、お客様に評価を行っていただく取り組みも最近始まりました。フィードバックや評価は非常に重要で、継続的な能力開発、スキル向上につなげることができるんです。
また、今後のこのスキームの発展という観点では、上流工程についての教育・育成という課題があります。下流工程の業務をマスターした女性たちは、自然と上流工程の業務を担いたいと思われる傾向があります。カスタマイズや開発などに興味を持つ方が出てきているのですが、MAIAとして上流工程のカリキュラムがまだ十分に用意できてはいません。上流工程について学ぶための、新しい教育カリキュラムを作成する必要性があると考えています。
角田・中村: ニーズに合わせて自社で教育コンテンツを作成できることもMAIAの魅力であり、強みだと思います。現在のSAPの教育コースではどのようなことを教えられているのですか。
月田: ITのことを知らない受講者の方もたくさんいらっしゃるので、まずはITの基礎やマインドセットのようなベーシックな内容から始めています。その後、システム開発テストの基礎やSAPの概要、業務の基礎知識を学習してもらいます。業務に関しては、SAPの標準機能でよく対象となる、在庫管理や販売管理・購買管理(SAP用語ではSD・MM)、一般会計(同じく、FI)などを理解する研修を提供しています。MAIAには教育コンテンツを開発するチームがありますが、SAPやRPA導入の経験が豊富なメンバーが在籍していますので、市場のニーズに合わせた「活きた教育コンテンツ」を提供できるのは強みだと思っています。実際にハンズオン環境を用いて伝票登録をしたり、わざとエラーが出るような機能を仕込んだテストをしたり、テストエビデンスを残すなどのプロジェクトワークで想定される実践的な研修も用意しています。
角田・中村: 各地域の自治体の方も本取り組みに大きな関心を寄せられています。愛媛県や奈良県などいろいろな地域で、「でじたる女子プロジェクト」が始まっていますが、自治体との連携の秘訣はありますか。
月田: やはり自治体のできることと民間ができることの役割分担が重要だと思います。自治体は、予算を立てて、事業を作ったり支援をする一方、女性の育成や就労支援に関しては、具体的なところまで踏み込めるケースは少ないと感じています。だからこそ、このコンソーシアムは、教育から就労支援、その後のサポートまでをカバーする一貫したプログラムを提供しているんです。そういった我々の本気度や実績も含めて、自治体の関係者の方々は受け入れていただいているのだと思っています。また、自治体も積極的に横展開を図っており、問い合わせが来るケースが多くなってきています。各地域での取り組みが信頼の蓄積となって、本コンソーシアムの取り組みが選ばれるケースが多いのかなと思います。
角田・中村: 愛媛県でのでじたる女子プロジェクトは、すでに第4期まで開講されています。継続的な取り組みの秘訣やその成果、見えてきた課題などがありましたら教えてください。
月田: 愛媛県は良き事例の一つです。継続できているポイントは、行政との予算編成や国の女性デジタル人材育成に対する補助金など、社会として支援をする仕組みがきちんとあることが大きいと思います。愛媛県では1期、2期を開催した昨年度、33名の女性が学習を修了されました。提携先のコンサルティングファームに就職した方もいらっしゃるなど、愛媛県内でこの仕組みを作り上げたことは大きな一歩だと思っています。
一方で、33名の学習修了者がいたとしても、中にはすぐに働きたいわけではなかったり、正社員のため副業が認められておらず、この仕組みの中で働けない人もいます。女性にはさまざまな働き方のニーズがあるということを、愛媛県とMAIA双方で把握できたので、現在はその多様なニーズに対応する出口をどう設定するかに焦点を当てています。例えば、地元銀行の関連会社に赴いて採用門戸を広げる対話を行うなど、官民連携で就労の機会を創出する営業活動を行っていたりもします。当然成功ばかりでなく失敗もあり、試行錯誤していますが、官民で連携して試行錯誤を継続していくことがポイントだと思っています。
日本中のさまざまな自治体と連携して「でじたる女子プロジェクト」を行っており、今年度の終わりには300人以上の女性が学習を修了します。彼女たちの出口を作っていくために、タレント採用パートナーとより緊密に連携し、新しい可能性を開拓しようとしています。まだまだ頑張らないといけません。
◆ 世界で女性デジタル人材の価値を向上させていく
角田・中村: 今後の展望や目標についてお聞かせください。
月田: 1つ目の目標は、MAIAキャリアサポートプラットフォームの活用です。MAIAキャリアサポートプラットフォームは、SAP社の組織・人事管理ソフトウェアであるSuccessFactorsをベースとして構築し、本年7月に運用を開始しました。これにより、女性たちの学習状況や、修了後の仕事やキャリアに関する情報をデータとして残せるようになり、精度の高いマッチングや支援をできるようになると考えています。例えば、チームを組成する際に、学習やコミュニケーションの状況を分析してより効果的なマッチングを行うようなイメージです。
また、女性が経済的・精神的に自立するためにはどのような支援や施策が必要なのか、社会心理学的な観点とキャリアサポートプラットフォームに蓄積された情報を用いて、大学と研究をしてみたいとも考えています。得られた報酬などの客観的評価と、自分が自立できていると感じたか、希望を持てるようになったかなどの主観的評価を測れるようにして、女性の働き方と自立に関して世の中に情報を提供したいと思っています。MAIAキャリアサポートプラットフォームで得られたデータを活用し、社会に役立てたいなというのが目標・願望ですね。
2つ目の目標としては、現在、円安の影響などで、これまでの日本の当たり前が通用しなくなっている状況をチャンスと捉えたいと考えています。我々の事業に関連するところでは、日本の労働単価がグローバルに比べて非常に低く、逆オフショアになっています。私も今年、シンガポールやニューヨークに行ったのですが、物価の高さに驚きました。日本の価値は、十数年前と比べ、グローバルにおいて低下しているということを実感し、危惧しています。
一方でこれをチャンスと捉えると、テレワークの一般化などにより仕事がどこでもできるようになった今、「グローバル化」はキーワードにもなりえます。実は、でじたる女子には英語ができる方も多いので、IT×英語力を活かして、グローバル企業とコラボレーションできる環境を整えていきたいと考えています。そうすることで、例えば愛媛県や鹿児島県からでも海外の企業とつながって仕事をするなど、活躍できる世界を広げることができます。やはり、日本の女性の皆さんは仕事が丁寧です。どんな仕事でも、チームですごく楽しそうに取り組んでいる現場を見ていると、私自身も誇らしく思います。でじたる女子は、間違いなくグローバルでも非常に品質の高い仕事ができるのではないかと思います。この取り組みを通じて、日本の女性の価値をさらに向上させ、世の中に示していきたいと思います。
角田・中村: 素敵なご展望に感銘を受けるとともに、女性に対して新しいキャリアパスを示せることは素晴らしいことですね。最後に、日本社会としては「年収の壁」の問題もありますが、制度的な課題も含めまだまだ女性進出の難しさもあると思います。今後の日本社会において、本取り組みに関する課題感などあれば教えてください。
月田: 日本の女性が直面している問題の一つは、やはり地域・地方企業における就労の難しさだと思います。例えば、地方の中小企業が職場環境として高単価かつリモートの仕事を提供することは難しい状況があります。また、地方はもともと賃金が安いため、単価を上げるのにもやはり高いハードルがあります。 大手企業はその辺りが整っていて、完全にリモートで働いたり、育児休暇を取ったりできる環境を提供していますが、ほとんどの中小企業はまだそのような体制が整っていません。私たちのクライアントもほとんどが大企業なのは、そのような働き方ができるからです。特に外資系企業はESGやダイバーシティの推進という観点でも進んでおり、東京にある大企業と連携することが、現時点における現実的なアプローチだと考えています。
地域・地方の企業と提携するには、まずはニーズを確認して、業務ヒアリングから始め、最終的にでじたる女子が活躍できる業務範囲を決定する必要があります。双方のニーズを合致させるには、まだまだ課題も多いのが正直なところです。一方で地場で働きたい女性も多いため、環境を整えるサポートが必要だと考えています。MAIAとしても国内の大手IT企業との連携を通して、少しずつマインドセットを含めて社会全体を変えていきたいと思っています。
文責:デジタル人材育成学会副会長 中村健一