尻尾の世界

世間の流れは早いもので。
かつては板状だったデバイスが、バイオロボティクス技術の発達で触手状になるまで、さほどの時間はかからなかった。

幾つもの複合センサとスマート軟材料アクチュエータ、AGI。様々な技術が融合したそれを、皆が三本目の手や尻尾のように使った。伸縮・硬軟自在の棒は単に道具としても便利だったし、一見生物のように見えなくもないそれを、ペットのように扱う者も居た。
今や街中で見る人間の3割くらいは「尻尾」を生やしている。
だが、技術というものにはいつも光と影がある。これは、その影の話だ。

「……それで例の件、進捗は?」
「『尻尾』の動作ログと検屍結果が一致しました」

部下の尻尾についた目玉が、スクリーンにCG映像を映し出す。
ベランダに転がった変死体。数日前、「尻尾」がバイタル異常で通報し、装着者が死体で見つかった。奇妙なのは……その死体が、自身の「尻尾」に串刺しにされていることだった。

「犯人はわかったか?」
「……被害者は直腸へ『尻尾』を挿入後、偶然ベランダで転倒。結果、偶然にも『物干し竿モード』が起動したようです」
「セーフティは?」
「当日の気温と体内温度が偶然同じだったようで……メーカーは仕様内と」
「……事件性はなさそうだな。製品事故例として情報共有、処理を頼む」

せいぜいが、説明書の注意書きが増える程度か。

「どうしてこんなことに……」
「棒があれば、穴に入れたくなるのが人間だ。古事記にも書いてある」
「入れる棒と穴を間違えてるんですよ」
「場所もな。それで滅びた国もある……全く、昔からの注意書きを守っていればこんなことにはならなかったのにな」
「なんです」
「こうもんであそばない」

部下の尻尾を見る限り、ウケは微妙だった。

この件は、警察に偶にある爆笑ネタなのだが。俺は、ある非合理的な疑念を捨てられずにいた。
偶然が多すぎる。本当に事故なのか? 例えば……尻尾が人間の方を操っていたとしたら? と

いいなと思ったら応援しよう!