二段ジャンプスケア

「知ってる? 旧校舎裏で幽霊が出るらしいよ」

 休み時間、前の席の彼女はアタシにそう言った。

「……ふーん」
「タカミちゃん、こういうの好きでしょ。ただ、条件があって……二段ジャンプすると出るらしいよ」

 思わず、ズッコケそうになる。

「つまり、校内に二段ジャンプできる怪人がいるってこと?」
「よく考えるとそっちのが怖いかも……」

 いかにも彼女らしい雑な話だったが、不思議と悪い気はしなかった。興味もないくせに、アタシに話を合わせるために、いちいちこういうネタを仕入れてくるのだから。

  ◇  ◇  ◇

 放課後、アタシは旧校舎裏にいた。別に信じたわけじゃないけれど、これもまた、話のネタというやつだ。
 じゃあ、アタシは二段ジャンプできるのかって? そんなわけはない。なら、どうするのか? 

 答えはとても単純。誰かにやって貰えばいいのだ。
 学校では禁制品のゲーム機……スミッチのボタンをタイミングよく押し、ニンジャのキャラを二段ジャンプさせる。まあ、ニンジャなら二段ジャンプくらい朝飯前だろう。

 その瞬間。

 バンッ!

 と大きな音がして、人のような形をした真っ赤なシミが、罅割れた旧校舎の壁に浮かび上がった。

 これは、あれだ。
 ゲームでもよくある、ジャンプスケアというやつだ。

「……暗くなければホンモノでもこの程度よね」

 強がりみたいに呟き、

「まったく、こういう演出がホラーを安っぽくするんだから」

 静寂の中に、アタシの独り言だけが響く。そして、

「タカミチャン」

 声が、聞こえた。
 真っ赤なシミの、「中」から。

 アタシは驚きのあまり跳び上がり。そして、あり得ないことに……そこから、もう一度、跳び上がった。
 その感覚の正体に、何故だかアタシは察しがついた。

 あぁ、魂が抜けているんだ、と。

 これからアタシはどうなるのだろう? いや、それよりも前に。何故だか名前を思い出せないけれど。「あの子」は、一体誰なんだっけ?

【続】

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