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直進する模範囚

何回でも確認したいけど、「大学生を自分史の夏休みと見て、社会人まであっという間だから充分満喫してね」という構図は、社会人を一種の死と捉えている。

「生と死を分断し、死までを熱心にカウントダウンして、生の有限性を強調する」という構図から、僕たちはどうしても逃れられない。

似たような人生訓の分流、同様のカウントダウン癖が、人生のあらゆるステージで繰り返され、時間飢饉の心性が何重にも刷り込まれている。

ステージの転換点をアナウンスし、これを急かす人間は、どうせ数年も遡ればその時分にそのまた上の人間から通り一遍の御触れを受けている。そしてまるで録音機の如く、同じワードを再生する。

僕たちは何とかしてstageとageを一致させたがる。
同世代が同時に同じキャリアの選択を行うという常識。
隊列を乱さずに一斉行進する集団さながらの画一的な生き方。

そんなに急かされて、ステレオタイプのステップ踏まされて、あなたの心はどこへ行きたいのか。あなたの自己像は何者に向かっているのか。あるいは、もはや何者にもなりたくないのか。

与えられた序列の、所与のてっぺんに向かって、借り物のステータスのレッテルを掲げて、脇目も振らず、疑いもせず、何も考えずに走っていく。

そうして辿り着いた場所に待っているのが、有り体の褒め言葉、陳腐な感動、手垢のついた過去、手触り感のない現在、空虚な未来像だったら、何を思うんだろうか。

受け取ったメッセージ通り、与えられた役割通り、額面通りの模範生。僕たちはそこで初めて、鏡に映るのっぺらぼうの顔のない自分に問いかける。ほんとうにそれでよかったのか。

選択肢が増えれば、人々はもっと自分らしい人生の道筋を描くようになるはずだ。僕たちは古い働き方や生き方に疑問を投げ掛け、実験することを厭わず、生涯を通じて変身を続ける覚悟を持たなくてはならない。

踏み出す1歩目に、踏み込んだ1歩目に、慣れてきた10歩目に、苦しい30歩目に、折り返した50歩目に、目前の75歩目に。後ろを振り返ろう、意見を変えよう、一貫を恐れよう、何度でも問おう、あなたはあなたを生きているか。

与えられた価値観の塗り直し、陳腐なステレオタイプの何億人目。そういう人間になっていないか。

コースを間違えない。時間通りにゴールする。ルールに忠実に、直進する。僕たちは優秀な模範囚だ。

そんな額面通りの愚痴を呟く模範囚がまた1人。

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