歯を同時に5本抜いた女の話②
前回の話はこちらから↑
あれから1ヶ月後、隣町の病院へやってきた。
この1ヶ月の間に推しのイベントが台風の影響を受けて中止になったりとてわやわんやしていたが、とりあえず振り替え日を設けてくれることが決まり、行ける事にはなったから一安心と親知らずどうこうよりもこの期間はそっちの事ばかり考えていた。
病院に到着後、歯科へ行き受付のお姉さんから地元の歯科で書いてもらった紹介状を渡し、初診なので問診票を書く。それからレントゲン、CTを撮りに。確かに他の科もめちゃくちゃ混んでる。仕事前に病院を終わらせたかったので9時予約で行ったが既に待合室のイスはいっぱいだった。こりゃ予約も1ヶ月後になりますわな〜とレントゲンとCTを取った足でそのまま診察室へ。
担当の先生が俳優の鈴木浩介さんにそっくりなまつげバッサバサの可愛い男の先生(40代位と予想)でそこでもう、はい!先生に歯抜いてもらいまーす!と言ってはいないが心の中で宣言する。
鈴木先生(鈴木浩介に似てるから鈴木先生と呼ばせてもらいます)はCTを見るなり、
「親知らず3本生えてるところを抜くって聞いてたんだけどね〜。この感じ…見ていくとね5本抜く事になりそう」
と私のCTの写真をアップにしたり、引きにしたりを繰り返すから自分の顔の骨格というか鼻の穴の形とかが面白く見えてきて笑いを堪えるのが辛かった。あれ…わざと?(そんな訳)
要約すると生えてる親知らず3本を抜くのは先生も同意見だった。で、左下の真横に埋まって生えている親知らずは絶対に今後生えてくる事は無いから、それなら歯茎を切って抜いた方が将来的にも良いかもしれないと。で、4本抜く事が決定。
あともう1つちょっと見て欲しいんだけどね…と鈴木先生は私にまたあの面白CT写真を見せてくる。
実は左下の奥から3本目に学生時代に治療した銀歯があるのだが、どうやらその歯の調子がかなり悪く、歯の根っこが腐ってきているようでそれも抜いた方が良いとの事だった。
確かに地元の歯科でもなんかこの歯の根っこ怪しいけどレントゲンにちゃんと映らないから何とも言えないからCT撮ってもらったら分かるかも、って言われた事を思い出した。
「これもね〜抜いた方が良いと思うんだ。将来的に多分根腐れして歯周病とかになるリスク高いだろうから…」
「じゃあ抜きましょう!」
先生が言うなら間違いない!正しい!とイエスマンな私は即決で抜く事を決意。こうして5本歯を抜く女がこの世にひとり誕生したのだった。
そこからどういう風に歯を抜いていくかの話が始まった。まずは局部麻酔で抜くか入院して全身麻酔で抜くかと聞かれたが、抜歯初心者には違いが分からず局部麻酔だとどんな感じになるんですか?と聞いたところ、麻酔が効いている時間は最大2時間で抜ける本数は2本までと言われた。
そして抜歯後は翌日、口の中の様子を見せに来たり1週間後に抜糸に来なければならない。
抜ける本数は2本…?わし、5本抜くんやぞ?そんなちょこまかちょこまかやってたら仕事、時間給とか有給とか使わなきゃいけないんじゃないの?
えー…有給は自分の為じゃなくて推し活に使いたい!とここでも推しが頭をよぎるクレイジーガールは先生にとある質問をした。
「じゃあ先生。入院して全身麻酔で手術したら5本まとめて引っこ抜けますか?」
「全身麻酔なら可能だよ」
あ、可能なの…ふーん。
「じゃあ先生、入院して全身麻酔で手術お願いします」
そうです。私はこういう女なのです。休みの事もありますが、1、2本抜いては痛い痛いとしょげしょげするなら5本抜いたって痛いんだからだったらいっぺんに抜いてまとめて痛い方が良い!というおばかっちょなのです。こうして私の全身麻酔による2泊3日の入院、抜歯手術がめでたく(?)決まった。
入院も決まり、じゃあいつ頃入院しますかねの話になるのかと思いきや
「入院して抜くならその銀歯のところ、状態の良い(この場合歯の根っこがまっすぐ生えているやつのこと)親知らず、移植しちゃおうか。インプラントの差し歯にするよりも自分の歯の方が値段も安いしリスクも少ないしね 」
と言われた。
歯?じゃなくて…は?自分の抜いた親知らずを移植…?どゆこと????とスペースキャットみたいな顔になっていたのが分かったのだろう。
先生は歯は抜いてすぐに神経は死んでしまうけれど、歯の骨なら隣の歯の骨と暫くがっちり接着する事でその部分に根付く可能性が高いから結構そうやって移植する人もいるんだよと説明してくれた。でも、根付いたとしても歯として何十年も機能する可能性は物凄く高い訳ではないらしい。
ん〜丁寧に説明してくれたが、あほにはむじぃ。
でもなんか親知らずとして生きていくはずだった物が別の場所で活躍してるってなんか面白いから移植してみるかなと謎の好奇心が生まれ、じゃあ移植もお願いします!!とこの日だけで全身麻酔で一度に5本歯を抜き、親知らずを違う場所へ移植される女という謎の肩書きが生まれたのだった。